1. 「かや(茅or萱)」って何?
20年ほど前のこと,「『かや』って何?」と聞かれ---
都会育ちの私には全く答えられませんでした.恥ずかしいことに.「カヤ」という植物があるのかと一瞬思ったのですが,見たこともないし---.
「かやぶき屋根に使う
ススキ(イネ科ススキ属 ススキについては:ススキとは - 育て方図鑑 参照)
チガヤ(イネ科チガヤ属.「茅」は本来はこのチガヤのこと.チガヤについては:森林総合研究所/チガヤ参照)
スゲ(カヤツリグサ科植物の総称,世界中で約5000種日本にも約200種みられる.カサスゲの葉で笠,シオダク・ショウジョウスゲなどで縄をなう.日本国語大辞典抜粋)
などの総称」
と知ったのはその時のこと(ただ,ススキの別名として用いられることもあるようです).
「草」がカヤを意味することもあったほど,カヤは古来より,そして,昭和30年ぐらいまで,生活の必需品だったのですね.屋根を葺く材料は,やはりススキが一番多かったのでしょう.
ススキとは - 育て方図鑑によれば
「かつては屋根をふく材料としても重要であり、そのため、人里近くには必ず萱場(かやば)と呼ばれるススキを採集するための場所がありました。萱場では定期的にススキが刈られるためにほかの植物が生育する環境が保たれ、植物の種類が多かったのですが、ススキで屋根をふくことがほとんどなくなった現在では放棄されたために、草原性の植物には絶滅危惧種になっているものが多数あります」
とのこと.
そして,草原性の植物だけではなく,草原性の生き物ノウサギやそれを食べるイヌワシの減少にも茅場の放棄・消滅が関与しているようです.
2. 「日本中から茅場が消滅した.ウサギ(ノウサギ)の減少の原因はここにある」
「唱歌「ふるさと」の生態学 ウサギはなぜいなくなったのか(ヤマケイ新書)」で 高槻成紀さんは,
「(唱歌『ふるさと』は,)『ウサギ追いし』で始まるが,この歌が作られた頃には,日本人の多くがウサギを追った体験をしていたということであろう」と書いています.さらに,野生生物による林業被害のデータを示して,戦後しばらく1960年代までは「ノウサギ・ネズミによる被害時代」があったこと,しかもノウサギによる被害の方がネズミより広い傾向があることを示しています.
ノウサギは1960年代までたくさんいて,茅場はこのノウサギが最も多く生息していた場所でした.
そして,ノウサギの減少については,次のように結論づけています(ここでウサギとあるのはノウサギのこと).
「ウサギは戦後もしばらくたくさんいたし,明治時代以降ももちろん多かったが,それでも江戸時代などに比べればかなり少なくなったようだ.----江戸時代,ウサギは本当にあふれるようにいたらしい.それが,明治時代以降,兵士の防寒具としてすぐれていることで大量に狩猟され,個体数は激減したようである.しかし繁殖力が旺盛で,回復力もあったから,江戸時代ほどではないにせよ,昭和30年頃までは狩猟されながらも,ウサギはどこにでもいる野生動物であった.
レジャーの多様化や自然保護思想の普及などによりハンターの数はどんどん減っている.しかも高齢化している.そうであればウサギは回復してよさそうなものだが,実際には明らかに少なくなっている.『獲られていないのに減っている』というのはおかしなことだ.
その答えは茅場の消滅にある.----日本中から茅場が消滅した.ウサギの減少の原因はここにある」
3. イヌワシは絶滅危惧種:生息数は全国にわずか500羽ほど
11月6日NHK「ダーウィンが来た/生きのも新伝説」は479回「イヌワシを守れ!子育て支援大作戦」│ダーウィンが来た!生きもの新伝説
「日本の空の王者、説滅危惧種のイヌワシです。生息数は全国にわずか500羽ほど、各地で手厚く保護されていますが減少に歯止めがかからず年年その数を減らしています。最大の原因は子育ての失敗。近年,ヒナに与える獲物が足りない状況が続いているんです。
そこで、あるイヌワシ夫婦の子育てを手助けをしようと、前代未聞の計画が始まりました.それは、なんと森を切ること。保護とは真逆にも見えますが、イヌワシを救う切り札だと言います.
果たしてその成果は?イヌワシを危機から救うために始まった子育て支援作戦.その一年間に密着します」と番組は始まりました.
森を切った伐採地を狩場とすることで,えさ不足を解消し,子育て支援をしようという作戦です.
番組の最後には7年ぶりに巣立った若鳥の姿を捉えていました!
ただ,やや残念なことに,「雪が例年より少なく,天候が安定していたため.奇跡的に巣立つことが出来た」のであって,「伐採地でイヌワシ夫婦が狩りをする姿は捉えることが出来ませんでした」とのことでした.「イヌワシは狩りをする場所として明確に認識している(自然保護教会出島さん)」らしいのですが.
大好物のノウサギやヤマドリがまだあまり生息していなかったのでしょうね.
この番組は,人工林を広葉樹林に換え,食物連鎖を回復させようという試みを伝えた好感の持てるものでしたが,「茅場」は,直接の話題になっていませんでした.
しかし.個体数減少の要因 | 日本イヌワシ研究会 オフィシャルサイトには次のように書かれていました.
個体数減少の要因は,次のように考えられます.
◎餌不足 ノウサギ・ヤマドリなどの減少
◎生息環境の悪化 奥山開発・大型リゾート開発・拡大造林の推進・騒音
◎狩場環境の減少 人工林の増加・薪炭林や茅場の減少・人間活動の増加
茅場の減少は,えさ不足と狩場環境の悪化を招き,イヌワシの個体数の減少の大きな要因になっていたことは間違いないでしょう.
なお,NHKで紹介されたプロジェクトやイヌワシ保護活動全般については,以下のサイトで詳しく知ることが出来ます.
日本自然保護協会 AKAYAプロジェクト|日本自然保護協会~NACS-J
日本イヌワシ研究会 イヌワシについて | 日本イヌワシ研究会 オフィシャルサイト