「現場主義」「生きてもらう」「難局は乗り越えるもの」「ミッションのためにルールを変える」「何でもしてやろう」「『視野を広げたほうがいいですよ』『乗り越える方法を考えなさい』」「緒方さんが描いていたものを超えられるような---」「『誰もとりこぼさない』という言葉だったんですが---」「---『時代の要請に従ったに過ぎない』.この言葉が印象に」「緒方さんはよく「持ちつ持たれつ」という言葉を大切にされていたと思いますが---」 NHK クローズアップ現代+ 緒方貞子 今を生きるあなたへ2

緒方貞子さんが私たちに残した,いくつもの言葉.

その言葉を支えに,各地で奮闘する人たちの姿を追いました

 

NHK クローズアップ現代+

2019年12月11日(水)

緒方貞子 今を生きるあなたへ

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出演者

    野林健さん (一橋大学 名誉教授)

    安田菜津紀さん (フォトジャーナリスト)

    宮田裕章さん (慶應義塾大学 教授)

    武田真一 (キャスター)

 

緒方貞子 今を生きるあなたへ1

http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2019/12/14/223159

緒方貞子さん.紡ぎ出されたいくつもの言葉が,次代を担う人たちの背中を押しています.「 “現場主義”. 難民の方の声にいつも耳を傾けて,どうしていくのが一番いいのかというのを,一緒に解決策を探っていく」「『とどまれば,難民の命を救うことができそう?』『出来ると思う』と答えると,『それなら,とどまるべきです』」「『何のおもてなしも出来ない』と泣き出したのです.緒方さんは,そこにあった古いミルクを飲み,おじいさんは本当に喜びました」

 

緒方貞子 今を生きるあなたへ2

「現場主義」「生きてもらう」.緒方さんが最も大切にしてきた価値は,人の命を助けること.その思いは今も,難民支援の現場に生き続けています.

 

ほかにも,次の世代に向けたこんな言葉を残しています.

「難局は乗り越えるもの」

「ミッションのためにルールを変える」

そして

「何でもしてやろう」.

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緒方貞子 今を生きるあなたへ - NHK クローズアップ現代+

緒方貞子さん「何でも見てやろう,何でもやってみよう.

そういう意気を持って,若い人には生活していただきたいと思いますよ.

本当に人間とはどんなものなのか,どういう人がいるのか,自分の仕事はどういうものかっていうことを,肌で感じて考えてほしい」

 

「何でもみてやろう」「何でもしてやろう」そのことで,自分の視野は広がる.

 

(映像 キャリア教育で教える河村さん)

「世界へ出ていく若者たちへ---」

 

この緒方さんの言葉を若者たちに伝えているのは,就職支援会社に勤める河村香織さんです.大学生向けに,社会人になるためのキャリア教育を行っています.

河村さん自身,大学生のころに緒方さんの言葉と出会い,導かれてきたと言います.

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緒方貞子 今を生きるあなたへ - NHK クローズアップ現代+

河村香織さん「迷ったときに,何か指針になるような,こうありたいという自分が目指す方向を思い出させてくれるような,そういう言葉だと思います」

 

河村さんは就職氷河期世代.新聞社や出版社に的を絞って就職活動をしましたが,内定を得られませんでした.

しかしその後,視野を広げてがむしゃらに会社を探す中で,今の就職支援の仕事と出会います.仕事にやりがいを感じるにつれ,緒方さんの言葉の意味が分かるようになったと言います.

 

河村香織さん(緒方さんの本を見せながら)あっ,こことか好きです.

“人間は仕事を通じて成長していかなければなりません”.“「何でもみてやろう」「何でもしてやろう」という姿勢を意識的に持ってもらいたい”.

『ああ,これか!』っていう,そういうことだと思います」 

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緒方貞子 今を生きるあなたへ - NHK クローズアップ現代+

河村香織さん「言葉では分かっていて,すてきな言葉だなと思っていたんですけど,実際の自分の行動で『ああ,こういうことだったんだな』っていうの,ものすごく狭いところだけで終わらずによかった.もったいないことをするところだったなって」

 

緒方さんの「何でもしてやろう」の精神を,河村さんは今の学生たちに伝えたいと考えています.

 

河村さんの会社が開いた企業説明会です.

売り手市場の近年,学生は知名度の高い企業だけにしか目を向けない傾向があるといいます. 

