2008年衝撃的な事件が起きます.仲間を殺害されたのです.「今必要なのは,憎しみの共有ではありません」「ここでやめたら,和也の遺志,先生が描いていらっしゃるもの,そういうものが揺らぐ」着工から7年.用水路が完成しました.離れていた人たちが戻り始め,大地の恵みが育まれていきました.最後まで信念を貫き通した中村さん.銃撃され命を落としました.「敬意を払うということだと思うんです.あの方の活動,生きざま,そのものが平和だったような気がします」NHKクローズアップ現代+ “中村哲医師 貫いた志”2

中村さんは,貧困やテロとどう戦ってきたのか.私たちへの問いかけです.

 

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2019年12月 - NHK クローズアップ現代+

 

NHKクローズアップ現代+中村哲医師 貫いた志”1

http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2019/12/12/233836

当初,医療支援を行っていた中村さん.

「水が汚い.医者を100人連れてくるより,水路一本作った方がいいですよ」

根源にある問題を解決しなければ,この惨状は変えられない.その考えはテロについても同じでした.武力ではテロは断ち切れない,その背景にある貧困の問題を解決しなければならない.

2003年,中村さんは貧困問題を解決しようと,新たな活動を始めます.緑の大地計画.手探りの作業が続きました.次第に,現地の人たちに変化が現れ始めます.

 

 

NHKクローズアップ現代+中村哲医師 貫いた志”2 

“仲間の死”それでも続けた活動

 

2008年8月.中村さんにとって,衝撃的な事件が起きます.

5年にわたり活動をともにしてきた仲間を,武装グループに殺害されたのです.

伊藤和也さん.

2001年の同時多発テロ事件をきっかけに,中村さんの志に共感し,活動に加わっていました.

中村さんは伊藤さんへの追悼文で決意の言葉を寄せていました.

 

(「アフガニスタンの大地とともに 伊藤和也 遺稿・追悼文集」より)「今,必要なのは,憎しみの共有ではありません.憤りと悲しみを友好と平和への意志に変え,今後も力を尽くすことを誓い,心から祈ります」

 

(映像 墓参する伊藤和也さんのご両親;伊藤正之さん.順子さん)

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中村哲医師 貫いた志 - NHK クローズアップ現代+

伊藤和也さんの両親です.

母 順子さん「これを3つ,先生が持ってきてくださった」

和也さんが亡くなったあと,クナール川の石を中村さんが届けてくれました.

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 中村哲医師 貫いた志 - NHK クローズアップ現代+

中村さんは,和也さんの志とともに,みずからの信念を貫くと伝えていました.

母 順子さん「ここでやめたら,結局,和也の遺志というものとか,先生が描いていらっしゃるもの,そういうものが揺らぐ.

それが,揺らいでしまったら,和也を殺した人たちとか,いろいろな人たちのことを思うと,絶対ここではやめてはいけない.という---」

 

(映像 用水路工事の現場)

中村さんは,事件のあともアフガニスタンに残りました.

現地のスタッフとともに用水路の完成を急ぎ,工事は最終段階に入りました.

 

(映像 2009年,現地の人に話しかける中村さん)

「6年前に作業を始めて以来,あなたたちは懸命に働いてくれました.雨の日も強い日ざしの中も.この用水路が未来への希望となることを願っています」

 

一方,アメリカはアフガニスタンへの兵力の増強を打ち出します.

(映像 アメリオバマ大統領(当時))

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中村哲医師 貫いた志 - NHK クローズアップ現代+

オバマ大統領(当時)アルカイダは,せん滅させなければならない.今,この地域を見捨てれば,アルカイダに対する圧力を弱め,アメリカや同盟国を攻撃されるリスクを生み出しかねない」

 

(映像 ヘリコプター&工事現場)

ペシャワール会 会報より)「作業地の上空を,盛んに米軍のヘリコプターが過ぎてゆく.

彼らは殺すために空を飛び,我々は生きるために地面を掘る.

彼らはいかめしい重装備.我々は埃だらけのシャツ一枚だ.彼らに分からぬ幸せと喜びが,地上にはある」

 

(映像 用水路)

着工から7年.総延長25.5kmの用水路が完成しました.

(映像 緑の大地)

かつて,死の谷と呼ばれた干からびた土地.それが緑の大地へと姿を変えました.

(映像 水浴びする子供たち,収穫風景)

ふるさとを離れていた人たちが次々と戻り始め,大地の恵みが育まれていきました.

 

現地の男性「人は忙しく仕事をしていれば,戦争のことなど考えません.仕事がないから,お金のために戦争に行くんです.おなかいっぱいになれば,誰も戦争など行きません」

 

中村さんは用水路が見える農場に,和也さんの功績をたたえる碑を建てました.

 

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 中村哲医師 貫いた志 - NHK クローズアップ現代+

2年前に両親に会いに来た中村さん.

ある約束を交わしていました. 

