ススキ(すすき/薄/芒)を詠んだ短歌1  万葉集で,ススキは詠んだ歌は三六(古今短歌歳時記)とも,四一(楽しい万葉集),四六(ニッポニカ)とも言われています. 数え方によって大きく異なるのは,「かや」を詠んだ歌をススキを詠んだ歌とするかどうか,さらには,「かや」に「草」をいれるかどうかによるようです. 秋の野のみ草刈り葺き宿れりし宇治の都の仮廬(かりほ)し思ほゆ 額田女王  めずらしき君が家なる花薄穂に出づる秋の過ぐらく惜しも 石川広成 

鎌倉・栄福寺跡の公園のススキの穂は,花が開ききって,秋を実感させてくれました.

栄福寺鎌倉市/史跡永福寺跡

源頼朝が建立した寺院.源義経藤原泰衡など,頼朝の奥州攻めで亡くなった武将たちの鎮魂のため,平泉の中尊寺二階大堂等を模して建立され,鎌倉幕府から手厚く保護されましたが,応永12年(1405年)に焼失し,以後は再建されませんでした.

 

 

このところ,秋の草花を話題にしてきましたが,その代表格「秋の七草」を詠んだ歌を改めて紹介しようかと思います.

紹介というのはおこがましく,いつもの通り「写すだけ」ですが----.

萩の花 尾花(をばな) 葛花(くずはな) 瞿麦(なでしこ)の(が)花 女郎花(をみなへし) また藤袴(ふぢはかま) 朝顔の(が)花  山上憶良  万葉集 巻八 一五三八

 

萩,藤袴を詠んだ短歌については,つい最近,取りあげたばかり.

https://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2022/09/17/232436

 

藤袴

https://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2022/09/26/235425

 

今日は,

「すすき/薄/芒」(1)

ススキは万葉集に多くの歌に詠まれ,このブログで何回も紹介してきました.今日はそのまとめといった感じになります.

古今集以降については明日.

 

万葉集で,ススキは詠んだ歌は三六(古今短歌歳時記)とも,四一(楽しい万葉集),四六(ニッポニカ)とも言われています.

 

数え方によって大きく異なるのは,「かや」を詠んだ歌をススキを詠んだ歌とするかどうか,さらには,「かや」に「草」をいれるかどうかによるようです.

かつて(見方によってはつい最近まで),ススキは屋根を葺く素材として最も大切な「茅・萱(かや)=屋根を葺ふくのに用いるイネ科,カヤツリグサ科の大形草本の総称 日本国語大辞典で,集落の周りには「茅場(萱場)」があって,ススキが植えられているのが一般的でした ススキとは - 育て方図鑑

万葉集では,「草」と表記して屋根の材料となる草=かやを詠んだ歌があり,一方,より丈の短いイネ科植物「ちがや 茅萱」も詠われています.

 

一方,ススキの穂は「尾花」と呼ばれ,上記の山上憶良の七草の歌でも尾花が詠み込まれています.

 

ニッポニカによれば,

ススキの名は,細い意味を表すスを重ねたススに草(キ)がついて成立したと考えられる.

オバナは花穂を尾と見立てた呼び名.

カヤはカ(上)屋に由来するとみられている.

とのこと.

 

また,

ススキの漢字表記「薄」は,中国での用法に合致しない,日本でのよみ方.

「芒」とも表記しますが,中国語でススキは芒草.「芒」一字では,“「のぎ」の意をあらわす”(角川 字源)とのこと.(⇒ススキとオギの違いを調べてみた♪︎|🍀GreenSnap(グリーンスナップ)

 

 

万葉集

草/み草/かや

 

わが背子は仮廬(かりほ)作らす草無くは小松が下の草を刈らさね  中皇命(なかつすめらみこと) 巻1,一一

▽あなたが今旅のやどりに仮小屋をお作りになっていらっしゃいますが,若し屋根葺く萱が御不足なら,彼処の小松の下の萱草をお刈りなさいませ

うら若い高貴の女性の御語気のようで,その単純素朴のうちにいいがたい香気のするものである(斉藤茂吉 万葉秀歌)

 

 

秋の野のみ草刈り葺き宿れりし宇治の都の仮廬(かりほ)し思ほゆ  額田女(ひめ)王  巻1,七

▽以前,野の薄を刈って,屋根をこさえて宿ったことのある,宇治の行宮(あんぐう)の仮小屋の容子(ようす)が思い出される.(折口信夫 口語万葉集

▽嘗て天皇行幸に御伴して,山城の宇治で,秋の野のみ草(薄/萱)を刈って葺いた行宮に宿ったときの興深かったさまがおもい出されます.

 かりいほは原文「仮五百」であるが,馬淵の考ではカリホと訓だ.単純素朴のうちに浮かんで来る写像は鮮明で.且つその声調は清潔である.

斉藤茂吉 万葉秀歌:額田王の歌と記載)

 

 

岡に寄せ我が刈る萱(かや)のさね萱(かや)のまことなごやは寝ろとへなかも  作者不詳(東歌) 巻14,三四九九 

▽岡に引き寄せて私が刈る萱(かや)の,その萱(かや)のようにほんとうに柔らかなあの娘はなかなか「寝ましょう」,とは言わないのだよね.

「なごや」は,和やかなこと,柔らかなことの意味と考えられ,この歌では「柔らかな若い女性」のことを示しているようです.(たのしい万葉集

 

 

薄/尾花

 

秋の野の尾花が末(うれ)を押しなべて来しくもしるく会える君かも  阿部虫麻呂 巻八,一五五七

▽秋の野の尾花(おばな)の先が(風に)なびくように,私の心はあの娘になびいてしまったのですよ.(楽しい万葉集

 

めずらしき君が家なる花薄穂に出づる秋の過ぐらく惜しも  石川広成  巻八,一六〇一

▽久しぶりに会ってうれしい君の家のススキの穂が美しい秋が,もう過ぎていってしまうんだなぁ.惜しいなぁ.(楽しい万葉集