世界の矢毒文化1/ ストロファンツス・トリカブト(毒と人間 国立科学博物館特別展「毒」より) 世界中の狩猟採集民は自然毒をうまく利用する技術をもっています.ストロファンツス矢毒文化圏(西アフリカ)・トリカブト矢毒文化圏(北アメリカ北部・アジア・ヨーロッパ・北海道)・イポー矢毒文化圏(東南アジア)・クラーレ矢毒文化圏(南アメリカ) キョウチクトウ科ストロファンツスの毒は神経毒で,強心剤としても利用されています. アイヌ民族が使っていたトリカブトは,エゾトリカブトとオクトリカブトと考えられています. 

先日出かけた国立博物館特別展「毒」.独自に調べたことをつけ加えながら,内容を少しずつ紹介しています.主催者も「シェアしよう」とすすめていることもあり.https://yachikusakusaki.hatenablog.com/archive/category/毒%2F毒展

 

(5/28まで大阪展開催中です.実際にご覧になることをお薦めします.実物の力は偉大です)

https://www.ktv.jp/event/dokuten/

 

世界の矢毒文化

世界中の狩猟採集民は自然毒をうまく利用する技術をもっています.文化人類学者の石川元助(1913〜1981年)は,毒の種類に基づき,4つの矢毒文化圏に分類しています.

ストロファンツス矢毒文化圏

ストロファンツスのストロファチンなどを利用.弓や槍などで用いる.

(西アフリカ)

 

トリカブト矢毒文化圏

トリカブトに含まれるアコニチンを利用.手持ち弓や仕掛け弓などで用いる.

(北アメリカ北部・アジア・ヨーロッパ・北海道)

 

 

イポー矢毒文化圏

アンチアリスのトクシカリアやマチンのストリキニーネを利用.主に吹き矢で用いる.

(東南アジア)

 

クラーレ矢毒文化圏

ストリクノスやコンドデンドロンなどから得られる毒を利用.手持ち弓や吹き矢などで用いる.

南アメリカ

 

 

毒に気づいた人類は,その利用を世界各地で思いついていたと言うことですね.知恵の向く方向は地域にかかわらず同一.

毒物の面から見れば,同じ自然毒がとても広範囲に用いられていたことも驚きです.

 

使われていたそれぞれの毒について調べ始めたのですが,時間が足りず,ストロファンツスとトリカブトについて少しだけ追加します.

 

ストロファンツス

ストロファンツス矢毒文化圏の弓と矢

アフリカ・サン族の弓と矢.ストロファンツス毒は神経毒で,強心剤としても利用されています.

矢の「矢じりの部分」と「矢の棒の部分」は簡単に取り外せるようになっています.

 

ストロファンツスは,キョウチクトウ科の属名(ストロファンツス属).

植物の種名としては,ネット上ではストロファンツス・グラツス(Strophanthus gratus)の名前が最も良く見られます.

https://en.wikipedia.org/wiki/Strophanthus_gratus

種子に含まれるストロファンチン類(G-ストロファンチン,別名ウアバイン等)が毒性(Na,K-ATPアーゼの抑制作用)を持ちます.

一方,ストロファンチンは「強心作用=心収縮力増強作用」をもついわゆる「強心配糖体」として知られ,うっ血性心不全の治療に用いられてきました.

(消化管からの吸収が悪く,注射液として用いますが,実際の治療には同様の作用をもつジキタリスの成分ジゴキシン,及びその誘導体メチルジゴキシンが繁用されているとのこと https://www.mnc.toho-u.ac.jp/v-lab/shinkin/medicine/medicine-2-2.html

 

トリカブト

北海道の先住民アイヌ民族も,このトリカブトを使った狩猟を行っていました.

http://www.yasei.com/ainutotorikabuto.html

特別展「毒」には弓矢の展示もありましたが,写真がうまくとれていなかったため、ここではお見せできません.ネット上で見ることができます(例えばhttps://ameblo.jp/natural888-02/entry-12785553093.html

下図はもう一つの狩猟法「アマッポ」です.民族の知恵が発揮されている狩猟法ですね.

使っていたトリカブトは,エゾトリカブトとオクトリカブトと考えられていますhttp://www.yasei.com/ainutotorikabuto.html

ただし,エゾトリカブトはオクトリカブトの亜種とする考え方もあるようです.

https://ja.wikipedia.org/wiki/オクトリカブト

https://sakata-tsushin.com/yomimono/rensai/standard/eastasiaplants/20150918_000918.html

トリカブトについては,この特別展の「毒の博物館」-植物の毒で紹介されていました.

https://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2023/02/25/235757

トリカブトは手足のしびれ,嘔吐,痙攣を,ドクウツギは重症の場合,全身麻痺を引き起こします.ドクゼリは目眩,呼吸困難などの症状が出ます.いずれも死に至る場合があります」

 

毒性成分はアコニチン系アルカロイドという神経毒でナトリウムチャネルに作用します.

山菜ニリンソウと間違えて摂取する例がかなりあるようです.(過去10年で8件,15名.内1名死亡)

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000082112.html