スパイス(スパイス&ハーブ)について,まとめています(すでに取り上げたシソ目シソ科のハーブは省きます).
スパイス(スパイス&ハーブ)32
ニンニク/Garlic1 ニンニクの語源・漢字表記,臭いの元アリシンの多彩な薬理作用
おなじみの,特有の強烈な香りのスパイスです.
https://www.sbfoods.co.jp/sbsoken/jiten/search/detail/00006.html
古代ギリシャ,中国では紀元前に記載があるというニンニク.
日本では,源氏物語帚木の巻に薬として用いたという記載があります.
(古事記に,「韮」の記載があり,これをニンニクとする説もありますが,ノビルと考えるのが無理のない考え方.
https://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2021/04/29/235542 )
https://www.sbfoods.co.jp/sbsoken/jiten/search/detail/00006.html
「ニンニク」を初めて知ったとき,子供心に,
1.ニンニクという名前の奇妙さ
2.臭いの強烈さ
に驚き,なんでこんなものを食べるのか不思議に思った覚えがあります.
1.ニンニクの語源と表記
語源
ニッポニカ https://kotobank.jp/word/ニンニク-770475によれば
ニンニクは,「忍辱(にんにく)」に由来.
「にんにく=忍辱=辱めを忍ぶ」で,寺での食用を禁止された大蒜(おおひる)の隠語として使われていました.
これがのちに通用名「にんにく」に.
漢字表記
▽「大蒜」はにんにくを意味する漢語.現代中国でも使用.
今の日本では通常,「おおひる」ではなく,「にんにく」とルビをふって,ニンニクの漢字として用いられていますね.
漢方薬としての生薬「大蒜」は,「タイサン」と呼ばれます.https://www.pharm.kumamoto-u.ac.jp/yakusodb/detail/003538.php
▽「蒜」(ひる)は近縁植物の総称・古称
日本国語大辞典では
「ニンニク、ノビルなどユリ科(現在はヒガンバナ科)の植物で、においがあり、食用とするものの古称」
角川字源では
「ひる.のびる.また,にんにく.ユリ科(現在はヒガンバナ科)の多年生草本.からくてくさみがあり,食用・強壮剤に用いる」
古事記に二カ所に「蒜」が登場します.
https://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2021/04/29/235542
これをニンニクとする考え方もありますが(例えば,ニッポニカ https://kotobank.jp/word/ニンニク-770475 )ノビルとするのが無理のない考え方でしょう.
少なくとも歌謡に詠われている場面は野蒜と読むとされています.
古事記(712)中・歌謡 日本国語大辞典
「いざ子ども 野蒜摘みに 比流(ヒル)摘みに」
もう一カ所はヤマトタケルが足柄山の白い鹿に韮を投げた場面.
古事記 景行天皇 日本神話 神社まとめhttps://nihonsinwa.com/page/542.html
足柄(アシガラ)の坂本(サカモト)に到りて御粮(ミカレヒ)食す処に、その坂の神白き鹿に化りて来立ちき.ここに即ちその咋(ク)ひ遺(ノコ)したまひし蒜(ヒル)の片端(カタハシ)以ちて待ち打ちたまへば、その目に中りてすなはち打ち殺さえき.
▽もう一つの漢字「葫」
使われる頻度は圧倒的に少ないかと思いますが----
漢字としては,この一字でにんにくを意味します.(角川字源)
日本では,「ひる」と読んで,「蒜」と同じ意味に用います.(日本国語大辞典)
ただし,漢方薬の生薬の場合の呼び名は「コ」.
2.臭いとアリシン,アリイン・アリシンの薬理作用
https://www.sbfoods.co.jp/products/search_result.html?spice=00006
ニンニクの臭い成分は,調理中に新たに作られることはよく知られています.
ガーリック/にんにくについてのS&Bの紹介では
https://www.sbfoods.co.jp/sbsoken/jiten/search/detail/00006.html
生のガーリック中に,香りの前駆物質である無臭・無刺激成分「アリイン」が含まれています.
生のガーリックをすりおろしたり,刻んだり,また乾燥物を料理に加えたときに,水分と加水分解酵素「アリイナーゼ」が作用して,「アリシン」という,料理の味を引き立てるガーリック特有の成分に変わります.
そして,このアリシンこそが独特の臭気の原因物質.
アリイン-アリシンは,ニンニクだけではなく,多くのネギ属の植物に含まれますが,ニンニクには特に多く含まれています.https://www.cpbl-stl.com/blog/allicin#:~
また,これもよく知られたことですが,
アリイン・アリシンは,様々な薬理作用を持つと考えられています.
東北大学の外山喬士氏は,
ニンニクの薬理作用につながる可能性のあるアリイン・アリシンの7つの生理活性を提示しています.
「全容を解明すべく日夜研究が進んでいるところです」(=完全に証明されたわけではない.また,生体内での作用につながるかどうか不明なものも多い. yachikusakusaki)としながら.
https://bukai.pharm.or.jp/bukai_kanei/topics/topics59.html
1. アリインは強い抗酸化作用 (ヒドロキシラジカルの消去能) をもつ(酸素中毒の治療に使用)
2. アリインは、グルタミン酸ナトリウムとイノシン酸のうま味相乗効果を更に増強・延長させる(食欲増進作用のもと)
3. アリシンは病原菌の構成タンパク質と直接結合して殺菌作用を示すと考えられる.
4. アリシンは侵害刺激受容体TRPA1と結合する.(強い辛味として認識される)
(同時に,胃粘膜を傷害したり、腸内細菌までも死滅させたりしてしまう可能性がある)
5. 水溶性のビタミンB1と会合しアリチアミンとなる(ビタミンB1の脂溶性を増加させ,腸での吸収効率を上昇させる=エネルギー産生を促進させる⇨疲労回復)
(そのニンニク臭を抑えた類似体であるフルスルチアミンを栄養ドリンクなどに使用)
6. アリシンから,加熱など調理の過程で生じるDADSやDATSは転写因子Nrf2を活性化させる
(Nrf2活性化⇨抗酸化に関与するタンパク質の発現=抗酸化作用)
7. アリシンから生じるDATSは赤血球と反応して硫化水素へと変換される
硫化水素⇨血管拡張作用を示すことが示唆されている(⇨心臓の負担を減らす)
⇨心筋梗塞時に心筋細胞老化を抑制する(マウス).
(8. アリシンの作用としてではなく,植物として,がん予防の効果も報告されている.)