アカネとススキ “植物をたどって古事記を読む”  古事記では,オホクニヌシ(ヤチホコ)が,妃のスセリビメ(スサノヲの娘)に送る歌の中で登場.アカネ: 山の畑に 蒔いたアカネを臼で搗(つ)き 染め粉の汁で 染めた衣を すきもなく 粋に着こなし.ススキ :山のふもとの ひと本(もと)ススキよ 首をうなだれ お前が泣くさまは---. 

“三浦祐介著 口語訳古事記[完全版]文藝春秋” をテキストとした “植物をたどって古事記を読む”シリーズ.

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今日取り上がるのは

アカネとススキ

 

名前はよく知られたこの二つ.

 

アカネ.

植物としてはなじみがなくても,あかね色は聞いたことがある色名.

 

アカネの根を乾燥させ,煮出した染料で染めた色があかね色.

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日本茜 茜色 - Google 検索

 

あかねさす 日は照らせれど ぬばたまの 夜渡る月の 隠らく惜しも 

柿本人麻呂  (万葉集 巻二 169)

http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2017/08/30/011323

 

アカネは

 

キク亜綱 Asterdiae アカネ目 Rubiales アカネ科 Rubiaceae,

アカネ属 Rubia,アカネ R. argyi

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アカネ - Wikipedia 『日本の絞り 安藤宏子の世界』 銀座もとじ

 

一方のススキ

どこででも目にする植物

とはいっても都会部で見つけるのは結構大変になっているかもしれません. 

鑑賞用として美しい穂.

植物自体は,かやぶき屋根の萱として,広く用いられていました.

 

秋の野の み草刈り葺き 宿れりし 宇治の都の 仮廬(かりほ)し 思ほゆ 

額田女(ひめ)王の歌 (万葉集 巻1・7)

http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2016/10/26/005448

 

ススキは

単子葉類 Monocots,イネ目 Poales,イネ科 Poaceae,

ススキ属 Miscanthus,ススキ M. sinensis

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ススキ - Wikipedia 

 

 

古事記では

神代篇 その四 で

オホクニヌシ(ヤチホコ)が,妃のスセリビメ(スサノヲの娘)に送った歌の中に,アカネとススキが登場

 

スセリビメの“うわなり妬み”(本妻が後妻に嫉妬すること)に耐えかねたオホクニヌシは,出雲から倭へ出立しようとします.

その出立にあたって歌った歌の中.

 

アカネ

 

訳文:

山の畑に 蒔いたアカネを臼で搗(つ)き

染め粉の汁で 染めた衣を

すきもなく 粋に着こなし

羽繕いする海鳥よろしく 胸元見れば

着ごこちたしかめ これはお似合い

いとしいやつよ わが妹よ

 

原文書き下し(アカネはあたねと呼ばれていました.)

山がたに まきしあたねつき

そめきがしるに しめころもを

まつぶさに 取りよそい

おきつとり むなみるとき

はたたぎも こしよろし

いとこやの いものみこと

 

ススキ

 

山のふもとの ひと本(もと)ススキよ

首をうなだれ お前が泣くさまは

朝降る雨が霧に立つこと涙でぐっしょり

 

やまとの ひともとすすき

うなかぶし なが泣かさまく

あさあめの きりに立たむぞ

 

 

この歌の全訳文は次の通り

 

ヒオウギの実の 黒い衣を

すきもなく 粋に着こなし

羽繕(はづくろ)いする海鳥よろしく 胸元見れば

着ごこちたしかめ これは似合わず

後ろの波間に ぽいと脱ぎ捨て

カワセミ色の 青い衣を

すきもなく 粋に着こなし

羽繕いする海鳥よろしく 胸元見れば

着ごこちたしかめ これも似合わず

後ろの波間に ぽいと脱ぎ捨て

山の畑に 蒔いたアカネを臼で搗(つ)き

染め粉の汁で 染めた衣を

すきもなく 粋に着こなし

羽繕いする海鳥よろしく 胸元見れば

着ごこちたしかめ これはお似合い

いとしいやつよ わが妹よ

群れ鳥のごと われがみなと旅立ったなら

引き鳥のごと われがみなを引き連れ行けば

泣きはしないと お前は言うが

山のふもとの ひと本ススキ

首をうなだれ お前が泣くさまは

朝降る雨が 霧に立つごと涙でぐっしょり

萌え出た草にも似た 若くしなやかな妻よ

—お語りいたすは かくのごとくに