五穀(1)
“三浦祐介著 口語訳古事記[完全版]文藝春秋”をテキストとした “植物をたどって古事記を読む”シリーズ.
今日取り上げるのは,五穀.
神代篇 其の三では,高天原を追放されたスサノヲは,食べ物をオホゲツヒメに乞います.
オホゲツヒメは,その前の神話で,イザナギとイザナミの間に生まれたとされています.スサノオと兄弟姉妹の関係(古事記ではスサノヲはイザナギの鼻から生まれたとされていますが--)になりますね.
(神代篇 其の一)「イザナギとイザナミがまぐわわれての,お生みになった神の名は,-----.つぎにオホゲツヒメを生んだ.---」
大地母神的な性格を持つ神で,偉大なる(オホ),食べ物(ケ),の(ツ),女神(ヒメ).
オホゲツヒメは,鼻・口・尻から食べ物を出し,作り調えますが,わざと穢して作っていると勘違いしてたスサノヲはオホゲツヒメを殺してしまいます.
そのオホゲツヒメの死体から生まれてきたのが,
蚕と五穀;稲,粟,小豆,麦,大豆,でした.
神代篇 其の三 スサノヲとオホムナヂ
高天(たかま)の原からも逐(や)らわれたスサノヲは,さまよう道中で,食べ物をオホゲツヒメに乞うたのじゃ.
すると,オホゲツヒメは,鼻や口,また尻からも,くさぐさのおいしい食べ物を取り出しての,いろいろ作り調(ととの)えてもてなしたのじゃが,その時に,そのしわざを覗いて見ておったハヤスサノヲ(⇒*)は,わざと穢(けが)して作っておるのだと思うての,すぐさま,オホゲツヒメを斬り殺してしもうたのじゃ.(あいかわらずよのう.訳者挿入).
すると,殺されたオホゲツヒメの身につぎつぎにものが生まれてきての,
頭(かしら)には蚕が生まれ,二つの目には稲の種が生まれ,二つの耳には粟が生まれ,鼻には小豆が生まれ.陰(ほと)には麦が生まれ,尻には大豆(まめ)がうまれたのじゃった.
⇒* スサノヲは,タケハヤスサノヲ,ハヤスサノヲとも呼ばれます.タケ,ハヤは猛々しさや威力のあることを讃える接頭語.
スサは地名とも横溢し猛進する力を表すとも説かれる.ノは格助詞,ヲは男の意.
なお,日本書紀でも,死体から五穀が生まれる様子が描かれているそうです.
場面は異なり,
また,小豆ではなく稗(ひえ)が,そして,蚕だけではなく牛馬も生まれるとのこと.
世界大百科事典内の五穀の言及
【保食神】より
…《日本書紀》神代の条の神話では,天照大神(あまてらすおおかみ)の命(めい)により月読尊(つくよみのみこと)がウケモチノカミのもとに行くと,ウケモチが口から飯,魚,獣を出して供応したので,ツクヨミはその行為を汚いと怒り,剣を抜いてウケモチを殺し,アマテラスに報告した.すると,アマテラスは激怒してツクヨミとは二度と会うまいと言い,それで日と月とは一日一夜を隔てて住むのだと説明し,
さらにウケモチの死体の各部分から,牛馬(頭),粟(額),蚕(眉),稗(ひえ)(目),稲(腹),麦・大豆(陰部)ができたという五穀の起源説話を載せる.
日本神話の神様は,実に多様な部位から,様々なものを生み出します.
なお,五穀は,中国・朝鮮更にはインドにもある言葉とのこと.もちろん内容は異なり.また,日本でもいくつかの説があって定まらないとのこと.
これらの点については,明日.