マサキノカズラ/テイカカズラを詠んだ短歌  謡曲「定家」の葛ともいわれるテイカカズラは,古名が古事記にも出てくるマサキノカズラとされます. 限りなき思ひのつなのなくはこそ正木の葛よりもなやまめ 在原業平  松にはふ正木の葛散りにけり外山の秋は風すさぶらん 西行  外山なる正木の葛冬くればふかくも色のなりまさるかな 和泉式部  歌人の定家葛といふ名すら時代移りし花の咲くかな 岡麓  定家葛の盆の白花さきそめて帰りきまさむ人まつこころ 福田たの子

今日も江の島は曇り空.

 

午後,鎌倉へ届け物ついでに立ち寄った海蔵寺では,キキョウの花が最盛期.

水鉢で育てられている蓮の花も見頃でした.

 

夕方散歩で出会ったのは,テイカカズラ

 

鎌倉おんめ様の花は終わっていたのに,近所の児童公園では,まだ元気に花を咲かせていました.

 

学名はTrachelospermum asiaticum,英語ではAsiatic jasmineと呼ばれ,香りが強いことでも知られています.

名前の由来としてよく取り上げられている説は,能の演目「定家」に由来しているというもの.

能「定家」あらすじは:https://www.the-noh.com/jp/plays/data/program_117.html

:定家の執心が蔓に姿を変えて式子内親王の墓にまとわりつく---

(ただし,この説は信頼できる辞書には掲載されていません)

 

園芸店でよく見かけるハツユキカズラは,テイカカズラの園芸品種.葉を楽しむ品種で花はあまり咲きません.

https://www.shuminoengei.jp/m-pc/a-page_p_detail/target_plant_code-736

テイカカズラは,キョウチクトウ科テイカカズラ属の植物で,毒性を持ちます.

同属のトウキョウチクトウ(トウテイカカズラ,タイワンテイカカズラ,スタージャスミン Trachelospermum jasminoides

)は,精油が中国・ベトナム・タイで香水/香料として用いられる他,

全草が生薬「絡石藤」として用いられます.(ただし絡石藤の本体には混乱が見られるようです)

https://dentomed.toyama-wakan.net/ja/生薬学術情報/絡石藤/SCC000406?

https://en.wikipedia.org/wiki/Trachelospermum_jasminoides

 

ネット上ではテイカカズラを絡石/絡石藤としているサイトもありますが---日本国語大辞典によればこれは間違い.

 

 

古事記にある“マサキノカズラ”(=岩戸隠れの物語でアメノウズメが頭に巻いていた”天のマサキ”)は,テイカカズラの古名と考えられ,古今集後撰集新古今集等では“マサキノカズラ”が数多く詠まれています.

 

 

マサキノカズラ/テイカカズラを詠んだ短歌

(古今短歌歳時記より)

 

深山には霰ふるらしと山なるまさ木のかづら色づきにけり  作者未詳 古今集

 

限りなき思ひのつなのなくはこそ正木の葛よりもなやまめ  在原業平 後撰集

 

旅寝する宿は深山に閉ぢられて正木のかづらくる人もなし  源経信 後拾遺集

 

松にはふ正木の葛散りにけり外山の秋は風すさぶらん  西行 新古今集

 

うつりゆく雲にあらしの声すなり散るかさ巻きの葛城(かづらぎ)の山  藤原雅経 新古今集

 

おとづれし正木のかづら散りはててと山も今はあられをぞきく  藤原定家 拾遺愚草

 

外山なる正木の葛冬くればふかくも色のなりまさるかな  和泉式部 続後撰集

 

歌人の定家葛といふ名すら時代移りし花の咲くかな  岡麓 小笹生 

 

定家葛の盆の白花さきそめて帰りきまさむ人まつこころ  福田たの子 定家かづら