新型コロナウイルス 介護クラスター対策今すべきこと 「防護物資の優先的な調達」「できる限りの情報共有」「行政がリーダーシップをとった病院やほかの施設との連携」「介護が必要な高齢者を病院で受け入れられる体制づくり」「感染が確認された施設で素早く検査を受けられる仕組みを国や行政が整える」 NHKクローズアップ現代「“介護クラスター” 高齢者の命をどう守る?」2

介護施設での新型コロナ感染クラスターが大きな問題となっています.

6月2日のNHK総合クローズアップ現代「“介護クラスター” 高齢者の命をどう守る?」は,その現状と今後の課題を伝える好番組でした.

番組のダイジェストがネット上に公開されています(“介護クラスター” 高齢者の命をどう守る? - NHK クローズアップ現代+)ので,その内容の繰り返しになりますが,改めてまとめてみました.一部は番組の音声部分の転載.また一部割愛したりまとめたりしてあります.また重要な図はダイジェストで公開されたものをお借りしてあります.

 

NHKクローズアップ現代「“介護クラスター” 高齢者の命をどう守る?」1

http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2020/06/04/012554

一気に広がり死のリスクが--- “介護クラスター”の怖ろしさ 

課題1  施設での生活は3密を避けられない.

課題2  感染予防を徹底することが困難

課題3 クラスター発生後の負の連鎖から,介護崩壊寸前の状況に.

課題4 軽症の入所者は,施設で診療と介護を続けざるを得ない.

課題5 情報共有ができず, “クラスター”発生で地域全体で休業連鎖が起きた例も.最終的に市内の実に9割,58の事業所が自主的に休業・縮小.

 

 

NHKクローズアップ現代「“介護クラスター” 高齢者の命をどう守る?」2

f:id:yachikusakusaki:20200604011746j:plain

https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4423/index.html

 

介護施設でのクラスターの取材から見えてきた課題

 

課題1 施設での生活は3密を避けられない. 特に一堂に会した食事,週2回1日数十回ののぼる入浴介護.

金記者「施設の構造上,相部屋であったり,食堂で一緒に食事をしたりもしますし,体を抱きかかえて移動させるといった具合に,介護そのものが密着する機会が多く,やはり感染のリスクはあります.今,一般的に3密を防ぐ“新しい生活様式”を取り入れ始めていますが,介護施設ではなかなか難しいという声が上がっています.

だからこそ,マスクや防護服などの衛生用品が重要なんですが,いま不足しているという施設も出ています.

先月,専門家が行った調査結果です.今後 求められる支援について聞いたところ,8割近い事業所が防護物資の優先的な調達を挙げていました.国や行政が介護施設に対し,一刻も早く配付する仕組みが求められていると思います」

 

課題2 入所者の3分の2に認知機能の低下が見られ,マスクや手洗いなど,感染予防を徹底することが困難

 

課題3 クラスター発生後の負の連鎖から=介護崩壊寸前の状況に

介護士など,職員の感染/濃厚接触者となった職員の出勤停止/感染を恐れた職員の欠勤.

⇒通常20人程度のところ,3人で50人以上のケアにあたる事態に

⇒清拭もされていない.最低限の食事と水分摂取.着替えも下着ぐらい.介護崩壊ギリギリのところでやっていて,一人が倒れたりなんかすると,恐らく崩壊していただろう.

 

課題4 重症者以外の入院が困難で,軽症の入所者は,施設で診療と介護を続けざるを得なかった.

感染症の指定医療機関でも感染が相次ぎ,医療崩壊のリスクが高まっていました.重症者以外は受け入れる余裕がなく,施設側も医療スタッフへの感染を避けようと,入所者全員を入院させることを断念.

 

課題5 介護施設クラスターに関連した情報共有の難しさ

広島県三次市では,一つの介護事務所でのクラスター発生が他の介護事務所での感染にまで広がり,情報の開示の難しさから情報共有ができず,地域全体の事業者が休業・縮小に追い込まれた.

金記者「施設名を公表するかどうかといった判断は,自治体によってばらつきがあります.

公表できない背景には,感染者が出た施設や職員が差別や偏見を受けるのではないかといった懸念があるからなんです.

実際に私が取材した施設でも,職員が偏見を受けて子どもを保育園に通わせられない,あるいは,家族などに止められて出勤ができないといったケースが出ていました.ただ,例えば介護業界の関係者だけに施設名を伝えるなど,できる限りの情報共有を進めるといった工夫もすべきだと思います」

 

 

施設の孤立を防ぎ,どう高齢者の生活と命を守るのか.

 

1.「医療と連携」して施設の“孤立”を防ぐ取り組み(都内介護施設

 

入所者と職員47人のクラスターが発生した,都内の介護施設です.

感染した入所者を受け入れてくれる医療機関を探しましたが,軽症者の入院先は見つかりませんでした.今も防護服での介護が続いています.

北砂ホーム介護士「防護服の装着のしかたも分からない状態で,戸惑いから始まりまして.」

 

患者を介護しながら,感染拡大をどう食い止めればいいのか.

この施設が進めているのが,医療機関との連携です.同じ系列の病院に応援を要請.医師や看護師のチームが,当面の間 派遣されることになりました.

 

この施設に派遣された,医師の白石廣照さんです.

白石さんたちがまず取り組んだのが,感染者の早期発見です.

