杜若を詠んだ短歌(一部再掲)  アヤメと違って古くから歌題となっていたのがカキツバタ.アヤメ,カキツバタの他,エヒメアヤメ、ノハナショウブ、ヒオウギアヤメ、シャガ、ヒメシャガ、ヒオウギが日本に自生するアヤメ属です. かきつばた扇つかへる手のしろき人に夕の歌書かせまし 与謝野晶子  かきつばた一つ残れる紫に梅雨(さみだれ)の池みなぎらんとす 土屋文明  かきつばたふふめる莟(つぼみ)待ちてわがひとり淋しむ六十年を 福田栄一

昨日,アヤメを詠んだ短歌を紹介しました.

https://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2023/04/24/235550

アヤメは日本人に長く親しまれてきた割には,短歌に取り上げられたのは近世以降.

それに対し,古くから歌題となっていたのがカキツバタです.

(今日夕方,平家池を遠くから見たところ,一二輪咲いているように見えました.門が閉鎖されるところだったため写真は撮れませんでしたが---.もし撮れたら差し替えます)

 

カキツバタを詠んだ短歌は,カキツバタの解説とともに昨年取り上げましたが,

https://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2022/05/13/224329

https://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2022/05/14/225447

新たに短歌を加えて,再び紹介します.昨日のアヤメと並べてみたいと思ったからです.

短歌の紹介の前に---

 

日本に自生するアヤメ属の植物

アヤメ属の種は,認められているものだけで310種あるとのことですが(https://en.wikipedia.org/wiki/Iris_(plant)),その内日本に自生しているのは8種とのこと(ニッポニカ https://kotobank.jp/word/アイリス-23897#:).

以下の系統図のうちバックを黄色くした名前が日本に自生するアヤメ属植物.黄色を薄くしてあるのが,帰化した種です.

系統図の下に画像を掲載します.(画像は全てウィキペディアから)

 

https://irisresearch.berkeley.edu/phylogeny/genus-iris/

https://journals.plos.org/plosone/article/file?id=10.1371/journal.pone.0241178&type=printable

 

日本に自生する種

エヒメアヤメ、アヤメ、ノハナショウブヒオウギアヤメカキツバタ、シャガ、ヒメシャガヒオウギの8種

(画像は全てウィキペディアから)

 

日本に帰化している種

(画像は全てウィキペディアから)

 

カキツバタを詠んだ短歌

(古今短歌歳時記より)

 

杜若丹(に)つらふ君をゆくりなく思ひ出でつつ嘆きつるかも  作者未詳 万葉集巻二 二五二一 

 

杜若衣(きぬ)に摺りつけますらをの着そひ猟(かり)する月はきにけり  大伴家持 万葉集 巻一七 三九二一  

 

君が宿我が宿分けるかきつばたうつろはん時見む人もがな  紀貫之 古今六帖

 

おもだかや下葉にまじる杜若花ふみわけてあさる白鷺  藤原定家 拾遺愚草員外

 

これも又山とや見らむかきつばた匂へる色に春のとまれる  本居宣長 自薦歌 

 

さびしくも杜若など植ゑて見ぬはつかに雨のはれし夕ぐれ  金子薫園 山河

 

かきつばた扇つかへる手のしろき人に夕の歌書かせまし   与謝野晶子 舞姫

 

かきつばた一つ残れる紫に梅雨さみだれの池みなぎらんとす  土屋文明 自流泉  

 

杜若むらさきふかく咲く辺(へ)まで昨日はありしさきはひなるかを  前川佐美雄 大和

 

かきつばたふふめる莟(つぼみ)待ちてわがひとり淋しむ六十年を  福田栄一 詠吟

 

燕子花図|根津美術館

総金地の六曲一双屏風に、濃淡の群青と緑青によって鮮烈に描きだされた燕子花の群生。その背後には『伊勢物語』第9段の東下り、燕子花の名所・八つ橋で詠じられた和歌がある。左右隻の対照も計算しつつ、リズミカルに配置された燕子花は、一部に型紙が反復して利用されるなど、一見、意匠性が際立つが、顔料の特性をいかした花弁のふっくらとした表現もみごとである。筆者の尾形光琳(1658?1716)は京都の高級呉服商に生まれ、俵屋宗達に私淑した。本作品は、江戸時代のみならず、日本の絵画史全体を代表する作品といって過言ではない。