「秋の七草」を詠んだ歌を改めて紹介しようというシリーズ:
今日は,昨日に続いて
葛(2)
クズと聞いて,現代の多くの人が思い浮かべるのは,くず餅ではないでしょうか.
クズという名前の由来として,「昔、大和(やまと)(奈良県)の国栖(くず)の人がデンプンを売りに出したので、この植物をクズとよぶようになった」という説があります(クズとは - コトバンク).
現在でも,関西地方のくず餅は,「葛餅」と書かれ,“マメ科のつる性多年草「葛」の根から精製した「本葛粉」が原材料”(
吉野葛のお取り寄せ|奈良 亀久堂・華緑園本舗).ただし,他のデンプンを使ったものもあるので要チェック.
同じ物かと思ったら大間違い! 関東と関西の「くず餅」は〇〇が違う - ITmedia NEWS
一方関東のくず餅は,“小麦粉からグルテンを取り除いた「うき粉」を乳酸で発酵させたものが原材料”.ニセのくず餅というわけではなく,「和菓子で唯一の発酵食品と言う事で、江戸時代から長く東京を中心とした関東で今日も愛されている」とのことです.
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漢方生薬「葛根」
葛の根はデンプンの材料となると同時に,周皮を除いた根を乾燥した「葛根」は,現在でも用いられている漢方生薬.
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かぜ薬,解熱鎮痛消炎薬とみなされる処方に配合されています.
その代表的な処方が「葛根湯」.
処方される生薬は,葛根(カッコン:植物はクズ)のほか,麻王(マオウ:シナマオウ他),大棗(タイソウ:ナツメ),桂皮(ケイヒ:トウケンニッキ),芍薬(シャクヤク:シャクヤク),甘草(カンゾウ:ウラルカンゾウ他),生姜(ショウキョウ,ショウガ).「体力中等度以上のものの、感冒の初期(汗をかいていないもの)、鼻かぜ、鼻炎、頭痛、肩こりなどに適用されます」とのこと.
葛根湯(かっこんとう):武田薬品工業株式会社 京都薬用植物園
葛は,その他,繊維を採るためにも用いられ,昨日紹介した万葉集にもこのことが詠み込まれています.
大刀の後(しり)鞘に入野に葛引く我妹(わぎも)真袖もち着せてむとかも夏草刈るも 作者不詳(柿本人麻呂歌集より) 万葉集 巻七,一二七二
意味:入野で葛(くず)を引いている私の妻が,(その葛で作った着物を私に)両手で着せてくれようと思っているのか,夏草(なつくさ)を刈っています.
平安時代以降も,葛は短歌に詠われていますが,取り上げられたのはほとんどが葉で,葛花が歌題となったのは,明治時代以降.
理由はよく分かりませんが,万葉集が再評価され秋の七草が改めて注目されたのでしょうか?
斎藤茂吉,釈迢空など名だたる歌人が取り上げるようになりました.
葛を詠んだ歌(2)
ちはやぶる神の斎垣(いがき)に這う葛も秋にはあへず移ろひにけり 紀貫之 古今集・秋下,二六二
秋風の吹き裏返す葛の葉のうらみてもなほ恨めしきかな 平貞文 古今集・恋,八三三
葛の葉のうらみにかへる夢の世を忘れがたみの野ベの秋風 藤原俊成女(ふじわらのしゅんぜいのおんな) 新古今集・雑・上,一五六三
楚々ときておどろがなかに葛の葉の秋をみせゆくおもしろの風 太田水穂 螺鈿
葛の花ここにも咲きて人里のものの恋(こほ)しき心おごらず 斎藤茂吉 ともしび
みねの風けふは沢辺に落ちてふく広葉がくれの葛の白花 若山牧水 砂丘
葛の花 踏みしだかれて,色あたらし.この山道を行きし人あり 釈迢空 海山のあひだ
ひとは逝きわれはおくるるたそがれの真葛原(まくずがはら)に通ふ風道 藤井常世 くさのたてがみ