大豆1 大豆は五穀の一つに数えられてきました.その文献的根拠とされる古事記,日本書紀は,当時から大豆が栽培されていたことを示していますが,大豆が本格的に栽培されるようになったのは鎌倉時代とのこと.以降,日本ではタンパク質供給で大きな役割を果たしてきました.同時に,大豆は重要な油糧作物(油の採取を目的として栽培される作物)であり,食品としてはカルシウム,鉄,食物繊維などの供給にも重要な役割を担っています.

日本人にとって,最も身近な豆,大豆.

https://www.mame.or.jp/syurui/feature/syurui_15.html

 

今日から何回かに分けて,大豆を話題として取り上げます.

 

アズキ(小豆),インゲン(隠元),エンドウ(豌豆)に続く豆シリーズの一環としての話題です.

 

大豆1 

(今日の話題の多くは,小豆や五穀を取り上げた時の内容の繰り返しになります)

▽五穀の一つとしての大豆

小豆の稿でも取りあげましたが,大豆は古くから五穀の一つとに数えられてきました.

諸説あるものの,一般的には,五穀は「米,麦,キビ,アワ,豆」(ニッポニカ,日本国語大辞典とされ,大豆の名前は出てきていません.

しかし,古事記日本書紀の記述は,「豆」ではなく,大豆,小豆の名前がでてきます.

 

古事記

神代篇 其の三 スサノヲとオホムナヂ 

(“三浦祐介著 口語訳古事記[完全版]文藝春秋”)

----すると,殺されたオホゲツヒメの身につぎつぎにものが生まれてきての,

頭(かしら)には蚕が生まれ,二つの目には稲の種が生まれ,二つの耳には粟が生まれ,鼻には小豆が生まれ.陰(ほと)には麦が生まれ,尻には大豆(まめ)がうまれたのじゃった.

 

日本書紀  第五段一書(十一)

(Nihonsinwa https://nihonsinwa.com/page/699.html

アマテラスは天界の料理人の天熊人(アメノクマヒト)を地上に下ろして様子を見に行かせました.

ウケモチ神はすでに死んでいました.ウケモチの髪が牛馬に成っていました.

頭からは粟が生えました.眉からは蚕が産まれました.眼には稗(ヒエ)が生えました.腹には稲が生えました.

女性器には麦と大豆と小豆が生えていました.

天熊人(アメノクマヒト)はそれらを全て持ち帰りました.

アマテラスはとても喜び,

「これらのものは,顯見蒼生(ウツシキアオヒトクサ=地上に生まれた人民)を生かすための食料となる」と言いました.

 

ニッポニカの五穀の解説https://kotobank.jp/word/五穀-64530#:等を加えてまとめると次の表のようになります.

(五穀の考え方は,インドや中国にもあるとのこと.)

 

▽日本における大豆の栽培

上記の古事記日本書紀の記述は,当時から大豆が栽培されていたことを示しています.

栽培ダイズの起源地は中国東北部、シベリア、アムール川流域と推定され,考古学的な遺跡調査等から,日本では縄文〜弥生初期には大豆栽培が行われていたと考えられています.ニッポニカ https://kotobank.jp/word/ダイズ-768858ものと人間の文化史シリーズ "" 前田知美 法政大学出版会,)

ただし,大豆栽培がどこまで遡れるか,不明な点も残されているようです.現在の栽培ダイズ(Glycine max )の祖先種であるツルマメ(Glycine Soja/Glycine max subsp. Soja)は,日本各地に自生し,縄文時代にこれを食料としてきたことも明らかになっていて,遺跡サンプルを栽培大豆と見分けるのは難しいようです.

https://ja.wikipedia.org/wiki/ツルマメ

奈良時代にはいると,味噌や醤油の前身である穀醤(こくびしお)として利用され始め,鎌倉時代以降国内で広く栽培されるようになったとのこと(日本豆類協会)

 

▽大豆の栄養

タンパク質・脂質とミネラル

米を食べ続けてきた日本では,最も多くのタンパク質を供給してきた食材も「米」でしたが(日本の食文化史 石毛直道),肉食がタブー視されてきた日本では,魚介類と並んで,豆類がタンパク質補給に重要な役割を果たしてきました.

その中でも,大豆は特にタンパク質含量が高いことが知られています.乾燥豆の場合,多くの豆類のタンパク質が20%程度であるのに対し,大豆は30%を越えます.

煮豆にして比べてみると,肉や魚のタンパク質の50%以上に相当します.

 

日本人にとっては,歴史的に,大豆はタンパク質供給で大きな役割を担ってきましたが,世界的には,大豆タンパク質は,搾油後の動物飼料としての役割をもつと言ってもいいでしょう.

世界で,現在,大豆が果たしている役割は,油糧作物(油の採取を目的として栽培される作物)としての役割にあると言って良いかと思われます.落花生マメ科の植物なのに食品分類では何故か種実類)を除くと,脂質をこれほど多く含む豆は,他にはほとんどありません.

 

また,大豆は肉や魚にはあまり含まれないカルシウムもかなりもっていることが分かります(豆類全般に言えることですが)枝豆のカルシウムはホウレンソウを上回ります.

また,鉄分も多く,肉・魚と同程度含み,枝豆の鉄分含有量はホウレンソウを上回ります.

ビタミン

ビタミンB群は,野菜ではなく肉・魚から主に摂取するビタミンですが,肉・魚には及ばないものの,ビタミンB2ナイアシンは大豆からも供給可能です.

枝豆のビタミンB1は,特に多いとされる豚肉の半分程度.かなり高い数値です.

また,枝豆の葉酸,ホウレンソウを上回ります.

脂肪酸とデンプン・食物繊維

大豆の脂質には,一般的な植物油と同様,飽和脂肪酸の割合は肉より少なく,一価不飽和脂肪酸やn-6多価不飽和脂肪酸が多く含まれます.

また,一般に,豆類は食物繊維が豊富なことが知られていますが,インゲン,小豆などは炭水化物としてデンプンも多く含むのに対し,大豆は,炭水化物としてはデンプンをほとんど含まず,ほぼ全てが食物繊維です.