マサキ/マサキノカズラ(テイカカズラ)天のマサキをかずらにして頭に巻いての マサキノカズラは,古今集に記さている植物で,テイカカズラの古名.古事記と同時代の万葉集に,“まさき”や“マサキノカズラ”は出てきません.万葉集では,“つた”と詠まれている植物がテイカカズラだろうと言われていますが----.テイカカズラの名前の由来は,能の「定家」説が広まっていますが----.テイカカズラという名前をガーデニングショップで見ることはほとんどありませんが,ハツユキカズラはよく見かけます.テイカカズラの園芸種

古事記,岩戸隠れの物語にある五種の植物のうち,

 ヒカゲ/ヒカゲノカズラ

 マサキ/マサキノカズラ(テイカカズラ

は,“神懸かりする”アメノウズメ”の体を飾り,

 ササ 小竹

はアメノウズメの手に.

 

“三浦祐介著 口語訳古事記

アメノウズメが,天の香山(かぐやま)の天のヒカゲを襷(たすき)にして肩に掛けての,天のマサキをかずらにして頭に巻いての,天の香山(かぐやま)の小竹(ささ)の葉を束ねて手草(たぐさ)として手に持っての,

 

今日の話題は,この内のマサキ/マサキノカズラ(テイカカズラ).

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テイカカズラ - Wikipedia テイカカズラの写真<1> - 育て方図鑑 | みんなの趣味の園芸



「マサキノカズラが,テイカカズラの古名」であることは,広く認められていることのようで,

例えば,日本大百科全書(ニッポニカ)テイカカズラとは - コトバンク

には,

“昔,マサキノカズラといったものはテイカカズラであり.天鈿女命(あめのうずめのみこと)が天岩戸(あめのいわと)の前で鬘(かずら)にしたものはテイカカズラであるという.”

とあります.

 

マサキノカズラは,古今集にその名が記されている植物.

ウィキペディアテイカカズラ - Wikipediaや「森山 恵 詩のページ  poesia poesia」https://poesia.exblog.jp/18068854/

 に次の歌が紹介されています.

 

み山には あられ降るらし と山なる まさきのかづら 色づきにけり

神遊びの歌『古今集』巻第20,1077番歌

 

一方,古事記と同時代の万葉集に,“まさき”や“マサキノカズラ”は出てこないのが,やや不思議.

 

万葉集では,つた(つな,つの,いはつな)と詠まれている植物がテイカカズラだろうと言われています(山田卓三/中島信太郎 万葉植物事典 北隆館).

確証にまでは至っていないようで---

テイカカズラなら,頭を飾っている歌があってもいいように思うのですが(⇒注1),多くは「這うツタ」として詠まれているのが,ツタ=テイカカズラ説の弱み?

 

巻十七 3991 大伴家持

長歌----二上山(ふたかみやま)に 延(は)ふ蔦(つた)の 行きは別れず あり通ひ いや年のはに,思ふどち かくし遊ばむ 今も見るごと

 

----二上山(ふたかみやま)に延(は)う蔦(つた)のように,行き別れることなく,絶えることなく通って,毎年,友達同士,こうやって遊ぼうよ.いまの私たちのように.(たのしい万葉集

たのしい万葉集(3991): もののふの八十伴の男の思ふどち心遣らむと

 

⇒注1 

カズラ:蔓という漢字は,もともとは“ツル”を意味していました.

上代つる草を髪に結んだり,巻きつけたりして頭の飾りとし,これを(かずら)といった.そのためつる草を〈かずら〉と称するようになったという.」(世界大百科事典)

テイカカズラなら,頭を飾っていたのでは?

 

テイカカズラの名前の由来

名前の由来について,ウィキペディアや多くのガーデニングのサイトが,“能の「定家」”からとしています.

 

ただし,“庭木図鑑 植木ペディア” テイカカズラ - 庭木図鑑 植木ペディア

は---

“テイカは「定家」ではなく「庭下」であり,庭の下の方に咲く葛の花を意味するという説の方が有力視されている”

 

コトバンクにある,ブリタニカ国際大百科事典〜日本大百科事典では,テイカカズラの由来を記していません.名前の由来が確定事項ではないことは間違いないと思われます.

 

とはいえ,

能「定家」由来説はとても面白いので,話のネタとしてはこちらの方が数段上.この面白さ故にガーデニングのサイトなどではこちらの説が取り上げられているのでしょう.面白いといって拡散するのは×ですが---

とりあえず?能「定家」のあらすじを転載しておきます.

 

宝生流謡曲 定  家

宝生流謡曲 定 家

あらすじ

北国から上って来た旅の僧が,都千本辺りで暮色を眺めているうち,俄かに時雨が降ってきたので,雨宿りをしていると,そこに一人の若い女が現れ,ここは歌人藤原定家が建てた時雨の亭(ちん)だと教えます.

女は昔を懐かしむかに見え,定家の歌を詠み,僧を式子内親王の墓に案内します.

もと賀茂の斎院だった内親王は,定家と人目を忍ぶ深い契りを結ばれましたが,世間に漏れたため,逢うことが出来ないまま亡くなりました.それ以来定家の執心が,葛となって内親王の墓にまといつき,内親王の魂もまた安まることがなかったと女は物語り,自分こそが式子内親王である,どうかこの苦から救いたまえと言って失せます.

その夜,僧が読経して弔うと,内親王の霊が墓の中から現れ,法の力によって成仏したことを喜び,報恩のためと舞を舞います.やがてもとの墓の中に帰り,再び定家葛にまといつかれて姿を消します.  (「宝生の能」平成11年10月号より)

 

テイカカズラは,

リンドウ目 Gentianales,キョウチクトウ科 Apocynaceae,キョウチクトウ亜科Apocynoideae.連Apocyneae,テイカカズラ属 Trachelospermum

テイカカズラ T. asiaticum

テイカカズラ - Wikipedia

 

キョウチクトウ科には,和名の科の名前になっているキョウチクトウをはじめ.毒性を持ち,薬としても役立っていた(いる)有名な植物がいくつか分類されています.

キョウチクトウ科 - Wikipedia

しかし,テイカカズラには強い毒性は見られないようで,朝鮮伝統医療では薬としても用いられているとのこと.Trachelospermum asiaticum - Wikipedia )

 

そして,ガーデニングで人気が高いのは--

なんといっても,テイカカズラの園芸種ハツユキカズラ

ガーデニングショップで,しばしば見かけます.

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ハツユキカズラとは - 育て方図鑑 | みんなの趣味の園芸 NHK出版