五穀(2)
“三浦祐介著 口語訳古事記[完全版]文藝春秋”をテキストとした “植物をたどって古事記を読む”シリーズ.
古事記にある五穀の由来は,次の通り:
「すると,殺されたオホゲツヒメの身につぎつぎにものが生まれてきての,
頭(かしら)には蚕が生まれ,二つの目には稲の種が生まれ,二つの耳には粟が生まれ,鼻には小豆が生まれ.陰(ほと)には麦が生まれ,尻には大豆(まめ)がうまれたのじゃった」
五穀という言葉は,日本国語大辞典の引用では,続日本紀(732)に現れるそうです.
しかし,日本書紀の訳文を当たったところ,次のような一節に「五穀」がすでに登場していました.
五穀とは何を指しているか?
コトバンクにある種々の事典・辞典すべてが「諸説ある」と添え書き.
ざっと整理したのが,下の表です.
訂正2023.4.19 :日本書紀の原文を当たったところ,小豆の記載もあり,表を次のように書き換えます.
「諸説ある」とはいえ,日本に限って言えば,
古事記と日本書紀も含め,米・麦・粟・豆は共通.黍(きび)を入れるか,稗(ひえ)をいれるか,小豆を入れるかの違い.といえそうです.
日本では米が特権的な地位を占めてきましたが,古代では,麦・粟・豆(大豆/小豆)もとても大切な食料と見なされていたことがうかがえます.
中国では,麻が入っているのがやや奇妙に見えます.ゴマのことではないかとの記述もありましたが----(五穀(ごこく)とは - コトバンク)
インドの五穀は小麦大麦をはっきり分けていますが,古い時代の中国や日本では,単に「麦」.
“オオムギをはじめ.コムギ.エンバク.ライムギ.ハトムギなど.姿の類似した一連の穀物を.東アジアでは総称してムギと呼ぶ.こうした総称はヨーロッパには存在せず.barley(大麦).wheat(小麦).oat(燕麦).rye(ライ麦)のようにそれぞれの固有名で呼ぶのみである.”(日本語版ウィキペディア)
“単に麦といえばとくにオオムギとコムギとを区別せずに示す場合が多い”(世界大百科事典)
確かに,「麦」を英語翻訳させると,wheatとbarleyの両方が候補として示されます.
気がつきませんでした.
というわけで,
日本の5穀「麦」が,「大麦」を指すのか,「小麦」を指すのかは,はっきりしません.
しかし
・弥生遺跡,遅くとも古墳時代の遺跡からは,小麦も大麦も発見されている.
例えば https://www.jstage.jst.go.jp/article/weed1962/21/2/21_2_49/_pdf https://www.pref.ehime.jp/h35118/1707/siteas/11_chishiki/documents/11_mugi_2.pdf http://www.maff.go.jp/j/pr/aff/1602/spe1_01.html 石毛直道 麺の文化史 講談社学術文庫
・延喜式(927)になると,大麦と小麦が区別されいる.
(日本国語大辞典)
小麦・大麦のどちらも奈良時代には栽培されていたことは確かでしょう.
五穀の「麦」はどちらか一方ではなく,大麦も小麦も表していました.ヨーロッパ人からみれば,六穀になってしまいますが---.