エキドナ2 ギリシャ神話怪物の系譜2 怪物たちの母エキドナ.ヘーシオドスはうたいます “さて,乱暴で無法者の 怖るべきテュポエウスが 煌(きら)めく眼の娘(エキドナ)と情愛の契りをしたといわれている. やがて身ごもった彼女は頑(かたく)なな心をもつ子供らを生んだ すなわちまずゲリュオネウスの牧犬オルトスを つぎに 争(あらが)いもならず名を呼ぶことも憚(はば)られる 生肉喰うケルペロスを-----

ギリシャ神話の怪物たちの母といってよいエキドナ.

Apollo slaying the dragon Python | Athenian black figure lekythos C6th B.C. | Musée du Louvre, Paris

アポローンとフィトーン・エキドナ

Apollo and Python-Echidna, Athenian black-figure lekythos C6th B.C., Musée du Louvre

ECHIDNA (Ekhidna) - Serpent-Nymph Mother of Monsters of Greek mythology

 

ヘーシオドスは,次のように描きます.

 

ヘシオドス 神統記 廣川洋一訳 岩波文庫

f:id:yachikusakusaki:20191008004240p:plain

 

さて,乱暴で無法者の 怖るべきテュポエウスが

煌(きら)めく眼の娘(エキドナ)と情愛の契りをしたといわれている.

やがて身ごもった彼女は,頑(かたく)なな心をもつ子供らを生んだ

f:id:yachikusakusaki:20191011000930j:plain



すなわちまずゲリュオネウスの牧犬オルトスを

つぎに 争(あらが)いもならず名を呼ぶことも憚(はば)られる

 

生肉喰うケルペロスを生んだ これは冥府(ハデス)の 青銅の声もつ番犬で

五十の首をもち 残忍で 手のつけられぬものである.

 

また三番目に 破滅のもとを心得る レルナのヒュドラを生んだが

この者を腕(かいな)白い女神ヘラが育みたもうた

力強いヘラクレスに鎮(しず)めもならぬ恨み抱いて.

ところが これ(ヒュドラ)をゼウスの息子で

アンピトリュオンの血をひくヘラクレスが 容赦を知らぬ青銅の刃にかけて

撃ちとったのだ 尚武のイオラオスとともに 軍勢を導くアテナの謀によって.

 

さて女傑は 手のつけられぬ火を吐くキマイラを生んだが

これは 怖るべき怪物で 体躯巨大 脚も迅(はや)く 剛力であった.

怪物(キマイラ)には三つの首があって ひとつは 目つき鋭い獅子の首

ひとつは牡山羊(キマイラ)の首で もう一つは猛だけしい竜(ドラコーン) 蛇の首であった.

[前は獅子 後ろは竜 まん中は牡山羊で 燃えさかる火の勢いをすさまじく吐くのだった.]

この女怪(キマイラ)をペガソスと気高いペレロポンテスが撃ちとった.

 

だが女怪(キマイラ)はまた テバイ人らの破滅の因(もと) 忌まわしいピックス(スピンクス)を生んだ

オルトスの愛をうけて.

 

またネメアの獅子を生んだが

この獅子を ゼウスの栄ある妃ヘラが育みたまい

人間どもにとっての災厄として ネメアの山峡(さんかい)に棲まわせられたのだ.

この獅子はここに棲みついて 人間どもの族を喰い殺し

ネメアのトレトスとアペサスの山を支配した.

だが これを力強いヘラクレスその人が撃ち斃(たお)した.

 

さてケトは ポルキュスと情愛の共寝して 末子

恐るべき蛇を生んだ この者は大いなる涯(はて)

 

暗い大地の奧処で 黄金の林檎を見張っている.

これがケトとポルキュスから生まれた族である.

 

f:id:yachikusakusaki:20191011000955j:plain

 

エキドナの子として怪物たちの名前を記しているもう一つの原典が偽アポロドーロス「ビブリオテーケー」(日本語訳ギリシャ神話).

 

the Theoi projectのサイトの記載から

ECHIDNA (Ekhidna) - Serpent-Nymph Mother of Monsters of Greek mythology

 

エキドナの子として次の二怪物は共通

キマイラ,オルトロス

 

ヘーシオドスのみがエキドナの子としているのが

ヒュドラー,ケルベロス

 

アポロドーロスは:

ヘーシオドスがキマイラの娘としたスピンクス(スフィンクス),並びに

母はケートーとしたラードーン(Ladon,  Hesperian  Dragon)を,

エキドナの娘/息子としています.

加えて次の二怪物も

カウカーソスの鷹,パイア(クロミュオーンの猪) 

 

このような怪物たちの母であるエキドナ

自身の両親の名は,はっきりしていません.

最も信頼に足るヘーシオドスの記述が曖昧なことが,その要因.

母の名前を記載せず,単に代名詞(英語では“she”に相当)で記載し,この“she”が誰を指すのかがはっきりしない----

 

第一候補:カリロエー

日本語版「神統記」の訳者廣川洋一氏は

だが彼女(カリロエ)は----」

とエキドナの母は,ゲーリュオーンの母であるカリロエーとしています. 

 

ヘシオドス 神統記 廣川洋一訳 岩波文庫

だが彼女(カリロエ)は 別の争(あらが)い難い怪物 

死すべき身の者どもにも神々にも似ない

頑(かたく)なな心もつ神さびたエキドナを生んだ 空ろな洞穴のなかで.

 

第二候補ケートー

一方,the Theoi project のサイトにある英訳文訳註では,

"she" は,ケートー(Ceto);メドゥーサたちゴルゴーン三姉妹の母.

 

But she [Keto (Ceto)] bore [to Phorkys (Phorcys)] another unmanageable monster like nothing human nor like the immortal gods either, in a hollow cave.

 

第三候補ガイア

さらに,このヘーシオドスの記述とは別に,

エキドナは,タルタロスとガイアの娘,

すなわちテューポーン(テュポエウス,テュポーエウス)の兄妹とも言われています.

 

f:id:yachikusakusaki:20191011001227j:plain