緒方貞子さん.紡ぎ出されたいくつもの言葉が,次代を担う人たちの背中を押しています.「 “現場主義”. 難民の方の声にいつも耳を傾けて,どうしていくのが一番いいのかというのを,一緒に解決策を探っていく」「『とどまれば,難民の命を救うことができそう?』『出来ると思う』と答えると,『それなら,とどまるべきです』」「『何のおもてなしも出来ない』と泣き出したのです.緒方さんは,そこにあった古いミルクを飲み,おじいさんは本当に喜びました」NHK クローズアップ現代+ 緒方貞子 今を生きるあなたへ1

緒方貞子さん「たとえ困難があろうとも,諦めてはなりません.『時間と忍耐があれば物事は動く』.それが私の哲学です」

 

今年十月,92歳で亡くなった緒方貞子さん(第8代国連難民高等弁務官 1991〜2000)

女性初の国連難民高等弁務官として,世界各地の難民の保護に,力を尽くしました.

その人生から紡ぎ出されたいくつもの言葉が,次の世代を担う人たちの背中を押しています.

 

外国人支援のNPO代表「緒方さんが描いていたものを超えられるような,それぐらいのものを若者たちと一緒にやっていきたい」

 

元部下のJICA職員「(緒方さんの言葉が)また聞こえてくるんですよ.『あなたはどうするの?』って.

 

(映像 シリア難民/ヨルダン)

世界で増え続ける難民.

その数は,20年前の2倍.7000万人を越えています.

一方で,国際社会への関心を失っていく人々に,緒方さんは最後までメッセージを送り続けました.

 

緒方貞子さん「あまりにも,外の広い世界に対する思いやり,関心が弱すぎると思うんですね.広がりを持った日本を作っていただきたい」

 

緒方さんが私たちに残した,いくつもの言葉.

その言葉を支えに,各地で奮闘する人たちの姿を追いました

 

NHK クローズアップ現代+

2019年12月11日(水)

緒方貞子 今を生きるあなたへ

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緒方貞子 今を生きるあなたへ - NHK クローズアップ現代+
 

出演者 

    野林健さん (一橋大学 名誉教授)

    安田菜津紀さん (フォトジャーナリスト)

    宮田裕章さん (慶應義塾大学 教授)

    武田真一 (キャスター)

 

中村哲医師 貫いた志」

http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2019/12/12/233836 

http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2019/12/13/223252

同様,この「緒方貞子 今を生きるあなたへ」もNHK クローズアップ現代+ の“ダイジェスト”のサイトに,ほぼ全文が公開されていました.

緒方貞子 今を生きるあなたへ - NHK クローズアップ現代+

画像は,このサイトからお借りしました.また,以下の文章も,録画から起こしつつ,このサイトの助けを借りて綴ったもの. 

既にあるものを,重ねてネット上にあげる必要はありませんが,中村医師同様,偉大な方と心から思える緒方貞子さんの名も本ブログにも残しておきたかったので,取り上げました.yachikusakusaki

 

緒方貞子 今を生きるあなたへ 1

 

バングラデシュ南部にある,難民キャンプです.

隣国・ミャンマーで,虐殺などの迫害を受けたロヒンギャの人々が逃れてきています.その数は,2年間で90万を超えました.

緒方さんの遺志を継ぎ,難民支援に取り組む,土岐(とき)日名子さんです.

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緒方貞子 今を生きるあなたへ - NHK クローズアップ現代+

UNHCR 土岐日名子さん「それぞれの家がつながっているのですよね.それで,もちろんプライバシーはないし,雨が降るとやっぱり全部くずれてしまって」

 

ここでは,定住を前提とした建物の建設が認められず,劣悪な環境での暮らしを余儀なくされています.

特に見てほしい現場があると,土岐さんがある場所に案内してくれました.

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緒方貞子 今を生きるあなたへ - NHK クローズアップ現代+

教師「How are you?」子供たち「I am fine」

土岐さん「小学校にあがる前の幼稚園児のためのクラスになっています.電気がないので,ドアから入ってくる光だけを利用して」

 

難民の数が増え続ける一方で,国際社会の関心は年々低下.必要な支援を行う予算が,十分に組めない状況が続いていると言います.

日本からの寄付金も,2年前に比べ,著しく減少しました.

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緒方貞子 今を生きるあなたへ - NHK クローズアップ現代+

土岐さん「先生は全部で何人ですか?」

「たった1人です.」

 

土岐さん「小学校にあがっても結局,算数と英語とビルマ語と,ちょっとした程度にとどまっているので,どうやって自分の力で考えて,いろいろなことを学んでいくのかということのベースができていかないですよね.

子どもたちの将来,本当にどうなっていくんだろう.」

 

緒方さんがトップを務めた時代に,難民支援に携わるようになった土岐さん.

困難に直面するたびに背中を押す,緒方さんの言葉があります.

“現場主義”です.

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緒方貞子 今を生きるあなたへ - NHK クローズアップ現代+

緒方さん「やっぱり,現場感というものがなくて,人は説得できないと思いますよ.

現場の感覚というのがないと,本当に,こうしたらどうですか,ああしたらどうですかと提言は出来ませんし

 

土岐さん「緒方さんがおっしゃっていたその“現場主義”.

難民の方の声にいつも耳を傾けて,どうしていくのが一番いいのかというのを,難民の方と一緒に,その解決策を探っていくっていうのが,たぶん緒方さんも今でも,そういったことを,たぶん,考えられるんじゃないかな〜

 

国際政治学者として,日本の大学で教べんを執っていた緒方さん.国連での仕事を経て,63歳のとき,女性初の難民高等弁務官となりました.

