「秋の七草」を詠んだ歌を改めて紹介しようというシリーズ:
今日は
朝皃 / キキョウ 桔梗(2)
昨日のブログでも取り上げたように
朝皃 / キキョウ 桔梗(1) 山上憶良の「朝皃之花」は「桔梗」とするのが一般的.
「キキョウ」という名前は万葉集には出てきませんが,万葉集で「朝皃/朝貌/朝顔」と詠まれている花がキキョウではないかと言われ,異論はあるものの,この見方が現代では一般的になっています.
朝顔は,平安時代には源氏物語,枕草子に登場し,また和歌にも詠われますが,その場合の(=平安時代以降の)朝顔は,現代の朝顔と同種と見なされているようです.
一方の「キキョウ/桔梗」.
「きちかう」として古今集以下の古歌にあるものの,まれ.あったとしても,「物の名によみいれたものがめだつ」とのこと.(古今短歌歳時記)
「万葉の朝顔は桔梗」説を受け入れたとしても,「古歌に桔梗はまれ」というのも不思議な気がします.明治期以降の短歌に盛んに取り上げられ,現代も人気のある花ですから.
キキョウという名前は,「中国名「桔梗」由来=桔梗:キチキョウ→キッキョウ→キキョウ」とするのが通説.(ニッポニカ キキョウとは - コトバンク).
古名はきちこう(旧かなでは「きちかう」)で,古歌はもとより,近現代短歌でもこの名称が使われる場合があります.
根は「桔梗根」として漢方薬に現在も使われ,去痰,排膿作用があるとされています.
キキョウ | 薬草データベース キキョウ/新常用和漢薬集 | 公益社団法人東京生薬協会
「秋の七草」ですから,園芸店には秋に店頭に並びます.しかし実際に育ててみると----
「6月〜7月初旬に咲き終わってしまう.初めて育てた品種は背丈が高い種類だったので,初めに咲いたものもまとまらず、切り戻して咲かせてみても姿形は期待外れ.最近は矮小種が多く販売されていて,こちらは切り戻すとそこそこの花.でも夏前の花姿とはかなり違う.「秋に咲いた」キキョウを購入しました 生産する方の技術のたまもの - yachikusakusaki's blog」
山田卓三先生によると
「キキョウは郷里信州ではお盆の花.野生のキキョウは茎毎に一輪ずつ(一茎一輪)で,茎が細く草むらに隠れ傾いて咲いていて風情がある」とのこと.
明治期以降のキキョウを詠んだ短歌を鑑賞する際には,現代園芸店の矮小種ではなく,「草むらに隠れ傾いて咲いている桔梗」をイメージする必要があるように思います.
以下,「古今短歌歳時記(鳥居正博 教育社)」より抜粋
きちかうのむらさきの花萎(しぼ)む時わが身は愛(は)しとおもふかなしみ 斎藤茂吉 赤光
しらはにの瓶にさやけき水吸いて桔梗の花は引き締まりみゆ 長塚節 長塚節歌集
桔梗(きちかう)はひと花ながら傍(わき)歩く雀の素足すずしくかろし 北原白秋 橡(つるばみ)
桔梗(きちかう)は英知のごとく咲き澄めり色なき風の冴ゆる朝(あした)を 谷邦夫 つがの木
ひれ伏せし我に向ひて桔梗(きちかう)の生きてよしといふ日の美しさ 斉藤史 暦年
桔梗(きちかう)のかがやくばかり艶もちて萌え出でし芽を惜しみ厭(あ)かなく 宮柊二 多くの夜の歌
哀しみの存在よりもほのかなるこの一夏の桔梗(きちかう)の花 山中智恵子 鶺鴒界せきれいかい
かなしみはついに静かに至るべし薄明かりの中淡き桔梗(きちかう) 石田比呂志 蝉声集せんせいしゅう
星よりも星のかたちに咲く桔梗 花もめしべも五つに裂けて 俵万智 かぜのてのひら