カガチ/ホオズキ(1) スサノヲは,また尋ねて, 「そやつの姿はどんなか」と問うと 「その目はアカカガチのごとくに赤く燃えて,体一つに八つの頭と八つの尾があります.また,その体には,コケやヒノキやスギが生え,その長さは谷を八つ,山の尾根を八つも渡るほどに大きく,その腹を見ると,あちこち爛(ただ)れていつも血を垂らしております」 と答えたのじゃ. 植物をたどって古事記を読む(15)

カガチ/ホオズキ(1)

 

“三浦祐介著 口語訳古事記[完全版]文藝春秋”をテキストとした “植物をたどって古事記を読む”シリーズ.

 

今日取り上げるのは,ホオズキ

 

古事記ではカガチという古名で,

“その目はアカカガチのごとくに赤く燃えて”

と,あのヤマタノヲロチの形容として登場します.

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ホオズキとは - 育て方図鑑 | みんなの趣味の園芸 NHK出版

 

日本大百科全書によれば,

平安時代にはホホツキとよばれ,『本草和名(ほんぞうわみょう)』や『和名抄(わみょうしょう)』にその名がある.

 

しかも,

ホオズキの実を膨らませる遊びは『栄花(えいが)物語』(正編1028~34,続編1092~1107)に記されている.

 

とのこと.

 

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ほおずき遊び - 『工房momo』

 

日本では古来から親しまれてきたんですね.

 

ホオズキの漢字「酸漿」は中国名.

中国では,漢の時代から記録があるそうです.

▽漢の『爾雅(じが)』に初見し、『神農本草(しんのうほんぞうきょう)』(500ころ)をはじめとする本草書には,利尿や解熱剤としての効用があげられ,また,葉には苦味があるが,実とともに食用にされると記されている.

日本大百科全書 ホオズキとは - コトバンク

 

日本で用いられているもう一つの漢字「鬼灯」「鬼燈」の由来は調べられませんでしたが---

中国では「金灯」「錦灯籠」とも. ホオズキ - Wikipedia )

英語ではgroundcherry(ホウズキ属総称), winter cherry・bladder cherry(ホウズキ / ヨウシュホオズキ Physalis alkekengi)などと呼ばれているようですが

Chinese lantern ランダムハウス英語辞典)

時にはJapanese lantern (Physalis - Wikipedia )とも.

 

ガクに包まれた赤いホオズキの実は,アジアでもヨーロッパでも灯籠/lantern を思い浮かべさせるのでしょう.

特にChinese lanternは,ホウズキそっくり.

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Chinese lantern - Google 検索

 

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Japanese lantern - Google 検索

 

語源については諸説あって---

日本語源大辞典(前田富祺 監修 小学館)には,四つの説が併記されていましたが,決め手に欠けるようです.

この辞書の編集者は,推測として次のように記述.

「ホホヅキのヅキは,カホツキ,メツキなどのツキの連濁形か」

「ホホは,源氏物語の例などから見ると,ふっくらとした顔,あるいはホホからの連想と思われる」

 

古事記 神代篇 其の三

高天原から追放されたスサノヲ.

オホゲツヒメの身から生まれた五穀の種を,カムムスヒ(高天原に始めに登場した“造化の三神“の一柱)により授けられます.

そして,出雲国肥の河(斐伊川)のほとりで老いた夫婦アシナヅチテナヅチとその娘クシナダヒメに出会います.

 

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https://www.amazon.co.jp

 「お前たちが哭(な)くゆえは何か」と尋ねると,答えて,

 「わたちどもの娘は,もともと八人(やたり)いたのですが,コシノヤマタノヲロチが,年ごとにやってきて喰ってしまいました.

今またそやつが来るときが近づきました.それで,泣いているのです」

と答えました.

 

するとスサノヲは,また尋ねて,

 「そやつの姿はどんなか」と問うと

 「その目はアカカガチのごとくに赤く燃えて,体一つに八つの頭と八つの尾があります.また,その体には,コケやヒノキやスギが生え,その長さは谷を八つ,山の尾根を八つも渡るほどに大きく,その腹を見ると,あちこち爛(ただ)れていつも血を垂らしております」

と答えたのじゃ.

(アカカガチという言葉は,若い者は知らぬかもしれぬが,真っ赤に熟れたホオズキの実のことじゃ.訳者挿入

三浦祐介著 口語訳古事記[完全版]文藝春秋