クラスター対策/非常事態宣言という日本の新型コロナ対応は,世界の中でもユニークなものだったようで,なかなか理解されていませんでした. しかし,WHOは高く評価し(検査数を除いて),また5月中旬以降,他の国々も徐々に日本を見習おうとする雰囲気が出てきたようです.一ヶ月前のものになりますが,ドイツでの評価に関する日経新聞の記事を転載します.“コロナ対策,日本が「手本」 ドイツ第一人者が指摘”

新型コロナウイルス対策を主導してきた専門家会議が廃止(後に「発展的解消」と言い換えられましたが)されたのは,とても残念なことです.

専門家会議メンバーの説明は,客観性,政治的中立性,誠実性の点で,私にとっても「救い」でした.

http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2020/06/29/000500

yachikusakusaki.hatenablog.com

そして,他にも幾つかの要因があるにせよ,感染抑制を世界トップレベルに保ってきたのはこの方たちがあってこそ.

 

▽感染率の低さは目を見張るもの

新型コロナウイルスに対する抗体を保有している人の割合は,東京で0.1%,大阪で0.17%,宮城で0.03%.

新型コロナ抗体保有割合 東京0.1% 大半が抗体保有せず 厚労省 | NHKニュース

http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2020/06/17/000239

各国主要都市の数値の比較

(ただし,「海外との単純比較は難しい」厚労省

f:id:yachikusakusaki:20200629232914p:plain

▽死亡者は少なく抑えられた:特に「超過死亡」 (発表された死者数よりどの程度多いかを推定できる)のデータは,日本の新型コロナウイルスの被害がとても低く抑えられたことを明瞭に物語っています.

 https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-53087991

http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2020/06/21/004721

f:id:yachikusakusaki:20200629233139p:plain

 

f:id:yachikusakusaki:20200621003229j:plain

f:id:yachikusakusaki:20200629233327p:plain

f:id:yachikusakusaki:20200629233410p:plain

f:id:yachikusakusaki:20200630101216p:plain


 

政府は多くの備えを怠っていました.

土記:「予言」に備える=青野由利 - 毎日新聞

http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2020/06/28/002707

10年前の6月、「新型インフルエンザ対策総括会議」がまとめた報告書は次のような提言をしています.

国の意思決定過程と責任の明確化.国立感染症研究所や検疫所,保健所,地方衛生研究所などの大幅な強化と人材育成.関係機関の役割分担の明確化.----

ほとんど何も行われず,すすめられたのは保健所の統合

コロナ渦に際し,PCR検査数の不足が広く指摘されてきました.しかし,検査態勢の充実もこの報告書に記載されていたのです.しかし,ほとんど何も行われませんでした.

https://mainichi.jp/articles/20200510/k00/00m/040/099000c?pid=14542

 

にもかかわらず,感染率・死亡者数が低く抑えられました.

 

NHKスペシャル 感染拡大阻止最前線からの報告

http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2020/04/12/234217

 見えないまま感染を広げるウイルスに,どう対応すればよいのか.強制的に封鎖を実行する法律上の仕組みはない.検査態勢は十分に整備されていない.人工呼吸器は,高い水準にはない.

押谷さん:

「このウイルスのどこかにある弱点を突いて対策を考えざるを得ない」

「たくさん2次感染者を生み出しているあたりを選択的につぶせるのではないかと強く感じました」

第一波の襲来による死亡者の急増が抑えられました.

3月14日.警戒していた事態が起きようとしていました.

 

 

これは,専門家会議,というより,クラスター対策班/各地域の保健所の力が大きく,専門家会議はこれをバックアップし,非常事態宣言後のアナウンスで大きな力を発揮したと言えるでしょう.

(政府は「丸投げ」しただけですが,それが良かったと思います)

 

このクラスター対策/非常事態宣言という日本の対応の仕方は,世界の中でもユニークなものだったようで,なかなか理解されていませんでした.

しかし,WHOは高く評価していました(検査数を除いて).

進藤「日本では,低いレベルでずっと抑え込んできていて,ほぼ奇跡と見られてきた.この理由は,仰ぎ見られるような感染症の専門家が陣頭指揮を執って来られたこと.それから,国民の高い衛生意識.ショック療法が国民の中にいきわたって,この先を見つめている.解放に向かって積極的建設的な対策が立てられるのではないか」牧原「専門家は科学的中立のもとに諮問を行う.政府は決定と責任を行う.原則をもう一度確認.制度のあり方を点検することが必要」新型コロナウイルス 出口戦略は(3) - yachikusakusaki's blog

 

そして,5月中旬Scienceの記事

Why do some COVID-19 patients infect many others, whereas most don’t spread the virus at all? | Science | AAAS

が掲載された以降他の国々も徐々に日本を見習おうとする雰囲気が出てきたようです.

