オミナエシを詠んだ歌(1) オミナエシの「おみな」は「をみな」で,「おんな」の古語! 万葉集では,「姫部志」など,美しい女を表す字があてられています.スイカズラ科オミナエシ属に分類され,オトコエシの「米花」に対し.「栗花」と呼ばれることも. をみなへし 秋萩折れれ 玉桙(たまほこ)の 道行きづとと 乞はむ子がため   石川老夫  高圓(たかまと)の 宮の裾廻(すそみ)の 野づかさに 今咲けるらむ をみなへしはも 大伴家持 

秋の七草」を詠んだ歌を改めて紹介しようというシリーズ:

紹介というのはおこがましく,いつもの通り「写すだけ」ですが----.

 

萩の花 尾花(をばな) 葛花(くずはな) 瞿麦(なでしこ)の(が)花 女郎花(をみなへし) また藤袴(ふぢはかま) 朝顔の(が)花  山上憶良  万葉集 巻八 一五三八

 

芽之花 乎花葛花 瞿麦之花 姫部志 又藤袴 朝皃之花

 

今日は

オミナエシ(1)

オミナエシは,わが家でも栽培してきたこともあり,何回かこのブログで取りあげてきたので,また繰り返しのブログになります.

 

今年の花は終わってしまったので,上図は,何年か前の画像です.わが家では7月に咲き始め9月までというのが毎年の花期.一見ぱっとしない花と思ってしまうかもしれませんが,小さいながらしっかりした花で黄色の色も艶があって鮮やか.私が好きな花の一つです.

 

万葉集の歌を紹介しようと思いますが,その前に語源等について若干の解説です.

 

語源と表記

オミナエシの語源は定かではありません.しかし「おみな」は「をみな」で,「おんな」の古語!

語誌は日本国語大辞典にかなり詳しく紹介されています.是非ご一読を⇒女とは - コトバンク

 

そして,万葉集ではオミナエシは,美しい女を表す字があてられています.

上記の山上憶良の歌では,「姫部志」.

他の表記は:姫部四・佳人部為,美人部思,美人部師,娘子部四・姫押,乎美奈敝之 万葉の植物一覧 2

 

「女郎花」の漢字が当てられるようになったのは,平安以降とのこと.江戸期以降は蔑称となってしまった「女郎」は,以前は一種の敬語であったようです.

*昌泰元年亭子院女郎花合(898) 日本国語大辞典
「亭子の帝おりゐさせ給ひて又の年、をみなへしあはせせさせ給ひけるを」

(みなへしあはせ【女郎花合】:物合わせの一つ.左右に分かれ,オミナエシの花に歌を添えたものを出し合って比べ、優劣を競う遊び)

 

植物分類

以前はオミナエシオミナエシ属とされていましたが,現在は

マツムシソウ目 Dipsacales,スイカズラ科 Caprifoliaceae,

Valerianoideae(オミナエシ亜科?ノヂシャ亜科?今までのオミナエシ科に相当します),

オミナエシ属 Patrinia,

オミナエシ P. scabiosifolia 

 

オトコエシ,キンレイカなどが同じ属に分類されています.

オミナエシは「栗花」,オトコエシは「米花」と呼ばれることがあるそうです(山田卓三 万葉集つれづれ 大悠社)

 

https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2020.10.29.359950v1.full

 

下図はいずれもウィキペディアから



オミナエシを詠んだ歌 万葉集

万葉集には14首にオミナエシが登場します.

 

をみなへし 秋萩折れれ 玉桙(たまほこ)の 道行きづとと 乞はむ子がため   石川老夫(いしかわのおきな) 万葉集 巻八 一五三四

 

 

秋の田の 穂向き 見がてり 我が背子(せこ)が ふさ手折り来る をみなへしかも  大伴家持 万葉集 巻一七 三九四三

 

 

をみなへし 秋萩しのぎ さを鹿の 露別け鳴かむ 高圓(たかまと)の野ぞ  大伴家持 万葉集 巻二〇 四二九七

 

 

高圓(たかまと)の 宮の裾廻(すそみ)の 野づかさに 今咲けるらむ をみなへしはも  大伴家持 万葉集 巻二十 四三一六

(高圓の離宮の山の裾まわりの野の高みに,ちょうど今咲いているだろう.あの女郎花は.

折口信夫 万葉集