伊藤和也さんの母 順子さん「一度でいいから,和也のいたアフガニスタンに行きたいんですけど,連れてっていただけますかって言った時に,『いまはちょっと危険だから,いつか,でも,必ずお父さんとお母さんはお連れしますから,もう少し待っててくださいね』と言ってくださったんです」

 

母 順子さん「これですけれども,先生から」

後日,中村さんから現地の写真と手紙が送られてきました.

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中村哲医師 貫いた志 - NHK クローズアップ現代+

両親のもとに頻繁に通えないことへのおわびと,現地の「その後」の様子を伝えていました. 

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中村哲医師 貫いた志 - NHK クローズアップ現代+

母 順子さん「本当なら何度もお伺いして,ご報告を申し上げるところって書いている時に,先生は,やっぱ,その(和也の)思いを常に持っててくださったこと,なんか,わかって.

この手紙が,先生の最後の,先生からいただいた言葉だと思うと,ほんとうに,なんとも言えない気持ちになります」

 

“いま戦争をしている暇はない”

テロとの戦いが長期化する中で,中村さんが過去最悪と言うほど,現地の治安は悪化していきました.

 

2011年5月

アメリオバマ大統領(当時)アメリカにとって最良の日だ.ビンラディンの死で,世界に安全がもたらされた」 

アメリカは,10年越しで追ってきた同時多発テロ事件の首謀者,オサマ・ビンラディン容疑者の潜伏先を襲撃し,殺害しました.

 

3年後の2014年.

アフガニスタンの治安維持などにあたってきた,アメリカ軍を中心とする国際部隊の大部分が撤退しました.

その後,力の空白が生じたアフガニスタンでは,タリバンが勢力を盛り返し,過激派組織ISの地域組織も台頭.軍の施設や政府機関を狙ったテロなどが繰り返し発生し,民間人の死傷者は,去年まで5年続けて年間1万人を超えるようになりました.

 

ことし10月に取材した際の中村さんです.

このころには,銃を携えた警備員を同行させるなど,安全管理に細心の注意を払わなければいけなくなっていました. 

(映像 現地の人々に語りかける中村さん)

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中村哲医師 貫いた志 - NHK クローズアップ現代+

中村哲医師「これからも,みんなと手をつないでアフガニスタンのために努力していきます」

 

中村哲医師アフガニスタンは40年間戦争が続いておりますけど,いまは戦争をしている暇はない.

これは,敵も味方も一緒になって,今ですね,アフガニスタンの国土を回復する時期だ.できるだけ多く緑を増やし,砂漠を克服して人々が暮らせる空間を広げること.これはやって,絶対できない課題ではない」

 

最後まで,みずからの信念を貫き通した中村さん.

先週,武装した何者かに銃撃され,命を落としました.

その日も,作業現場に向かう途中でした.

 

 

アフガニスタンで…私たちへの問いかけ

 

武田「中村さんのもとで4年間,アフガニスタンで井戸掘りなどに取り組んだ蓮岡さん.改めて今,中村さんのどんな姿,面影が目に浮かびますか?」

 

ゲスト 蓮岡修さん(アフガニスタンで4年に渡り中村さんと活動)「現地で活動していまして,中村先生が現地の人たちに対して威張ったことを見たことがない.自分たちの活動を,こう,まあ,あのー,誇らしげに語った姿を見たことがない.

常に現地の人たちに敬意を払って,また,ワーカーだけではなく,家族の人たちにも心を砕いて,計画を立てられて,作業を進められていたなと,そういうのをすごく思い出します」

 

武田「蓮岡さんにとっては,どんな存在でいらっしゃいましたか?」 

蓮岡さん「ん〜,なんといいますか.亡くなって,初めて,改めて分かるんですが,やっぱり,自分の今の,生きている1つの指針をですね,与えてくださった方だなというのを思います」

 

武田「悲しみや憤りを禁じえないわけですけど,ただ,中村さんの言葉を聞いていますと,悲しみや怒りという感情にですね,とどまっているだけでもいけないというふうに言われているような気がするんですね.

どういうふうに受け止めていらっしゃいますか」 

蓮岡さん「あの,ですね,中村先生の死をですね,大統領が中村先生の棺を運んだり,また,世界中の人たち,また,現地の人たち,都市だけではなく小さい村々でさえ,日本国内もそうですけど,追悼式を行っておられる.

このこと自体が,あの水路の水というのは,砂漠を潤しただけではなかったんだということを,非常に,あのー,実感いたします」

 

武田「そのアフガニスタンですけれども,1979年のソビエトによる侵攻以降,大国の思惑に翻弄され,混乱が続いてきました.

