「秋の七草」を詠んだ歌を改めて紹介しようというシリーズ:
紹介というのはおこがましく,いつもの通り「写すだけ」ですが----.
オミナエシ(2)
昨日は,植物オミナエシ(女郎花)の語源等の解説のまとめと,万葉集に詠まれた歌をいくつか紹介しました.
今日は.平安時代以降の歌をいくつか記載します.
古今和歌歳時記(鳥居正博 教育社)によれば,女郎花は平安時代には歌題としてとても好まれ,「古今集」18,「後撰集」24,「拾遺集」12と,沢山の女郎花の歌が勅撰集に取りあげられました.
しかし,その後減少し,「新古今集」では6首のみとのこと.
その傾向は近現代まで続いていて,明治期以降の短歌でもあまり詠まれず,現代短歌ではほとんど取りあげられていないようです.
鎌倉時代以後,あまり好まれなくなった理由はよく分かりません.
女郎花の弱点=香りがしない,と言うより,人によっては異臭と感じるかもしれない,が関係しているのかもしれません.香りの好みが変わった?
私の勝手な予測ですが----
女郎花は,源氏物語や紫式部日記中でも歌に取りあげられていることはよく知られ,高校古文の教材にもなっているようです.
▽源氏物語「手習い」 源氏物語を読む 手習・注釈
あだし野の風になびくな女郎花われしめ結(ゆ)はむ道遠くとも (中将の君が浮舟に贈った歌)
女郎花盛りの色を見るからに露のわきける身こそ知らるれ 紫式部
https://manapedia.jp/text/5789
白露はわきてもおかじ女郎花心からにや色の染むらむ 藤原道長
https://manapedia.jp/text/5791
現代語訳:白露が(あなたと女郎花を)分け隔てて降りるわけではないでしょう。女郎花は(美しくあろうとするその)心によって(美しい)色に染まるのではないでしょうか。(だから、あなたもその心次第ではないですか。)
女郎花多かる野辺に宿りせばあやなくあだの名をや立ちなむ 小野美材(よしき) 古今集・秋上,二二九
をみなえし秋の野風にうちなびき心ひとつを誰によすらむ 藤原時平 古今集・秋上,二三〇
をぐら山みねたちならしなく鹿のへにけむ秋をしる人ぞなき 紀貫之 古今集・物名,四三九
女郎花をりけむ枝のふしごとに過ぎにし君をおもひ出やせし 藤原仲平 後撰集・秋中,三四九
わが机袖にはらへどほろろ散る女郎花こそうらさびしけれ 与謝野晶子 春泥集
をみなえし茂きがもとに疎らかに小松稚(わか)松おひ交り見ゆ 長塚節 長塚節歌集
女郎花ふくむ韮山濡れなびき雨は嵐にならんとするも 木下利玄 紅玉
秋づきて草陰荒くなりにけり咲きゐるものは女郎花の花 尾山篤二郎 まんじゅさげ
おそひくる濃霧の中に暗くしづみこもごも揺るる女郎花の群 植松壽樹(ひさき) 枯山水(こせんすい)
つつましくおのがなさけにうなだれてをみなえしこそ咲きてありけれ 中原綾子 閻浮堤(えんぶだい)