萩は,日本人に長く愛されてきた花で,和の花と言って良いでしょう.万葉集で最も多く詠われた植物であることはよく知られています.枕草子でも絶賛されました.  我が宿(やど)の 一群(ひとむら)萩を 思ふ子に 見せずほとほと 散らしつるかも 大伴家持  真葛原 靡く(なびく)秋風 吹く毎に 阿太(阿陀)の大野の 萩が花散る 作者不詳 万葉集

海蔵寺に萩を見に行ってきました.

多く植えられているわけではありませんが,山門手前の階段の両脇にきれいに植えられていて,見応えがあります.

手前が赤花,門のすぐ横が白花.

遠景では赤花が目立ちますが,白萩に囲まれた山門はなかなかのものです.

 

 

萩は,日本人に長く愛されてきた花で,和の花と言って良いでしょう.

(少なくとも英語圏ではあまり話題になっていない花のようで,英語版ウィキペディアやブリタニカには,Lespedeza(属名)の花の話題はほとんどありません.なぜか牧草として用いられる種の役割が強調されていたりします.花は庭園に植えられる「こともある」といった記述)

 

万葉集で最も多く詠われた植物であることはよく知られています.

下表の集計では138首としていますが,142首としている方もいます.

http://taka.no.coocan.jp/a5/cgi-bin/dfrontpage/fudemakase/SYOKUBUTUkanmei.htm

万葉の花とその名前について

 

そして,枕草子でも絶賛されていることも,有名.

 

枕草子 64段

萩,いと色深う,枝たをやかに咲きたるが,朝露に濡れてなよなよとひろごり伏したる.さ牡鹿のわきて立ちならすらむも,心異なり.

(萩,とても色合いが深くて,枝もしなやかな感じで咲いている花が,朝露に濡れてなよなよして広がって伏せている.歌で牡鹿が好んで立ち寄るとされていることも,他の物に対する心ばえとは違っている.

https://esdiscovery.jp/knowledge/japan5/makura037.html )

 

秋の草と書いて「萩」ですが---

「萩」という漢字が,中国では萩を意味していないことは,よく知られています.

「はぎ」という読み方は,いわゆる「国訓」(漢字の固有の意味ではなくて、日本だけでおこなわれている訓)なんですね.

 

角川字源

萩  形声.艸と,音符秋シウとから成る.

意味

①草の名.かわらにんじん・かわらよもぎの類.キク科の多年生草本

②木の名.とうきささげ.ノウゼンカズラ科の落葉高木.

(国訓)はぎ.マメ科の落葉低木.山野に自生し,初秋に紫紅色・白色の花をむらがりつける.

 

現代に至るまで,多くの歌人に詠まれてきた花ですが,今日は万葉集からのみの引用とします.

古今集〜現代の歌は明日.

 

なお,以下の万葉集の歌は「萩」と現代の漢字を用いていますが,

「『万葉集』のハギの歌一四二首の中に,『萩』の字は全く使われていません.多くは『芽子』とか万葉仮名で『波疑』のように表記されています.」とのこと.http://taka.no.coocan.jp/a5/cgi-bin/dfrontpage/fudemakase/SYOKUBUTUkanmei.htm

 

 

我が岡の 秋萩の花 風をいたみ 散るべくなりぬ 見む人もがも  大伴旅人 万葉集巻八,1542 

折口信夫万葉集

自分が住んでゐる,家の邊りの岡の萩の花が,秋風の烈しさに,もう散りさうになつて來た.見る人があればよいが.(人に來てくれ,といひ送つた歌と見える.)

 

 

我が宿(やど)の 一群(ひとむら)萩を 思ふ子に 見せずほとほと 散らしつるかも  大伴家持 万葉集巻八,1565

折口信夫万葉集

自分の屋敷にある一群(ひとかたまり)の萩の花を,可愛い人に見せない中に,あぶなく散らして了(しま)はうとしたことだ.おこしが遲いので.

 

 

我が宿の萩の下葉は秋風もいまだ吹かねばかくぞもみでる  大伴家持 万葉集巻八,1628

折口信夫万葉集

私の屋敷内の萩の下葉は,秋風さへも未だ吹いてゐないのに,こんなに紅葉しています.(自分の焦がれてゐることを示したのである)

 

 

真葛原 靡く(なびく)秋風 吹く毎に 阿太(阿陀)の大野の 萩が花散る  作者不詳  万葉集巻10,2096

斎藤茂吉(万葉秀歌)

葛の生繁っている(おいしげっている)のを靡かす(なびかす)秋風が吹く毎に,阿太の野の萩が散る

というのだが,二つとも初秋のものだし,一方は広葉の翻った(ひるがえった)もの,一方はこまかい紅い花というので,作者の頭には両方とも感じが乗っていたものである.それを,「吹く毎」で融合させているので,稚拙なところに,かえって古調の面目があらわれている.特に「阿太の大野の萩が花散る」の諧調音(かいちょうおん:調和した音)はいうのいわれぬものである.