河村香織さん「九州の食品の流通のことをやっている会社があって,ちょうど聞けるので2人で聞きませんか?」 

学生「ちょっと,いいです.」

河村香織さん「ちょっと違う?」

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緒方貞子 今を生きるあなたへ - NHK クローズアップ現代+

河村さん「どっか探してますか?」

 

いろんな世界に好奇心を持ち,納得のいく仕事と出会ってほしい.かつて,緒方さんに背中を押された河村さんの思いです. 

河村さん「『視野を広げたほうがいいですよ』って,やっぱり響く人と響かない人がいるし,でもやっぱり言い続けることが大事だと思うので.一歩踏み出して,その場所に行くことで何か見つかるような気がします」

 

緒方貞子さん「向き合って,ぶち破いていかないとね.向き合って進んでくださいということですよ.乗り越えるためにあるの.危機とか難局というのは」 

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緒方貞子 今を生きるあなたへ - NHK クローズアップ現代+

2003年,JICAの理事長に就いた緒方さん.

この言葉の通り,強いリーダーシップで難局を乗り越えたことがありました.

労働力として期待され,日本に来ていた日系人が,景気の悪化で大量に解雇されたときのことです.

 

JICA 田中雅彦さん「『調子がいいときは日系人の方々を日本へ呼んで,日本の調子が悪くなったら皆さん帰すんですか?』と.『あなたはそれで平気なんですか』って,すごく怒られましたね」

 

緒方さんたちは,各地で日本語教室を開催.

引き続き国内で仕事が得られるよう,後押ししたのです.海外での支援活動を主な任務とするJICAでは,前例のない取り組みでした.

 

 田中さん「彼女はよく『ミッションのためにルールは変えればいいのよ』と言っていまして,『乗り越える方法を考えなさい』というお叱りをいろんな場面でいただきました.」

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「難局は乗り越えるためにある.向き合ってぶち破れ」

この緒方さんの言葉を実践しているのが,NPOの代表,渡部清花(さやか)さん.

母国で迫害を受け,日本に逃れてきた外国人たちを支援しています.

 

外国人支援のNPO代表 渡部清花さん「一番大変なはずの,日本に着いてからの数か月を,どこにもつながらずに過ごしていた人たちも多い.生まれて初めての状況に『すごく心が動揺している』と言う人たちもいる」

 

今,渡部さんが直面しているのが,日本の難民認定の厳しさです.

NPOでは,これまで160人の申請者を支援してきましたが,難民認定を得られたのは,わずか1人にすぎません.

どうすれば,外国人の命や生活を守れるか.思い起こしたのは,「目的を達成するためにはルールも変える」という緒方さんの哲学でした.

 

渡部さん「彼女(緒方さん)だったらどう考えるんだろうとか,『仕組みが難しい』とか『ルールが無い』とか,そういうことを言ってちゃいけないなと思って.『だったら自分で動いてみよう』っていうふうに,何回も背中を押されたので」

 

渡部さんは,支援する外国人を企業と結びつける,新たな取り組みを始めています.

静岡県の大手バイクメーカーです.

渡部さんが紹介したアフリカ出身の男性を,今年7月に採用.男性は,アフリカでの市場開拓に力を発揮しています. 

大手バイクメーカー「即戦力の1人ですよ,まさに.いろんな困難にぶつかりながらも乗り越えて,それをビジネスにしていくっていう.似てる感じがするんですよね.必要なスキルっていうか」

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緒方貞子 今を生きるあなたへ - NHK クローズアップ現代+

難民認定が難しいなら,外国人が日本で生きる別の道を模索する.

数々の困難を粘り強く乗り越えてきた緒方さんのあとに続きたいと考えています.

 

渡部さん「緒方さんが描いていたものを超えられるような,そのぐらいのものを作って,次の世代につなげるっていうことを難民の若者たちと一緒にやっていきたい」

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緒方貞子 今を生きるあなたへ - NHK クローズアップ現代+

 

あなたは,どう受け止めますか?緒方さんのメッセージ.
 

武田アナ「つい最近もシリアで避難民の取材をしてこられた,フォトジャーナリストの安田さんも緒方さんの言葉を心に刻んでいらっしゃると」

 

ゲスト 安田菜津紀さん(フォトジャーナリスト)

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緒方貞子 今を生きるあなたへ - NHK クローズアップ現代+

安田さん:「そうですね.特にこの『誰もとりこぼさない』という言葉だったんですが.

