映画「真実」 インタビュー
VTRゲスト:是枝裕和監督、カトリーヌ・ドヌーブさん、ジュリエット・ビノシュさん
リポーター:近江友里恵アナウンサー
ナレーション:近江友里恵アナウンサー
近江アナ「続いてはがらっと話題が変わります.こちら映画の話題です.
今月公開された,是枝裕和監督の最新作「真実」という映画です.この映画が,女性たちに,母と娘の関係を考えるきっかけを与えているんですね.
是枝監督,そして主演のカトリーヌ・ドヌーブさん,ジュリエット・ビノシュさんにお話をうかがってきました」
映像,ベネチア映画祭(8月イタリア)
是枝裕和『真実』でベネチア映画祭開幕!オープニング飾った感想を語る:第76回ベネチア国際映画祭 - シネマトゥデイ
今年8月,世界三大映画祭の一つ,ベネチア国際映画祭で,日本人の監督として初めて,オープニング作品に選ばれました.
主演はシェルブールの雨傘や昼顔などで知られるフランスの大女優カトリーヌ・ドヌーブさん,そして,その娘役は,イングリッシュ・ペイシェントやショコラ等に出演したジュリエット・ビノシュさんです.
映像,『真実』
物語の舞台は.南仏.
ドヌーブさん演じる国民的大女優ファビエンヌは,自分のこれまでの人生を綴った自伝本を出版します.タイトルは「真実」.ビノシュさん演じる娘のリュミールは,母親の出版を機に,久しぶりに実家を訪ねます.
さっそく母の本を読んでみると,そこに綴られていたのは,タイトルの真実とはほど遠い内容でした.
リュミール「何よこれ.でたらめじゃないの.どこに真実があるの?」
ファビエンヌ「私は女優よ.本当の話なんかしない.それに,真実なんて面白くないわ」
リュミール「よく書いて欲しかったんだ,自分のこと」
ファビエンヌ「私じゃない」
リュミール「なんでサラおばさんのことは,1行もないの?」
リュミール「ママみたいに強い人ばかりじゃない」
ファビエンヌ「強くて何が悪いの?」
自伝本「真実」を巡る,長年にわたりすれ違ってきた母と娘の思いがぶつかりあいます.
やがて,本には書かれていない,家族を巡る本当の姿が明らかになります.
互いの胸の内を知る中で,これまで積もっていたわだかまりが少しずつ溶けていきます.
今月日本での上映が始まると,SNSにはこんな反響が.
「母と娘,痛いほど分かる感覚」
「どんな母娘(おやこ)関係かで,どこで涙を流すか違うだろうな」
「母娘は,いろんな意味で,面倒くさいって改めて実感」
など,自分たちの母娘関係を見つめ直すきっかけにもなっているようです.
それでは,インタビュー.和やかな雰囲気で始まりました.
ドヌーブ「深く座ればいいのに」
ビノシュ「腰が痛くて」
ドヌーブ「なおさら深く座った方がいいんじゃない?」
ビノシュ「背もたれに届かないの」
ドヌーブ「お尻をもっと後ろにつけるのよ」
ビノシュ「これ以上下がると,脚が太く映るから」
ドヌーブ「そこまで映らないから,大丈夫よ」
ビノシュ「ははははは」
近江アナ「親子の関係について,皆さんでお話しされたと伺ったのですが---」
ドヌーブ「今回の脚本は,監督と何年もかけて話し合って完成しました」
ビノシュ「映画の中で重要なシーンがあって,私が(おもちゃの)劇場を持って来る場面で----」
その場面はこちら
画像 おもちゃの劇場の前に母娘
おもちゃの劇場をきっかけにすれ違っていた母と娘の距離が縮まっていきます.
ビノシュ「何回もリハーサルをしました.母娘の距離が近づくのを,うまく表現できなかった.是枝監督は,強制することはありません.役者同士で起きることを,監督は見守っていました」
今回,初めて海外で撮影した是枝監督.
