藤袴  七草の一つフジバカマの話題をいくつか.1. わが家の藤袴は園芸種の白花ですが,一般的には赤みが混ざった花を咲かせます.園芸店で売られているものの多くはサワヒヨドリとの交配種が多いそうです. 2.フジバカマの学名は,二つあります.3. 「藤袴」の異名「蘭(らに)」  萩の花 尾花葛花(くずはな) 瞿麦の花 女郎花 また藤袴朝顔の花 山上憶良  宿りせし人の形見か藤袴忘られがたき香ににほひつつ 紀貫之   蝶二つ激しく翅を開閉す「万葉の園」ふじばかまの花 日野裕子 

秋の七草の一つフジバカマの話題をいくつか.

 

萩の花 尾花(をばな) 葛花(くずはな) 瞿麦(なでしこ)の(が)花 女郎花(をみなへし) また藤袴(ふぢはかま) 朝顔の(が)花  山上憶良  万葉集 巻八 一五三八

 

1. 様々なフジバカマ?

わが家のフジバカマが開花して一週間以上経ちます.

園芸店から購入したもので,白花.

園芸種ですから,交配・選別されてきた結果でしょう.一般的にフジバカマといえば赤みが混ざった花.かなり前に栽培したことがあります.

フジバカマ - Wikipedia

平らな草地が減ってきた日本では,フジバカマの自生地はほとんど見られなくなっているとか.

NHK趣味の園芸辻幸治氏によれば,園芸店で売られているものの多くはサワヒヨドリとの交配種(サワフジバカマ)が多いそうです.

フジバカマとは-育て方図鑑|みんなの趣味の園芸NHK出版

 

2. フジバカマの学名

ネット上でのフジバカマの学名は,二つあります.

一つは,Eupatorium japonicum.もう一つはEupatorium fortunei.

ニッポニカ(https://kotobank.jp/word/フジバカマ-1585969)は前者,ブリタニカ国際百科事典は後者(https://kotobank.jp/word/フジバカマ%28藤袴%29-124475).

趣味の園芸フジバカマとは-育て方図鑑|みんなの趣味の園芸NHK出版)ではこの二つの学名は同じ種をさしているとしていますが,別品種として解説しているサイトも(跡見群芳譜(野草譜 フジバカマ)).

更にややこしする情報を加えれば,Eupatorium chinenseという学名も提唱されている(

Eupatorium chinense - Wikipedia )---.

 

素人の私には,どれが正しいのか判定する術はいまのところありません.

私にとっては,フジバカマの学名は二つ:Eupatorium japonicum または Eupatorium fortuneiとして,大きな問題はなさそうです.

 

3. 「藤袴」の異名「蘭(らに)」

フジバカマという名前は,日本名としてとても素敵な名前ですね.現在使われている漢字「藤袴」,そのままを意味する名称とのこと.https://kotobank.jp/word/フジバカマ-1585969

冒頭の万葉集の歌は,万葉集でもこの漢字が使われています.

芽之花 乎花葛花 瞿麦之花 姫部志 又藤袴 朝皃之花

 

しかし,万葉集でフジバカマの名称が使われているにもかかわらず---

日本書紀』『拾遺集(しゅういしゅう)』、『源氏物語』(藤袴)、『平家物語』では,
「蘭(らに)」「紫蘭(しらに)」という異名が用いられているとのこと.
 
以下,主にニッポニカの湯浅浩史氏,小町谷照彦氏の解説(https://kotobank.jp/word/フジバカマ-1585969)から.
 
この異名の使用は,紀元前からフジバカマが中国で蘭/蕑(かん)と呼ばれ,その名前が伝わったためのようです.
フジバカマは日本には上代に渡来したと考えられ,日本書紀には,そのまま「蘭」が使われることに.
 

ニッポニカ

「『日本書紀』の允恭(いんぎょう)天皇紀には、のちに皇后となる忍坂大中姫命(おしさかのおおなかひめのみこと)からブユを追い払う鞭(むち)にと庭の蘭をむりやりもらう闘鶏国造(つげのくにのみやつこ)の話が載る。」

 

中国では,後にラン科の植物も「蘭」と呼ぶようになります.

ともに芳香を有するためとか.フジバカマの香りはほとんどないように思いますが,乾燥させると芳香を放つようです.確かめてみる必要がありそう.

なお,両者を区別したいときには,フジバカマを「蘭草」,蘭を「蘭花」と呼んだそうです.

(「蘭草」は,花期のフジバカマを乾燥した生薬の名称としても使われています.「利尿、下熱、通経剤とし、浮腫、発熱、頭痛、生理不順に、又黄疸に用いる」とのこと

フジバカマ01 一般社団法人奈良県薬剤師会

 

日本では平安・鎌倉時代まで,名称として藤袴と蘭が共に使われていたようですが,和歌では専ら「藤袴」と表されていたとのこと.名前の響きのよさに加えて,「藤袴」に花の名前以外の意味を託したためのようです.

 

4. 藤袴を詠んだ短歌

古今短歌歳時記(鳥居正博 教育社)より

 

秋(あき)の野に 咲きたる花(はな)を 指(および)折り かき数ふれば 七種(ななくさ)の花  山上憶良  万葉集  巻八 一五三七

萩の花 尾花(をばな) 葛花(くずはな) 瞿麦(なでしこ)の(が)花 女郎花(をみなへし) また藤袴(ふぢはかま) 朝顔の(が)花  山上憶良  万葉集 巻八 一五三八

 

 

何人(なにひと)か来て脱ぎ掛けし藤袴来る秋ごとに野辺をにほはす  藤原敏行  古今集 秋上 二三九

 

 

宿りせし人の形見か藤袴忘られがたき香ににほひつつ  紀貫之  古今集 秋上 二四〇

 

 

ふぢばかまぬしは誰ともしら露のこぼれてにほふ野辺の秋風  公猷法師  新古今集 秋上 三三九 

 

 

秋雨の小野に恋よぶ藤袴ひとり後れて小野に恋よぶ  釈迢空 釈迢空短歌綜集・拾遺

 

 

藤ばかま川ぎりごもり咲く径を岩魚をさげて人は来りぬ  水町京子 水ゆく岸にて

 

 

蝶二つ激しく翅を開閉す「万葉の園」ふじばかまの花  日野裕子 秋の構図