役立つ成分を含むアカネ科植物  嗜好飲料コーヒー(コーヒーノキの種の焙煎抽出液)がカフェインを多く含むことはあまりにも有名.クチナシの実は山梔子,アカネの根は茜草として生薬となります.トコンは嘔吐シロップの原料であるとともにアメーバ赤痢の治療に用いられていました.そしてキナノキのキニーネはマラリヤのほぼ唯一の特効薬として長い間用いられました.キニーネの合成過程でみつかった色素は初めての化学染料であり後のアリザニン(アカネ成分)合成の成功と共に有機化学合成の幕開けとなりました.

アカネ科の花4(アカネ科は三年前にも扱った題目なので,二回目のまとめ,その4になります)

 

アカネ科には,人間の生活に役立つ成分を含む植物が多く属しています.既に多く紹介してきましたが,改めて概観してみましょう.

 

ますは,ご存じコーヒーノキ

https://en.wikipedia.org/wiki/Coffea_arabica

https://en.wikipedia.org/wiki/Coffea_canephora

嗜好飲料として世界を制した感もあるコーヒー.

(生産量はまだ茶葉の方がかなり多いようですが).

含まれる成分としては,カフェインがあまりにも有名です.

全日本コーヒー協会のデータでは,コーヒー100mlに60mg(0.06%)含まれているとのこと.ただし,カフェインはコーヒーに限ると言うことはなく,お茶にもかなりの量が含まれている事はご存じのとおり.

https://coffee.ajca.or.jp/webmagazine/library/facts/

なお,チョコレートの場合はハイカカオ(カカオマス70%)で84mg/100g,ミルクチョコレート28mg/100g程度だそうです.https://delishkitchen.tv/articles/1136

 

カフェインの薬理作用としては,中枢神経の興奮作用が広く知られていますが,他にも末梢神経拡張,利尿,胃酸分泌など様々な作用をもつので,

https://www.nestle.co.jp/sites/g/files/pydnoa331/files/asset-library/documents/nhw/interview10.pdf

https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00070335.pdf

私のようにコーヒーを飲み過ぎていると何かが起こるのでは?と時に思ったりします.

コーヒーノキの種子には,カフェイン以外にも沢山の成分が含まれ,これを焙煎・抽出した飲料には,焙煎過程でできた物質も加わった沢山の成分が含まれている事は間違いありません.分析し尽くすのは至難の業でしょうが,そこは世界の飲料コーヒーですから,かなりのことがわかってきているようです.

例えば,コーヒーの苦み成分は,長い間カフェインが主と考えられてきましたが,カフェインレスコーヒーでも十分苦みがあることでわかるように,コーヒーの苦みの1〜3割程度がカフェインによるもので,残りは焙煎によって強まってくる他の成分(例えばクロロゲン酸ラクトン/ビニルカテコールオリゴマー)が担っているそうです.

コーヒーの科学 「おいしさ」はどこで生まれるのか (ブルーバックス) 旦部幸博」

 

アカネ科には,医薬品として利用されてきた植物が沢山属します.

例えば,現在は鑑賞用とされるクチナシ

https://www.gardenia.net/plant/gardenia-jasminoides-fortuniana

果実は,生薬「サンシシ(山梔子)」として知られ,ゲニポシド,クロシン(色素成分)を含みます.消炎、止血、利胆、解熱、鎮静をもつとされます.

https://www.takeda.co.jp/kyoto/area/plantno174.html#:~:text=生薬名:サンシシ(山梔子),

https://www.nikkankyo.org/seihin/shouyaku/06.htm

アカネの根にも薬理作用があり,生薬名は茜草(センソウ).止血,通経作用をもつとされます.薬理成分は染料として利用される色素成分と同じものがあげられています.

https://www.pharm.kumamoto-u.ac.jp/yakusodb/detail/006566.php

(アカネ色素は,かつて食品にも用いられていましたが,現在は使用禁止になっています)

 

嘔吐剤の原料として根が利用されてきたトコンもアカネ科です.

https://ja.wikipedia.org/wiki/トコン

https://www.takeda.co.jp/kyoto/area/plantno186.html

ブラジルの熱帯雨林に分布し,嘔吐剤としての利用とともにアメーバ赤痢の治療にも用いられてきました.薬理作用をもつエメチンの単離は,その後の「アルカロイド」化学の進展にも大きく寄与したとのこと.

 

そして,アカネ科の植物で,その薬理作用が最も知られているのが,キナノキ.マラリアの特効薬として長い間使用されてきたキニーネを含みます.

キナノキ属の植物の総称がキナノキですが,最も多くキニーネを含む種の一つが,次のCinchona officinalis.

https://en.wikipedia.org/wiki/Cinchona_officinalis

https://www.arvensis.com/en/cinchona-officinalis-2/

このキニーネについては,余談があります.

化学合成の黎明期,キニーネの合成に挑んでいたイギリスの化学者ウィリアム・パーキンは,その実験の過程で,偶然,絹を紫色に染める色素を発見しました.「モーブ」と名付けられたこの物質は,世界で初めての化学染料となりました(1856年).

そして,これに続いて,セイヨウアカネの色素アリザニンが化学合成されます(1868年).天然に存在する有用物質が化学合成できることが初めて立証され,有機化学合成の幕開けとなりました.

現在では7000種類の合成染料が利用されているとのこと.

https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakukyouiku/28/1/28_KJ00003481086/_pdf/-char/ja

天然の色素は全体から見ればほとんど用いられないのが現状ですが,その風合いはまだまだ見捨てることはできません.

そして,このブログの話題に沿って締めくくれば,キナノキ,アカネというアカネ科植物に沢山含まれている有用化学物質が,現代の化学工業の幕開けに大きく関わっていたことは,忘れてはいけないことかなと思います.