アポローン(3) デロス島での誕生1 レートーはヘーラーの前のゼウスの妻とも言われていますが--- 「デーロスよ,ポイボス・アポローンの座となり,豊かな社を設けてくれまいか---」「話によればアポローンは,とりわけ自分の力をたのむお方.軽蔑し,大地の中に押し沈めるのではなかろうか---」.レートーは神々の厳かな誓いをたてた.九日九夜,いっこうに生まれてこない陣痛の,刺すような苦しみを忍びつづけなければならなかった.(エイレイテュイアが手伝わなかったからである)アポローンへの讃歌より

アポローンが関わるよく知られた神話12編を,Theoi project のサイトが掲げています.

APOLLO (Apollon) - Greek God of Music, Prophecy & Healing

原典に沿いながら,一つずつゆっくり取り上げていくつもりです.

この内の幾つかは,かつて本ブログでとりあげたものですが----

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APOLLO (Apollon) - Greek God of Music, Prophecy & Healing 

 

アポローン(3)

ポイボス・アポローンが関わるよく知られた神話の第一は

 

ロス島での誕生 1

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アポローンの誕生は,ほとんどの神々から祝福されたものでしたが,一人ヘーラーのみは不機嫌で出産の場にも立ち会わず,分娩の女神がその地へおもむくことを止めてしまいます.

このいきさつは,ホメーロス風讃歌にあるアポローンへの讃歌で,美しく歌い上げられています.

一部抜粋して掲載したいと思いますが,その前に---.

 

ゼウスは幾人もの妻をめとり,また,ヘーラーの目を盗んで,多くの女神・妖精・死すべき者=人間と交わります.

アポローンの母レートーも,ヘーラーの目を盗んで結ばれたのでしょうか?

アポローンへの讃歌では,レートーとゼウスの関係について直接の言及はありませんが,内容からすれば,ヘーラーがあくまで正妻の地位にあります.

しかし,アポローンへの讃歌(作者不詳,一説ではキュナイトスにより紀元前522年成立)より100年以上前のヘーシオドス「神統記」(紀元前700年頃成立)では,ゼウスは7人の妻を娶り,その6人目がレートー.ヘーラーは7人目.

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ヘーシオドスの後,ヘーラーの嫉妬する場面が多く描かれるようになり,アポローンへの讃歌もその流れにある作品と言うことでしょうか.しかし,ギリシャ神話におけるアポローンの位置づけから考えて,ヘーシオドスの記述が本来の言い伝えではないと---.

素人は混乱してしまいますね.

 

 

アポローンへの讃歌 抜粋1

 

アポローンへの讃歌

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四つのギリシャ神話―『ホメーロス讃歌』より  (岩波文庫

逸身 喜一郎 (翻訳), 片山 英男 (翻訳)

 

 遠矢射るアポローンを,私はいつも心に想い,けっして忘れることあるまい.

ゼウスの館に近づくこの神を前にして,神々は震えおののく.さらに神が間近に迫り輝く弓を絞るとき,一同,席から立ち上がる.

しかし母レートーだけがひとり,稲妻楽しむゼウスのそばを動かない.女神は弓の弦を緩め,えびらに蓋をしてやったのち,その手でアポローンの逞(たくま)しい肩から弓をはずしては,父ゼウスが背にする柱の黄金の釘をかけ,それから,席に案内し座らせる.

 

 父神は息子をあたたかく迎え,ネクタルの入った黄金の杯に与える.

そこで他の神々が着席する.女神レートーは,弓矢もつ力つよい息子を産んだことに心なごませる.

 

 ようこそ,至福なるレートー,あなたこそ名高い二人の子供の母.

アポローンと矢を降りそそがせるアルテミスを,娘はオルテュギアーの島で,息子は岩なすデーロスの高い峰,つまりキュントス山にもたれ,イーノーボスの流れに沿ったシュロの木のすぐそばで産んだのだから.

 

 さあ,さまざまに讃え歌われているあなたのことを,いまさらわたしはどう讃えればよいだろう.

-----(中略)

 

 それではそもそもあなたの誕生が,どのようなものであったか歌ってみようか.

海の流れにはさまれた岩なす小島デーロスのキュントスの峰にもたれかかってレートーが,人間どもの喜びとなるべくあなたを産んだそのときのことを.

鋭い音を立てて風が吹き,黒い波が両側から打ち寄せてくるその島から,あなたは立ち上がり,すべての人間に君臨している.

 

 クレタ島,アテーナイの地,アイギーナ島,

-----(中略)

ナクソス,バロス,岩山勝ちのレーナイア,—

これだけの土地を,遠矢射る神をみごもったレートーは,産気づいて訪れてまわった.

どこか,自分の息子のために館を設けることを望みはしないだろうかと期待して.

 

 しかしどの土地も,恐れを抱き震えあがり,はるかに豊かであるにもかかわらず,ポイボスを受け入れようとはしなかった.

とうとう女神レートーはデーロスにやってきて,翼もつ言葉をかけこう尋ねた.

 「デーロスよ,お前は私の息子ポイボス・アポローンの座となり,豊かな社を設けてくれまいか.今のままではこの先,よその者は誰ひとり,お前に近づくことはない.お前にもそれがよく分ろう.お前が牛や羊に富むようになるとは思えない.穀物も実らず,草木すら乏しいではないか.

 しかし,お前が遠矢射るアポローンの神殿を設けたなら,あらゆる人間どもはここに集(つど)い,100等の牛の犠牲(ヘカトンベー)の儀を執り行なう.煙は脂身(あぶらみ)から絶え間なく立ち昇ろう.ここの土地は肥えていないけれど,他国の者の手になった食べ物で,お前はこの島に住む者を養うこととなろう」

 

 デーロスは喜び答えを返した.

「偉大なるコイオスの娘レートー,私は心より遠矢射る君の誕生を歓迎します.

-----(中略)

 話によればアポローンは,とりわけ自分の力をたのむお方,神々と,穀物実らせる大地にすむ死すべき人間どもを治めることになろうとか.

 だから日の光を初めて見るや,この私を岩がちの土地であるゆえ軽蔑し,足で私をひっくりかえし,大地の中に押し沈めるのではなかろうか.

これこそ私が心底恐れるところです.

-----(中略)

 ただもし女神よ.あなたが女神として堅く,まずアポローンが美しい神殿を人間たちの神託の場となるべく(私の上に)設け,それから万人のために(神殿ややしろをあちらこちらに設けると)と誓ってくださるのなら(私は神の誕生を受け入れましょう).きっと神は名を轟かせるでしょうから」

 レートーは神々の厳かな誓いをたてた.

-----(中略) 

デーロスは遠矢射る神の誕生を大いに祝福した.

 

 しかしそれからもレートーは九日九夜,いっこうに生まれてこない陣痛の,刺すような苦しみを忍びつづけなければならなかった.(分娩の女神エイレイテュイアが手伝わなかったからである)

およそ貴い女神は皆,その場に集まった.

ディオーネー,レアー,イクナイエーテミス(テミスの別名 道を正す女神),轟音たてるアンピトリーテー,その他にも女神はいたが,—白い腕(かいな)のヘーラーはいなかった.雲を集めるゼウスの館にいたのである—,

ただ,分娩の女神エイレイテュイアは何も知らず,白い腕のヘーラーのたくらみにかかり,金色の雲に包まれたオリュンポスの頂きにいた.

(続く)

 

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