弓と矢筒を持った若い乙女として描かれる,野生動物,狩猟,植物の生長,貞節,出産の女神アルテミス.
この女神の出生について,ヘーシオドスは次のように記します.“とりわけ愛らしい子供たち”として.
レト(レートー)は アポロン(アポローン) 弓矢を悦ぶアルテミス
天の裔の神々(ウラニオネス)のなかでも とりわけ愛らしい子供たちを生まれた
(ヘシオドス,神統記 岩波文庫 廣川洋一訳)
また,アポローンへの讃歌(ホメーロス風讃歌)では,レートーの出産を次のように描きます.
ようこそ,至福なるレートー,あなたこそ名高い子供の母.
主アポローンと矢を降りそそがせるアルテミスを,娘はオルテュギアーの島で,息子は岩なすデーロスの高い峰,つまりキュントス山にもたれ,イーノーボスの流れに沿ったシュロの木のすぐそばで産んだのだから.
(四つのギリシャ神話―『ホメーロス讃歌』より 岩波文庫 逸身 喜一郎・ 片山 英男 訳.)
ヘーシオドスは,レートーを6番目の妻と記しています.ヘーラーの一人前という事になります.
しかし,その後のギリシャ神話作者による記述では,正妻はあくまでヘーラーで,レートーはヘーラーの目を盗んだゼウスにより身ごもり,デロス島での出産はヘーラーにより邪魔をされて困難を極めたとされています.
その様子を詳しく記載しているのがアポローンへの讃歌で,ヘーラーのたくらみによって分娩の女神エイレイテュイアが手伝えなかった様子が描かれています.
yachikusakusaki.hatenablog.com
yachikusakusaki.hatenablog.com
ただ,この物語では,アルテミスの出産は,「矢を降りそそがせるアルテミスを,娘はオルテュギアーの島で」と一言触れられているだけ.手伝いに駆けつけた女神たちが,何とかしてエイレイテュイアを連れてこようとする場面は,アポローンの出産の場面のみ.アルテミスの出産には何の問題も無かった?
一方,偽アポロドーロス「ビブリオテーケー」(ギリシャ神話)では,先に生まれたアルテミスが,アポローンの出産を産婆として助けたと記述しています.
ゼウスと交わったレートーはヘーラーによって大地のあらゆる所において追い立てられ,遂にデーロスに来たって先ずアルテミスを生み,彼女を産婆としてアポローンを生んだ.
(アポロドーロス ギリシャ神話 高津春繁 訳)