 

就任直後に赴いたのは,湾岸戦争の混乱の中にあったイラク

目の当たりにしたのが,迫害された数十万のクルド人が,トルコとの国境で行き場を失い,命の危険にさらされている姿でした.

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緒方貞子 今を生きるあなたへ - NHK クローズアップ現代+

緒方さん「考えてみたら,命を守る以外ないんですね,最後は.どこであろうと.生きてもらうことに尽きちゃうんですよ.

いろいろな生き方はあってもね.大事なことだと思いますよ.私,それは.それが人道支援の一番の根幹にあると思います」

 

現場に立ち,目の前の命を守る.そこから生まれたのが“現場主義”という信念でした.

 

緒方さんを長年,補佐官として支えた,現在の難民高等弁務官(11代 フィリッポ・グランディさん)です.

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緒方貞子 今を生きるあなたへ - NHK クローズアップ現代+

彼女のぶれない決断が,今も脳裏に焼き付いていると言います.

 

第11代国連難民高等弁務官 フィリッポ・グランディさん「私がコンゴにいたときのことです.非常に危険な状況でした.

内戦の最中でしたから.命を危険にさらしても,難民保護のためにとどまるべきか,撤退すべきなのか,決断を迫られました.

そこで緒方さんに電話をしたところ,彼女は『もしとどまれば,難民の命を救うことができそうですか?』と聞いてきました.

『出来ると思う』と答えると,彼女は言ったんです.『それなら,とどまるべきです』と

 

緒方さんの言葉や姿勢は,今も難民支援に携わる多くの人たちの記憶に深く刻まれています.

 

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緒方貞子 今を生きるあなたへ - NHK クローズアップ現代+

UNHCR マリン・ディン・カシュドムチャイさん「ある避難民(旧ユーゴスラビアのテントに緒方さんが訪れたときでした.

一家のおじいさんが『客人が来てくれたのに,何のおもてなしも出来ない』と泣き出したのです.

すると緒方さんは,そこにあった古いミルクを飲み,おじいさんは本当に喜びました.

思い出すと涙が止まりません.

厳しい時代にこそ,彼女のようなリーダーが必要なのです」

 

ロヒンギャの人々への支援で,予算の不足に直面する土岐さん.

緒方さんならどうするか.

自らに問い続ける中で,限られた資金や人材を教育カリキュラムの充実にも振り向けることに決めました.

 

少年「僕は学校が好きなんだ.」

取材班「大きくなったらどこに行きたい?」

少年「僕の村はとてもきれいだから,大きくなったらミャンマーに帰りたいんだ」

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緒方貞子 今を生きるあなたへ - NHK クローズアップ現代+

 

UNHCR 土岐日名子さん緒方さんが一番力を入れてらっしゃったのは,難民の方を一人の人間として見ることだったと思うですね.

難民っていうのが人口移動という現象なのではなくて,一人の人間の命であり,身近な存在であるということ.

今ここで出来ることを,私たちも努力を続けていきたいな,というふうにと思います」

 

外の世界で苦しむ人々に目を向け,手を差し伸べ続けた緒方さん.

しかし,その弱者に寄り添う“現場主義”は今,岐路に立たされています.

 

(映像 トランプ大統領

「America First」

 

世界に広がる“自国優先”の姿勢や“難民への無関心”を緒方さんは晩年,深く憂いていたと言います.

 

前の駐米大使で,生前,親交が深かった佐々江賢一郎さん日本国際問題研究所理事長)です.

緒方さんから繰り返し聞かされていたのは,日本は“内向きになってはいけない”という言葉でした.

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緒方貞子 今を生きるあなたへ - NHK クローズアップ現代+

日本国際問題研究所 理事長 佐々江賢一郎さん「緒方さんは,日本に良くなってもらいたいということが非常に強かったので,若い人たちに対してもですね,日本の中だけで安住していると世界は大きな変化を遂げつつあるので,その中で日本はうまく対応していけないんじゃないですかと.

もうちょっと世界を知りなさいと.

世界と一緒になっていかないと,結局“共感”というものが持ち得ないと.そうでなければ日本は,だんだん弱小の--,尊敬される立場になっていかない

 

緒方貞子さん「私はいま,非常に日本は内向きになっていると思います.

これは外国人労働者の問題もありますし,それから難民の受け入れにも問題があるのですね.非常に少ないです.

それはね,やっぱり,あまりに自分たちのこと,そして,あまりにも日本の内向きのことばっかり考える,上から下まで.

自分のことだけじゃなくて,広がりをもった日本をつくっていただきたい

 

「現場主義」.「生きてもらう」.

緒方さんが最も大切にしてきた価値は,人の命を助けること.その思いは今も,難民支援の現場に生き続けています.

 

ほかにも,次の世代に向けたこんな言葉を残しています.

「難局は乗り越えるもの」

「ミッションのためにルールを変える」

そして

「何でもしてやろう」

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緒方貞子 今を生きるあなたへ - NHK クローズアップ現代+

緒方貞子さん何でも見てやろう,何でもやってみよう.

そういう意気を持って,若い人には生活していただきたいと思いますよ.

本当に人間とはどんなものなのか,どういう人がいるのか,自分の仕事はどういうものかっていうことを,肌で感じて考えてほしい

 

続く