緒方さんが亡くなったという知らせを,ちょうど中東のシリア,イラクで取材をしているときに受けたんですよね.誰もとりこぼさない,そこに必要としている人がいる限り,そこでやるんだというその精神に,何か改めて思い返して,取材のための背中を押されたような気持ちだったんですけれど.

特にこのシリアという国.よく報道されているように,9年近くずーっと内戦が続いているんですよね.

今回の取材でも,シリアから逃れてきた人々の中で,自分たちのことを本当に苦しめてきたものっていうのは,自分たちに武器を向ける人間ではなくて,あっ,自分たちは世界中から忘れられている,誰からも無関心の中に置かれているという言葉だったんです.

今回の現場でもやはり,例えばローカルなNGOだったりですとか,あるいは緒方さんがいらっしゃった国連の方々.

本当に,奮闘して,いろんなことに,支援に携わっていたんですけれど,ただ単にそれって物理的に支援を届けるというだけではなくて,そこにその人たちがいるということ自体が,私たちは誰もとりこぼさないよ,忘れていないと,何よりのサインになっていくんじゃないかなということは改めて現場で感じたところでした」

 

武田アナ「そして,緒方さんへの30時間に及ぶインタビューをもとに回顧録をまとめられた国際政治学者の野林さんは,特にたくさんあると思うんですけれど.『時代の要請に従ったに過ぎない』.この言葉が印象に残っていたと」

 

ゲスト 野林健さん(一橋大学 名誉教授)

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緒方貞子 今を生きるあなたへ - NHK クローズアップ現代+

 野林さん「はい,緒方さんは,本当にいろいろな難しい決定をずいぶんなさってきました.

それは社会的な評価として確定していることですが,そういう苦労話とか,まあ,手柄話のようなものをお聞きしたいと思って,何回かそういう質問をしたんですが,答えはいつも同じで,

『それは,もう,時代がそうさせたんだ.私はその時代の要請に従ったにすぎない.誰がトップに立っても,同じような判断をしたと思いますよ』

というお答えでしたね」

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緒方貞子 今を生きるあなたへ - NHK クローズアップ現代+

「それはどういうことなんでしょうね?」

 野林さん「これは,もう,ほんとうに自然な人間の気持ち,命を大切にするということから考えれば,自然に答えが出てくる,そういう問題じゃないかと思いますって.

そういうことだったと思います.私は,その言葉を何度も聞きましたけれども,本当に緒方さんは私心のない人だと,強く印象付けられました

 

武田「だからこそ実現できたということなんでしょうね.

そして,内向きになるなという緒方さんのメッセージ.

印象に残りましたが,ふだん大学生とも多くのおつきあいがある宮田さんは,今の若い人たちにどういうふうに響いていると感じていますか?」

 

ゲスト 宮田裕章さん(慶應義塾大学 教授)

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緒方貞子 今を生きるあなたへ - NHK クローズアップ現代+

宮田さん「学生たちは少子高齢化,人口減少,日本の厳しい現実に直面しています.この中で,このままでは先がないのではということも感じていて,先日ある学生が真剣なまなざしで発した質問が,もし私が20歳に戻ったら日本から出ますか,という問いかけでした.

このとき,私の頭に浮かんだのは緒方さんの『大切なのは苦しむ人々を救うことだ』と.『自分の国だけの平和はありえない』と.こういう言葉ですね.

この言葉自体が非常に美しいですが,緒方さんの活動の中では,救ったはずの難民が命よりも復讐というものを優先して,今度は虐殺を行う側に回ってしまうと.こういった文化や民族や思想の衝突の中で,多くの挫折,あるいは矛盾を経験されてきています.

ただ,その中でも,それでも人々の命から始めようと.

この信念は大変重みがありますし,この考えの中でノーベル経済学者のアマルティア・センと提案したのが,人間の安全保障という概念で,これがまさに今,地球規模の社会契約になっているSDGs (⇒*)というものにつながってきた,非常に大きな貢献だと思っています」

 

武田「しかしですね,今,自分のことでも精いっぱいなのに,遠い国の人たちのことなんて考えてられないよって,自国第一主義のような空気が広がっていますよね.

そういった時代に,緒方さんの何をどういうふうに学んでいったらいいのでしょうか」

 

安田さん「そういった場面で,緒方さんはよく「持ちつ持たれつ」という言葉を大切にされていたと思います.

