世界の矢毒文化2/ イポー・クラーレ(毒と人間 国立科学博物館特別展「毒」より) 世界中の狩猟採集民は自然毒をうまく利用する技術をもっています. イポー矢毒文化圏(東南アジア): 和名ウパスノキの樹液を矢毒として用います.強心配糖体アンチアリンが含まれています.クラーレ矢毒文化圏(南アメリカ) クラーレとは,アマゾン川やオリノコ川流域に住む先住民が毒矢の先に塗る毒物を指しています.クラーレの成分についてはツヅラフジ科の植物から筋弛緩作用をもつ d-ツボクラリンが単離されました.

先日出かけた国立博物館特別展「毒」.独自に調べたことをつけ加えながら,内容を少しずつ紹介しています.主催者も「シェアしよう」とすすめていることもあり.https://yachikusakusaki.hatenablog.com/archive/category/毒%2F毒展

 

(5/28まで大阪展開催中です.実際にご覧になることをお薦めします.実物の力は偉大です)

https://www.ktv.jp/event/dokuten/

 

世界の矢毒文化2

昨日は,ストロファンツス,トリカブトについて調べたことを少し付け足しました.

今日は,イポー,クラーレについて,少し調べてみました.

 

石川元助による「4つの矢毒文化圏」

 

イポー矢毒文化圏(東南アジア)

上図のパネルに“アンチアリスのトクシカリア”とあるのは,和名ウパスノキ(学名:Antiaris toxicariaを指しており,樹液には,ジキタリスやストロファンツスと同様な作用をもついわゆる強心配糖体アンチアリンが含まれているとのことです.

 

ウパスノキとは

(かぎけんウ花図鑑 https://www.flower-db.com/ja/flowers/antiaris-toxicaria

沢山の別名があります:upas tree, upasの木, ウパスツリー, イポー, Ipoh, アンチアリス・トキシカリア, ウパス, upas, タジャム, tajam.

ウパスノキ(upasの木、学名:Antiaris toxicaria)はインド東部からマレーシアなどの東南アジアに分布するクワ科ウパス属の常緑高木です.樹高が50mを超える巨木もあります.

樹皮からは丈夫な繊維が採取されます.

乳状の樹液(乳液)ウパスには,猛毒(イポー毒)となるアンチアリンが含まれ,原住民が吹き矢の先に塗ったり毒矢に用いたことで有名です.

樹液は強心配糖体であるアンチアリンを含みます.

Antiaris toxicaria https://en.wikipedia.org/wiki/Antiarin

(強心配糖体: ステロイド骨格に糖が配位した構造をもつ強力な心収縮力増強薬であり、うっ血性心不全の治療に用いられる。Na,K-ATPアーゼの抑制作用があるが、これが心収縮力増強作用のメカニズムであるかどうかは定かではない。

https://www.pharm.or.jp/dictionary/wiki.cgi?強心配糖体 )

 

秋道智弥氏によれば,

みんぱくリポジトリ 比較文化論 大項目報告 狩猟比較文化論 : 大項目別報告 : 狩猟 1100国立情報学研究所https://minpaku.repo.nii.ac.jp › ...

東南アジアの狩猟民族が用いた道具は,槍,弓矢など多岐にわたるそうですが,吹き矢は「東南アジ ア島嶼部の 稲作農耕民による狩猟の典型的な道具」とのこと.

 

 

クラーレ矢毒文化圏南アメリカ

クラーレcurareとは,アマゾン川オリノコ川流域に住む先住民が毒矢の先に塗る毒物を指しています.

https://kotobank.jp/word/クラーレ-56621

南アメリカ産の

(1)フジウツギ科Strychnos属植物,(2)ツヅラフジ科Chondodendron属植物,(3)クスノキ科Nectandra属植物

などから得られる樹脂状抽出物で,地方により貯蔵法が違い,次の3種類があり,原植物もやや異なります.

(ⅰ)竹筒クラーレ(tube curare):ブラジル,ペルーのアマゾン川流域に産し,原植物は(2)および(3).

(ⅱ)ツボクラーレ(pot curare):主産地はベネズエラオリノコ川上流地域.毒性は比較的弱い.原植物は(2).

(ⅲ)ヒョウタンクラーレ(calabash curare):フランス領ギアナベネズエラ,コロンビアなどに産する.

 

クラーレの成分については

https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/54/9/54_KJ00007744805/_pdf

ツヅラフジ科に属するChododendron tomentosumが基原植物であることが分かって急速に進歩し,クロード・ベルナールが毒の作用点を解明してから約100年後の1939年に活性成分の構造が決定され, d-ツボクラリンと命名されました.

https://en.wikipedia.org/wiki/Chondrodendron_tomentosum

https://ntbg.org/database/plants/detail/chondrodendron-tomentosum

 

ツボクラリンは,筋弛緩作用を持ち,現在でも薬剤として販売されています.

医薬として実際にどれほど使われているかは分かりません.筋弛緩薬は,麻酔薬とともに手術には必須の薬剤ですが---代替薬に置き換わっているのでは.

http://jsmh.umin.jp/journal/55-2/173.pdf

 

ツボクラリン tubocurarine

ブリタニカ国際大百科事典 https://kotobank.jp/word/ツボクラリン-99445

非脱分極型の運動神経の神経筋接合部遮断剤の一つ.

神経末端から遊離したアセチルコリンと競合して終板の受容体を占領して遮断し,骨格筋の弛緩を招く.