初夏の花ウツギ / 卯の花を詠んだ歌   万葉の時代から明治期に至るまで,日本の初夏の花の代表はウツギの花=卯の花だったようです.万葉集に二四も詠まれ,唱歌「夏は来ぬ」は明治から現代まで歌い継がれています.「ウツギの花が春から初夏への季節の変わり目に咲き、また白く目だつことから、暦の普及していなかったころに季節を知る重要な花であった」 五月雨もむかしに遠き山の庵通夜する人に卯の花生けぬ 与謝野晶子

初夏・五月

アジサイには早いものの,沢山の種類の花に出会うことができます.

あくまでも私のイメージですが,サツキ,アヤメが古くから親しまれてきた典型的な5月の花.フジ,ハナミズキは桜が終わった4月の花ではないでしょうか.

バラ園のバラも5月が見頃.現在では,ラベンダー,マリーゴールドなども花壇でよく見かけます.

 

しかし,現代の我々のイメージとは異なり,万葉の時代から明治期に至るまで,日本の初夏の花の代表はウツギの花=卯の花(卯月の花)だったようです.

(卯月は旧暦4月.今年は5月1日が旧暦の4月1日でした)

 

ウツギ - Wikipedia

 

万葉集には24首の歌に卯の花が詠われました.

また,明治29年(1896年)には唱歌「夏は来ぬ」で卯の花が取り上げられ,その後長く歌い継がれてきました. 

 

万葉集 巻十八・四〇六六

卯の花の咲く月立ちぬ霍公鳥(ほととぎす)来鳴き響(とよ)め含(ふふ)みたりとも  大伴家持

(楽しい万葉集による解説:  卯(う)の花が咲く月がやってきました。霍公鳥(ほととぎす)よ、こちらに来て鳴いておくれ、まだ卯(う)の花がつぼみのままでも。 https://art-tags.net/manyo/eighteen/m4066.html )

 

山田卓三「万葉植物つれづれ(大悠社)」

万葉集」の卯の花の歌には,ほととぎすが配されている歌が多くあります.小学唱歌の「夏は来ぬ」に,「卯の花のにおう垣根にほととぎす(不如帰)早やも来鳴きて---」とありますが,「万葉集」でも垣根と卯の花が何首も詠まれています.

卯の花はウツギの花のことですが,「万葉集」中には「うつぎ」という言葉は出てきません.同じ「う」でも空木はうつろな木の意で,「万葉集」の卯の花は卯月に咲く花から来ているので語源的に違います.

 

ウツギ 文化史

日本大百科全書 ニッポニカ ウツギとは - コトバンク

民俗学者折口信夫(おりくちしのぶ)博士によると、古くはウツギの花の咲きぐあいでその年の豊凶を占ったといい、多い年は豊作と考えられた。これは、ウツギの花が春から初夏への季節の変わり目に咲き、また白く目だつことから、暦の普及していなかったころに季節を知る重要な花であったことによろう。『万葉集』にはウノハナで24首詠まれ、万葉人も関心が高かったことが知られる。ウツギの名は『万葉集』にはないが、『和名抄(わみょうしょう)』に出る。

[湯浅浩史 2021年3月22日]

 

『夏は来ぬ』 佐佐木信綱

卯の花の 匂う垣根に

時鳥(ホトトギス) 早も来鳴きて

忍音(しのびね)もらす 夏は来ぬ

夏は来ぬ 歌詞の意味

1番の歌詞で冒頭に登場する「卯の花(うのはな)」。これは初夏に白い花を咲かせるウツギの花を指す。旧暦の4月(卯月)頃に咲くことから「卯月の花」=「卯の花」と呼ばれた。

「早も来鳴きて」とは、「早くも来て鳴いている」の意味。

「忍音(しのびね)」とは、その年に初めて聞かれるホトトギスの鳴き声を指し、『古今和歌集』や『枕草子』などの古典文学作品にも登場する古語の一つ。

( 「夏は来ぬ」は日本の歌100選に選ばれ 日本の歌百選 - Wikipedia,令和2年の教育芸術社版教科書にも掲載されています 教科書掲載曲一覧 令和2年度版(2020年度版)小学校音楽教科書のご紹介 )

 

 

 

万葉集からいきなり唱歌「夏は来ぬ」にとんでしまいましたが,万葉集以降も卯の花は短歌に詠われ続けています.

古今短歌歳時記(鳥居正博 教育社)からいくつか紹介して,今日のブログを終わります.

(なお,「ウツギ」の名前を持つ植物は,卯の花ウツギ以外にも沢山あることは,このブログで取り上げたとおりです.)

yachikusakusaki.hatenablog.comhttps://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2017/04/27/022618

 

 

卯の花の咲き散る丘ゆ霍公鳥鳴きてさ渡る君は聞きつや 万葉集巻十) 作者不詳 

 

けふも又のちもわすれじ白たへのうの花にほう宿と見つれば (古今六帖) 紀貫之

 

見渡せば波のしがらみかけてけり卯の花咲ける玉川の里 (後拾遺集) 相模(さがみ

 

いたびさし久しく訪はぬ山里は波間もみゆる卯の花の頃 (拾遺愚草) 藤原定家

 

五月雨もむかしに遠き山の庵(いほ)通夜する人に卯の花生けぬ (みだれ髪) 与謝野晶子

 

卯の花をかざして暮のもどりぶね汽鑵音(かまおと)早くなりにけるかも (朝月) 四賀光子

 

高舘(たかだて)の卯の花清水なつかしも晴れゆく風に土の香の立つ (雪木) 馬場あき子