私もそれはすごく共感するところで,その言葉から思い起こすことがあるんですが,

東日本大震災以降,岩手県陸前高田仮設住宅に通っているんですけれど,仮設住宅の方々が,紛争が続いているシリアの子どもたちが冬越えできるようにって,自分たちの服を集めて送ってくださったということがあったんですね.

自分たちは恩返しをしたいんじゃなくて,世界中の支援から,恩送りをしたいっていうことをおっしゃっていて,

やはり国際協力って,何か上から下の目線で見られがちですが,そうではなくて,何かお返しするという連鎖の中で,私たち一人一人が等身大でどんな役割を持ち寄れるかということですよね」

 

武田「宮田さんはどういうことが今,私たちにつきつけられているとお考えですか」

 

宮田さん「緒方さんが難民高等弁務官に着任されて,本格的に活躍が始まったのは63歳のときからですね.それまで国連でも活躍されていたんですが,大学の非常勤講師ですね.ご本人が,台所から参りましたという言葉からも象徴されています.

ただ,等身大の問題意識で,物事を捉えた彼女の活躍は世界を変えたわけですね.

身近な大切なことを守るのは,目に見える世界の中では完結しないと.世界とのつながりの中で考えていかなくてはいけない.

一人一人がどう暮らして,何を学んで,どう遊ぶのか.

これは世界とつながっているので,こうした視点の中で,彼女の問いかけである『あなたなら,どうする?』を考えるのが,これからの社会を生きる我々にとって,とても重要だと思います」

 

武田「『あなたなら,どうする』.『今,何をするか』

野林さん,この問いというのは何かドキッとさせられますし,今必要なことなんだなと思いますね」

 

野林さん「そうですね.私にとっては,あなたは大学に勤めているけれど,学生に何を言っているんですか,何を教えているんですか,それがどういう意味があるんですか.そういう問いかけだったと思います.

なかなか難しいことですけど,やはり一人一人が小さな1歩を踏み出す.そこから始めるという以外にないんじゃないでしょうか.

1日100円積み立てて,1か月3000円.そのお金が,非常に難民支援に大きな意味があるということは忘れてはならないと思います」

 

武田「例えば,そういうことでも一人一人が考えるべきことはあるということですね.

先週亡くなった中村哲さん.そして緒方貞子さん.

強い信念を持ったお二人の言葉から,

私たちは何をするのか.

考え,行動していかなくてはならないと思いました」

 

緒方さんに続け,とUNHCRの日本人職員は,今,102名に増加.

人道支援の道を志す若い世代が“現場”に立ち続けている.

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緒方貞子 今を生きるあなたへ - NHK クローズアップ現代+
 
UNHCR 長谷川のどかさん(36)「リーダーシップをもって,当時女性でそういう場にいるということも,今もですけども,難しい中で,そういうことを感じさせない.

日本人だからとかじゃなくて,人間として,ほんとに,強くて優しい

 

UNHCR 森貴志さん(30)「(緒方さんとは)直接一緒に働いたとか,触接お話をしたという経験はないですけど.

明確に私の中に根付いているものは,どれだけポジションが高くなっても,一人一人の難民に対して真摯に向き合って,より弱い立場の人達に寄り添う姿がやはり頭に残っている」

 

緒方貞子さん

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緒方貞子 今を生きるあなたへ - NHK クローズアップ現代+

「歴史に学び,他者に学び,そして常に先のことを考えて暮らしていかなきゃね.

自分だけじゃなくて.

人間が生きている限りは,いろんな試みを続けていくと思うんです.

その中で,日本も立派な,いろんな形で,いい考え方,いい試み,いろんな幸せというものを表に出して,みなさんを引っ張っていける人々と国であってほしいなと思っております」

 

 

NHK クロースアップ現代+ の“ダイジェスト”のサイトに,ほぼ全文が公開されていました.

緒方貞子 今を生きるあなたへ - NHK クローズアップ現代+

画像は,このサイトからお借りしました.また,上記の文章も,録画から起こしつつ,このサイトの助けを借りて綴ったもの.

既にあるものを,重ねてネット上にあげる必要はありません.しかし,偉大な方と心から思える緒方貞子さんの名を本ブログにも残しておきたかったので,取り上げました.yachikusakusaki

 

⇒*SDGs

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持続可能な開発目標 | 国連開発計画(UNDP)