ヒオウギ(ぬばたま),アカネ(あたね),ススキ.この三つの植物が詠み込まれたオオクニヌシの歌.スセリビメの返歌と並べてみると,なかなか素敵な歌であることがよく分かります.“色ごとにかけても並ぶ神はいないほど” と書き記されたオホクニヌシ.歌は,女性の気持ちを射抜いたもの. さすがです.“植物をたどって古事記を読む”  

“三浦祐介著 口語訳古事記[完全版]文藝春秋” をテキストとした “植物をたどって古事記を読む”シリーズ. 

 

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ヒオウギ(ぬばたま),アカネ(あたね),ススキ.

 

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たのしい万葉集: 緋扇(ひおうぎ)を詠んだ歌 

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ヒオウギ(ぬばたま)|東アジア植物記|サカタのタネ 園芸通信 

ぬばたまの 夜の更けゆれば 久木生ふる 清き川原に 千鳥しば鳴く 山部赤人 (万葉集 巻六・九二五)

 

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アカネ - Wikipedia 『日本の絞り 安藤宏子の世界』 銀座もとじ

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 日本茜 茜色 - Google 検索

あかねさす 日は照らせれど ぬばたまの 夜渡る月の 隠らく惜しも 柿本人麻呂

  (万葉集 巻二 169)

 

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ススキ - Wikipedia 

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茅葺 - Wikipedia

秋の野の み草刈り葺き 宿れりし 宇治の都の 仮廬(かりほ)し 思ほゆ 

額田女(ひめ)王の歌 (万葉集 巻1・7)

 

この三つの植物が詠み込まれたオオクニヌシの歌.

古事記 神代篇 其の四)

 前々回,前回の内容の繰り返しになりますが---

 

スセリビメの返歌と並べてみると,なかなか素敵な歌であることがよく分かります.

 

 

“うわなり妬み”(本妻が後妻に嫉妬すること)に耐えかねている”

はずのオオクニヌシ

本妻スセリビメに向かって歌います.すっかり旅支度して今にも発とうというさまで.

 

 しかし,訳者・三浦祐介氏はこんな一文を挿入しています.

“まこと,出ていくつもりでござったものかどうかはわからぬがのう”

 

“色ごとにかけても並ぶ神はいないほど”

(この歌の前には,‘高志のヌナカヒメ’と共寝をした逸話が置かれています.)

と書き記されたオホクニヌシ.

歌は,女性の気持ちを射抜いたものといえるのでは?

さすがです.

 

 

(訳文)

ヒオウギの実の 黒い衣を

すきもなく 粋に着こなし

羽繕(はづくろ)いする海鳥よろしく 胸元見れば

着ごこちたしかめ これは似合わず

後ろの波間に ぽいと脱ぎ捨て

カワセミ色の 青い衣を

すきもなく 粋に着こなし

羽繕いする海鳥よろしく 胸元見れば

着ごこちたしかめ これも似合わず

後ろの波間に ぽいと脱ぎ捨て

山の畑に 蒔いたアカネを臼で搗(つ)き

染め粉の汁で 染めた衣を

すきもなく 粋に着こなし

羽繕いする海鳥よろしく 胸元見れば

着ごこちたしかめ これはお似合い

いとしいやつよ わが妹よ

群れ鳥のごと われがみなと旅立ったなら

引き鳥のごと われがみなを引き連れ行けば

泣きはしないと お前は言うが

山のふもとの ひと本ススキよ

首をうなだれ お前が泣くさまは

朝降る雨が 霧に立つごと涙でぐっしょり

萌え出た草にも似た 若くしなやかな妻よ

—お語りいたすは かくのごとくに

 

 (原文書き下し 後半部のみ)

いとこやの いものみこと

むらとりの わがむれいれば

ひけとりの わがひけいけば

泣かじとは なはいふとも

やまとの ひともとすすき

うなかぶし なが泣かさまく

あさあめの きりに立たむぞ

わかくさの つまのみこと

 

スセリビメも酒杯を捧げながら,返歌を歌います.

訳者・三浦祐介氏,ここでは,こんな一文を挿入しています.

“男はこれには弱いよのう”

スセリビメもなかなかのもの.

 

(訳文)

ヤチホコの神よ あたしのオホクニヌシ様

あなた様は 殿がたでいますゆえ

歩きめぐる 島のあちこち

かきめぐる 磯の崎ももらさずに

若くしなやかな 妻もお持ちのことでしょう

あたしなどは おなごですゆえ

あなたのほかに 殿ごは持てず

あなたのほかに 夫(つま)などいない

綾織り仕切りに ふんわりかこまれ

絹のしとねも やわらかに

草布しとねも さやさやとして

あわ雪に似た わが若き胸のふくらみ

ま白き綱にも似た わが腕を

そっと抱きしめ やさしく撫でていとおしみ

なめらかなわが手と たくましいその手をさし巻いて

からめた足ものびやかに 尽きぬ共寝もなさいませ

さあおいしいこのお酒 どうぞお召し上がりを

(訳者挿入 ヤチホコの いとしいお方よ

 —お語りいたすは かくのごとくに)

 

こうして歌を交わし合うと,

お二人はすぐさま酒杯(さかずき)を傾けあって契りを結びなおし,たがいの項(うなじ)に腕(かいな)をまわし合われての,

今に至るまで,末ながく仲むつまじく鎮(しず)まり座すことになったのじゃった.