カガチ/ホオズキ(1)
“三浦祐介著 口語訳古事記[完全版]文藝春秋”をテキストとした “植物をたどって古事記を読む”シリーズ.
今日取り上げるのは,ホオズキ.
古事記ではカガチという古名で,
“その目はアカカガチのごとくに赤く燃えて”
と,あのヤマタノヲロチの形容として登場します.
ホオズキとは - 育て方図鑑 | みんなの趣味の園芸 NHK出版
日本大百科全書によれば,
▽平安時代にはホホツキとよばれ,『本草和名(ほんぞうわみょう)』や『和名抄(わみょうしょう)』にその名がある.
しかも,
▽ホオズキの実を膨らませる遊びは『栄花(えいが)物語』(正編1028~34,続編1092~1107)に記されている.
とのこと.
日本では古来から親しまれてきたんですね.
ホオズキの漢字「酸漿」は中国名.
中国では,漢の時代から記録があるそうです.
▽漢の『爾雅(じが)』に初見し、『神農本草経(しんのうほんぞうきょう)』(500ころ)をはじめとする本草書には,利尿や解熱剤としての効用があげられ,また,葉には苦味があるが,実とともに食用にされると記されている.
日本で用いられているもう一つの漢字「鬼灯」「鬼燈」の由来は調べられませんでしたが---
中国では「金灯」「錦灯籠」とも.( ホオズキ - Wikipedia )
英語ではgroundcherry(ホウズキ属総称), winter cherry・bladder cherry(ホウズキ / ヨウシュホオズキ Physalis alkekengi)などと呼ばれているようですが
Chinese lantern (ランダムハウス英語辞典),
時にはJapanese lantern (Physalis - Wikipedia )とも.
ガクに包まれた赤いホオズキの実は,アジアでもヨーロッパでも灯籠/lantern を思い浮かべさせるのでしょう.
特にChinese lanternは,ホウズキそっくり.
語源については諸説あって---
日本語源大辞典(前田富祺 監修 小学館)には,四つの説が併記されていましたが,決め手に欠けるようです.
この辞書の編集者は,推測として次のように記述.
「ホホヅキのヅキは,カホツキ,メツキなどのツキの連濁形か」
「ホホは,源氏物語の例などから見ると,ふっくらとした顔,あるいはホホからの連想と思われる」
古事記 神代篇 其の三
高天原から追放されたスサノヲ.
オホゲツヒメの身から生まれた五穀の種を,カムムスヒ(高天原に始めに登場した“造化の三神“の一柱)により授けられます.
そして,出雲国肥の河(斐伊川)のほとりで老いた夫婦アシナヅチ・テナヅチとその娘クシナダヒメに出会います.
「お前たちが哭(な)くゆえは何か」と尋ねると,答えて,
「わたちどもの娘は,もともと八人(やたり)いたのですが,コシノヤマタノヲロチが,年ごとにやってきて喰ってしまいました.
今またそやつが来るときが近づきました.それで,泣いているのです」
と答えました.
するとスサノヲは,また尋ねて,
「そやつの姿はどんなか」と問うと
「その目はアカカガチのごとくに赤く燃えて,体一つに八つの頭と八つの尾があります.また,その体には,コケやヒノキやスギが生え,その長さは谷を八つ,山の尾根を八つも渡るほどに大きく,その腹を見ると,あちこち爛(ただ)れていつも血を垂らしております」
と答えたのじゃ.
(アカカガチという言葉は,若い者は知らぬかもしれぬが,真っ赤に熟れたホオズキの実のことじゃ.訳者挿入)