出演者をはじめ,スタッフのほとんどが外国人で,言葉が通じなかったのですが,こんな体験があったと言います.
是枝監督「お芝居をしてみて,僕がカトリーヌ・ドヌーブさんに『今のこうやって見て下さい』って日本語で言って,通訳するまに,『わかった.こういうことね』って,彼女が言って.
『なんか今,日本語が分かったみたい』って瞬間が増えてくるんですよね,やってくと.お互いに,何を求めてるか,言葉を介さなくても分かってくる.とても良い時間でした.
そういうやりとりの中で,僕自身も親子関係をつかんでいくヒントを沢山もらいました」
近江アナ「ドヌーブさんは,娘の前でも演じ続けるという悲しくも切なくも冷たいところもあるお母さんを見て,どんなふうに思われましたか?」
ドヌーブ「複雑な役だと思いました.私と娘の関係とはかけ離れていて,冷たく厳しい母親に最初は驚きました」
近江アナ「是枝さんは,お二人と親子の関係についてお話をして,考えを膨らませていかれたのですか?」
是枝監督「例えば,ビノシュさんと話している中で,『この母親は,映画の中で母を演じるために私を産んだのかもしれないわね』って言葉がポロッと出て,その瞬間は怖いなと思いましたけど,たぶん,彼女の役作りの中には,それがまず一番最初にあってね--」
リュミール「私はママを絶対,許さない」
ファビエンヌ「確かに私はひどい母親でひどい友達よ.でも,よい母親でヘタな役者よりずっとマシ.あなたが許さなくたって.ファンは許してくれる.役者の気持ちなんて,あなたには分からないでしょうけど」
是枝監督「どういうふうに,母を受け入れるところまでいくのか.それは,最終的には自分の生を受け入れることでもあるから,母親を許して,自分を受け入れていくっていう」
ビノシュ「母は変わらないと気づき,娘は母を受け入れます.この状況から抜け出す方法は,ありのままの母を受け入れることでした」
リュミール「(「真実」を読みながら)“誰よりも先に走ってきて,私とてをつなぎ,学校の話をしてくれた” こんなこと一度もなかった.待っていたのはいつもパパかリュック」
ファビエンヌ「私,今,セリフ覚えてるの.付箋なんか張っちゃって」
映画の中で描かれているのは,誰もが経験しうる母娘の間でのすれ違いです.
演じているお二人は,ふだん,自分の家族の間でお互いを理解するためにどんな工夫をしているのか,聞いてみました.
ドヌーブ「相手を決めつけないこと.意見はしても押しつけない.それはとても重要で,そうしないと母娘に支配関係ができてしまう.そして,相手の話をよく聞くことですね」
近江アナ「話を聞いても聞いても,親子でわかり合えないよ,となると,本当につらいと思うんですよね.そういう場合は,親子であってもわかり合えないところもあるんだって考えてもいいと思いますか?」
ビノシュ「それでも(話を聞くことを)試すべきね」
近江アナ「そうですね」
ビノシュ「何もしない時間が大切です.何の意味もないような時間.仕事で忙しく,買い物,料理,宿題などに追われて,終わりのないサイクルの中で,私たちは生きています.
何もしない時間はぜいたくですが,相手の話を聞くためには必要です」
画像;撮影風景
是枝監督「よ〜い,はい」
これまで多くの作品を作り続けてきた是枝監督.こんな質問をしてみました.
近江アナ「是枝さんはテレビでドキュメンタリーを作っていた頃から,誰か1人のために番組や映画を作るんだという考えを貫かれていたと伺いましたが,今回は誰のための映画だったと思われますか?」
是枝監督「今回,あえて挙げると2人いるんだけど,
僕の母はフランス映画が好きだったから,え〜,もう亡くなってますけど,母親が見たらきっと好きになってくれるだろうと思って,そういうものにしたいという思いで作りましたし,
もう1人は,昨年亡くなった樹木希林さん.にささげる映画ではないですけれど,彼女と一緒に見られたら楽しかっただろうと思ってます」