無症状の場合,保健所で受けにくかったPCR検査を,検査会社の協力を得て,全員に実施.その結果,入所者のおよそ半数が陽性で,感染はすべてのフロアに広がっていることが分かりました.

 

これを受けて白石さんたちは,陽性の人と陰性の人の動線を分けるゾーニングを徹底.2階を感染者専用のフロアとし,すべての患者を隔離して,階をまたいだ行動を制限しました.

 

あそか病院白石廣照医師「全員PCR検査をやって,感染病棟としてPCRの結果が出た当日に(ゾーニングを)すぐやりました.」

 

さらに,介護を続ける職員のためにリスクの高い場所も明示.防護服を着脱する場所を指定し,感染の防止を図っています.連日,入所者の診察を続ける医師や看護師たち.わずかな異変を病歴などと照らし合わせ,感染の兆候をいち早くつかもうとしています.

施設が病院のような役割をできるだけ担うことで,高齢者の命を守る取り組みが続いています.

「がんばろうね.もう少しだからね.」

 

あそか病院白石廣照医師「軽症者であれば,一般病棟と同じように対応できるんじゃないか.今まで前例が,自分の知っているかぎりはない.野戦病院的な存在.」

 

さらに,この施設は集団感染の発生で職員が不足する事態に対応するため,他の介護施設との連携も強めています.

当初,感染者と濃厚接触した職員などが出勤できず,45人のうち6人しか働けなかったこの施設.行政に支援を依頼しましたが,すぐには対応してもらえなかったといいます.そこで,もともとつながりのある都内や関西の施設に広く応援を要請.13人の職員が駆けつけ,介護を続けることができたのです.

 

北砂ホーム施設長「本当に協力ラインがなかったら,介護崩壊はもっと前に起きていました.安心して仕事ができるという担保がなければ,みんな逃げ出してもしかりだった.そこは,しっかり今後につなげていかなくちゃいけないのかなと.」

 

 

2.「行政が主導」して施設の“孤立”を防ぐ (富山市老人保健施設

 

新たな模索は,59人のクラスターが発生した富山市老人保健施設でも始まっています.

医師や看護師,合わせて10人以上が派遣され,対応にあたっていました.

「だいたい陽性者が多い.ここで重症か判定して,日曜日に(病院に)4人送って2人亡くなって.」

 

この支援を主導したのは行政です.医療機関などと連携して,施設に必要な人員を派遣する仕組みを作りました.

介護施設クラスターが発生した場合,行政が医療機関に医師や看護師の派遣を要請.マスクや防護服などの物資を調達したうえで支援にあたります.さらに,介護職員の応援も.介護の協議会と連携して職員を募集し,法人間の垣根を越えて派遣します.

 

富山市福祉保健部酒井敏行部長「こういう問題(クラスター)が起きると,横のつながりが いかに重要か.お互いに顔の見える環境を整えておくことが大事.」

 

行政は,応援職員のためのさまざまな支援策も打ち出しています.宿泊施設の確保や無料のPCR検査など,応援に入りやすい環境を整備.

取り組みの結果,この介護施設には県内各地から9人の介護士が集まりました.

 

応援に入った介護士「心配する声はあったんですが,家族もバックアップがあることを理解してもらえたので,最終的には『頑張ってきてほしい』ということで送り出してもらいました.」

 

地元の介護団体の代表は,行政主導のこの取り組みに期待を寄せています.

 

富山県介護老人保健施設協議会浦田哲郎会長「行政の方にイニシアチブをとってもらって,みんなで協力するんだと.防護服なんかもばっちり用意しとくとか,そういうこともやれるようになれば,初期の対応とか変わってくるのではないか.」

 

 

クラスター”対策/孤立しがちな介護施設の支援策 

いますべきこと

 

▽行政がリーダーシップをとった病院やほかの施設との連携

金記者「特に比較的規模が小さい施設ですと,行政が間に入らないと,病院やほかの施設との協力体制を整えるということがなかなか難しいという面があるんです.

一方で現状を見てみますと,行政が介入し切れていないんじゃないかという声もあるんですね.特に保健所は検査などで ひっ迫していましたので,施設の人手の確保であったりとか,物資の支援,入院先の調整など,そこまで なかなか手が回らなかったというのがありました.

ですから,行政が主導する,この富山モデルについては国もノウハウを広げていきたいとしていますが,もっと早くできなかったのかという実感は取材をしていて思いました.

また,本来 望ましいのは,軽症でも高齢者は入院するということですので,介護が必要な高齢者を病院で受け入れられる体制づくりというのは引き続き求められると思います」

 

▽検査の拡充

金記者「検査の拡充は感染者の早期発見につながります.今は感染者が出ても,必ずしも同じ施設の人全員がすぐに検査を受けられるというわけではないんです.

これについて専門家は,感染が確認された施設で素早く検査を受けられる仕組みを国や行政が整えるべきだと指摘しています」

「検査については30分で調べられる抗原検査も承認されましたので,今後の活用が期待されると思います.

また,政府の専門家会議でも,クラスターが発生した施設では入所者や職員に対して,どんどんPCR検査を進めていくべきだといった提言もなされました.

介護施設での感染を抑えることというのは,多くの人の命を守ることにつながります.ですから,第2波に備えた対策では特に力を入れるべきポイントだと思います.これまで施設の努力に頼る面が大きかったのですが,いつ,どう感染が拡大するか分からないので,やはりここは国や行政が主導して,今すぐ強化すべきだと思います」