「秋の七草」を詠んだ歌を改めて紹介しようというシリーズ:
いつもの通り「写すだけ」ですが----.
萩の花 尾花(をばな) 葛花(くずはな) 瞿麦(なでしこ)の(が)花 女郎花(をみなへし) また藤袴(ふぢはかま) 朝顔の(が)花 山上憶良 万葉集 巻八 一五三八
芽之花 乎花葛花 瞿麦之花 姫部志 又藤袴 朝皃之花
今日は
葛(1)
秋の七草の中で,フラワーショップで売られていないのは,この葛だけではないでしょうか?
今,クズと聞いて思い浮かべるのは,くず餅ですね.
漢方薬に親しんでいる方なら葛根湯.
これらの原材料としての葛は細々と栽培されているようですが---
基本的に葛は山で自生する植物.
多くは雑草扱い.アメリカでは侵略的外来種として大々的に駆除が行われているとか.
花はかわいらしいとは思いますが---特に愛でる対象ではないようにも思います.
実際,枕草子では,「草の花は(64段)」ではなく,「草は(63段)」で取り上げられています.
63段
草は菖蒲(しょうぶ).菰(こも).葵(あおい),いとをかし.-----
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山菅(やますげ).日かげ.山藍(やまあい).浜木綿(はまゆう).葛.笹.青つづら.なづな.苗.浅茅(あさぢ),いとをかし。
山菅(やますげ).日かげ.山藍(やまあい).浜木綿(はまゆう).葛.笹.青つづら.なづな.苗.浅茅(あさぢ)など,これらもとても素晴らしい草である.
万葉集でも,山上憶良は「葛花」を七草に数えましたが,他に葛花を詠った歌は見当たりません.
葛は21首も詠まれているのに!
夏葛(なつくず)の絶えぬ使のよどめれば事しもあるごと思ひつるかも 大伴坂上郎女 万葉集 巻四,六四九
意味:いつも(夏葛のように)絶えることなくやってくる使いの人が来ないので,何事かが起こったのかと思ってしまいました.
大刀の後(しり)鞘に入野に葛引く我妹(わぎも)真袖もち着せてむとかも夏草刈るも 作者不詳(柿本人麻呂歌集より) 万葉集 巻七,一二七二
意味:入野で葛(くず)を引いている私の妻が,(その葛で作った着物を私に)両手で着せてくれようと思っているのか,夏草(なつくさ)を刈っています.
真葛原(まくずはら)靡(なび)く秋風吹くごとに阿太(あだ)の大野の萩(はぎ)の花散る 作者不詳 万葉集 巻一〇,二〇九六
斎藤茂吉(万葉秀歌) 「阿太の野」は,今の吉野,下市町の西に大阿太村がある.その附近一帯の原野であっただろう.葛の生繁っているのを靡かす秋風が吹く度毎に,阿太の野の萩が散るというのだが,二つとも初秋のものだし,一方は広葉の翻えるもの,一方はこまかい紅い花というので,作者の頭には両方とも感じが乗っていたものである.それを,「吹く毎に」で融合させているので,穉拙なところに,却って古調の面目があらわれて居る.特に,「阿太の大野の萩が花散る」の,諧調 音はいうに云われぬものである.
クズは,
マメ科 Fabaceae,マメ亜科 Faboideae,インゲンマメ連 Phaseoleae,ダイズ亜連 Glycininae,
クズ属 Pueraria,
クズ P. montana var. lobata