 

ヨミドクの記事をすでに転載させて頂きました.

http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2020/05/29/000500

同時期に掲載された日経新聞の記事も以下に転載させていただきます.

なお,より詳細に内容をドイツ在住の方が伝えています.

ドイツのコロナ対策班がクラスター対策の重要性を訴え始めた|ショーンKY|note

Drosten教授の日本に関するコメント|umwerlin|note

 

 

コロナ対策,日本が「手本」 ドイツ第一人者が指摘

 日本経済新聞   2020/5/30

コロナ対策、日本が「手本」 ドイツ第一人者が指摘 (写真=AP) :日本経済新聞

f:id:yachikusakusaki:20200630001543j:plain

【ベルリン=石川潤】ドイツの著名なウイルス学者であるシャリテ大学病院のクリスティアン・ドロステン氏が28日,日本の新型コロナウイルス対策を「近い将来の手本にしなければならない」と語った.

一部の感染者から多くの感染が広がっている現象に注目し,日本のクラスター(感染者集団)対策が感染の第2波を防ぐ決め手になりうるとの考えを示した.

 

ドロステン氏は新型コロナの検査の「最初の開発者」(メルケル首相)とされ,ドイツ政府のコロナ対策にも大きな影響力がある.2003年の重症急性呼吸器症候群SARS)の共同発見者としても知られるウイルス学の第一人者だ.

 

ドイツではドロステン氏が連日配信するポッドキャストの人気が高い.

同氏は28日の放送で「スーパースプレッディング」と呼ばれる一部の感染者から爆発的に感染が広がる現象を取り上げ,これを防ぐためには対策の修正が必要で,日本の対応に学ぶ必要があるとの考えを示した.

 

ドロステン氏は,日本はほかのアジア諸国と比べれば厳格な「ロックダウン」なしに感染を押さえ込んでいると指摘.ひとたびクラスターが見つかれば,検査よりも先に関係者全員を隔離することが戦略の「核心」になっていると説明した.

 

もともとドイツは,多くの検査で新型コロナを封じ込めた韓国を対策の参考にしてきた.日本の対策は分かりにくいとの声が強かったが,英語での情報発信が最近増え始めたこともあり(⇒*),注目が高まりつつある.

 

ドイツは検査数や病床などの医療体制で日本を上回り,ほかの欧州諸国と比べれば死者数も低く抑えている.ただ,感染の第2波を避けながらいかに正常化を進めるかが課題で,日本のクラスター対策やスマホアプリを使った追跡など,新たな対策を取り入れようとしている.

 

⇒*

Closed environments facilitate secondary transmission of coronavirus disease 2019 (COVID-19) | medRxiv

Clusters of Coronavirus Disease in Communities, Japan, January–April 2020
著者名:Yuki Furuse, Eiichiro Sando, Naho Tsuchiya, Reiko Miyahara, Ikkoh Yasuda, Yura K. Ko, Mayuko Saito, Konosuke Morimoto, Takeaki Imamura, Yugo Shobugawa, Shohei Nagata, Kazuaki Jindai, Tadatsugu Imamura, Tomimasa Sunagawa, Motoi Suzuki, Hiroshi Nishiura, Hitoshi Oshitani
掲載誌:Emerging Infectious Diseases
Original Publication Date: June 10, 2020

 

付録:このクラスター対策の重要性は,日本でもなかなか理解されず,日本の感染率・死亡者数が少ないことを他の理由に求める意見も多々見受けられました.受け入れられたのは最近のように思います.

専門外の科学者/医師の方々は概ね批判の側にまわり,専門の方でもこの新しい試みに納得できていなかったように思います.あの岩田先生も初めは「三密」に戸惑っておられましたし,渋谷健司医師はロックダウンしない日本の感染爆発を予告していました.

現在の日本ではクラスター対策の重要性は,一般的に広く浸透してきています.日本は「with コロナ」をなんとか乗り切っていけるのでは.

「3密」リスクくっきり クラスターの3割超が飲食店、音楽関係、ジムで:東京新聞 TOKYO Web

<新型コロナ>クラスター特化チーム 県、第2波備え設置へ:東京新聞 TOKYO Web

東京で55人感染 “職場クラスター”も発生 北海道では“昼カラ”で発生…第2波か?専門家会議の見方は

「厳しいのはこれから」クラスター対策班メンバーに聞く<連載2回目> | 医療プレミア特集 | 医療プレミア編集部 | 毎日新聞「医療プレミア」