ギリシャ神話の怪物たちの父とも言えるテューポーン(テュポン、テューポース、あるいはテュポーエウス,チュポエウス)
TYPHOEUS (Typhon) - Monstrous Giant of Greek Mythology
ギリシャ神話には,数多くの怪物が登場しますが,その怪物たちの父ともいえる存在がテューポーン(テュポン,テュポーエウス,テュポエウス).
“ゼウスがティタンどもを 天から追放されたとき 巨大な大地(ガイア)は 末っ子 テュポエウスを生まれた”(ヘシオドス 神統記 高津春繁訳)
100のへびの頭をもち,口から火を吐き,ももから下はへびの形で,世界の端から端に達するほど巨大な化け物.
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テューポーン2
ガイア(大地)とタルタロス(奈落)の子.
ケルベロスをはじめ,ヒュドラやキマイラ,オルトロスなどの怪物は,テューポーンがエキドナと交わってもうけた子とされています.
どの子,どの孫も有名な怪物たち.
星座となったとされる者どもも多く---
ラードーン:りゅう座
カウカーソスの鷹(テューポーンの子供ではないかもしれません):わし座
ネメアーの獅子:しし座
テューポーンは,ゼウスに匹敵する強大な力を持つ怪物.
偽アポロドーロスによれば,
アポロドーロス ギリシャ神話 高津春繁訳
“テューポーンはとぐろを巻いてゼウスをしっかりとつかみ,鎌を奪って手と足の腱を切り取り,両肩にのせて海を越えて彼をキリキアーに運び,着いてからコーリュキオンの岩穴中に押し込めた.”
切り取られた腱をヘルメースとアイギパーンが盗みだし,ゼウスにつけたため,ゼウスは再び本来の力を得たとのこと.
ヘーシオドスの神統記には,このゼウス幽閉の逸話はありません.しかし,ゼウスとテューポーン(テュポエウス)の激しい戦いを次のように描いています,
ヘシオドス 神統記 廣川洋一訳 岩波文庫
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だが ゼウスが激しく苛烈に雷を打ち鳴らせば 大地は あたりに
物凄く 響動(とよ)み また 上空の広い天も
海も 大洋の流れも 大地の深淵(タルタラ)さえも鳴り響動(とよ)んだ.
彼の不死の脚もとで 大いなるオリュンポスは 打ち揺られた
この神(ゼウス)が奮起されると.大地も呻(うめ)きの声をあげた.
そして 菫(すみれ)色の海を摑(つか)んだのだ 両者からの炎熱すなわち
雷鳴と雷光 かの怪物から吹き上がる火炎
稲妻伴う烈風と 燃えさかる雷電の炎熱が.
大地はすべて そして天も地も 煮え立った.
長い波浪が 海岸一帯を荒れ狂った
不死の神々の攻撃の下で.また 際限のない震度が起こったのだ.
地の下の死者たちを治めるハデスは 恐れ戦(おのの)き
クロノスの傍に棲む タルタロスの奥底のティタンたちも 怖気を振った
その涯(はて)しない喧噪と怖るべき戦闘のために.
だが いまやゼウスは その力を奮い起し 彼の武器すなわち
雷鳴 雷光 燃えさかる雷電を 鷲摑みにするや
オリュンポスから 踊り出して 撃ち
怖ろしい怪物の 驚くべき首(こうべ)を あたりにことごとく焼き払われたのだ.
さて ゼウスが彼(か)の怪物に痛撃を加えて撃ち殪(たお)すと
彼は よろめき仆(たお)れて 脚曲りとなり 巨大な大地は 呻きの声をあげた.
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だが ゼウスは 怒りに燃えて この者を広いタルタロスへと 投げ込まれた.