そうした中で,中村さんは緑の大地計画として,用水路の建設などに力を尽くしてきました.ことし10月には,アフガニスタン政府から外国人として初めて名誉国民の表彰も受けています」

 

武田「国連の政務官として,アフガニスタンで活動されていた田中さん.国際社会の対応と中村さんの活動,対照的に見えるんですけども,中村さんがみずからのやり方を貫いたこと,どういうふうに位置づけていらっしゃいますか」 

ゲスト 田中浩一郎さん(慶應大大学院 教授)「まず1つは,ご自身がお医者さんでいらしたこと.それから,ある意味,まことの人道主義者だったんだと思いますね.

やはり負傷している者がいれば,それは敵,味方関係なく治療するんだということもおっしゃっていました.それは確かに正しいんだと思うんですが,いわゆる戦闘員を助ける,ないしは,戦闘員の面倒を見るということは,別の観点から見れば,内戦をさらに長引かせることになるので,私のような立場でアフガニスタンに関わっていた人間からすると,やや対応が違うなという感じはしたんですけども.

それはそれとして,ほかの人には全くできないこと,及びもつかないことを,ずっとなさっていたんだなと改めて思いますね」

 

武田「その中村さんが,これだけ尽くしてこられたのに,なぜ,命を失わなければならなかったのか.どういうふうに理解したらいいんでしょう」 

田中さん「不幸なことに,アフガニスタンの治安がどんどん悪くなっているということもあります.その背景には,外国軍の存在がだんだん希薄になってきたというのも1つなんですが,外国軍が退去したときも,決して治安はよくならなかった.

背景を見れば,外国軍と外国人によって,現在のアフガニスタンの政権は支えられている.言葉を変えれば,かいらい政権であると.

だからこそ,外国軍の撤退してもらい,あるいは追い出し,さらには,外国人を援助関係者であろうとなかろうと攻撃の対象とすれば,彼らがいなくなる.そうなったら,カブールの政府を倒すのは赤子の手をひねるよりも簡単だと,タリバンをはじめ武装勢力は考えているからにほかならないんですね」

 

武田「なんともやりきれない構図になっているということなんですね.

蓮岡さん,平和は戦争に勝る力があるという言葉を実証したい,というふうに訴えていらっしゃいました中村さんですけれども,その遺志をどう受け継いでいくのか.

まさに,私たち一人一人にも突きつけられている気がするのですけれども,今,どのように受け止めていらっしゃいますか」

蓮岡さん「そうですね,あのー,先生の仕事というのは,現地のもともとあった作業というのに敬意を払って,そして,それにちょっと手を加えて,また,自然と尊い生活をあまり壊さないように,ちょうどいいようなものを残すと.

そういう配慮というのは,自分の色を押しつけるようなものではなかったような気がするんですね.

国際的に見て,そのような支援も必要ですし,また,我々の生活の中でも,そういうことは必要になってくるんじゃないかなと思います」

 

武田「相手の立場に立って,相手のことを尊敬して」 

蓮岡さん「敬意を払うということだと思うんですね.私は,あの方の活動,生きざま,そのものが平和だったような気がします

武田「それが,まさに平和の在り方.私たち一人一人がもう一度,自分にも問い直さないといけないことですね」

 

中村さんが貫いた志は,現地の人たちの心に生き続けます.

 

引き継がれる中村さんの“志”

この男性は,中村さんの用水路の建設に携わってきました.

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中村哲医師 貫いた志 - NHK クローズアップ現代+

「彼の仕事で,村には道ができ,人々は戻ってきたのです.私たちの暮らしは大きく変わったのです」

 

昨日も畑の手入れに励んでいた男性.自分の畑に水がくるようになり,今年,農業を再開することができたといいます.

「私はとても悔しくて悲しいです.彼にはとてもお世話になっていたので.残った仕事を自分たちで進めていきたいと思います」

 

生前,中村さんは,自分がいなくても用水路の建設が進められるよう,専門知識を持つ人材の育成に乗り出していました.

去年,職業訓練校を設立し,すでに1000人以上が参加しました.

(映像 職業訓練校で教える中村さん)

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中村哲医師 貫いた志 - NHK クローズアップ現代+

「何もない砂漠でも,花を咲かせることはできます.あなた方がいい技術者に育てば,成功は早いでしょう」

 

ペシャワール会 会報より)「こぶしを振り上げて,敵意や憎悪を叫ぶ人たちを見ると,何だか悲しい気分に襲われます.寒風の中で震え,飢えている者に必要なのは弾丸ではありません.温かい食べ物と,温かい慰めです」

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 中村哲医師 貫いた志 - NHK クローズアップ現代+ 

 

NHK クローズアップ現代+ の“ダイジェスト”のサイトに,ほぼ全文が公開されていました.

  中村哲医師 貫いた志 - NHK クローズアップ現代+ 

画像は,このサイトからお借りしました.また,上記の文章も,録画から起こしつつ,このサイトの助けを借りて綴ったもの.

既にあるものを,重ねてネット上にあげる必要はありません.しかし,偉大な方と心から思える中村医師の名を本ブログにも残しておきたかったので,取り上げました.yachikusakusaki