さつき・ごがつ(五月)を詠んだ短歌  五月の花橘を君がため玉にこそ貫(ぬ)け散らまく惜しみ 大伴坂上郎女  さつき待つ花橘の香をかげば昔の人の袖の香ぞする 作者不詳  空はれて沼の水嵩(みかさ)を落とさずば菖蒲(あやめ)も葺(ふ)かぬ五月なるべし 西行  あまがへる鳴きこそいづれ照りとほる五月の小野の青きなかより 斎藤茂吉  外(と)にはずむ木々のみどりを圧す如(な)して五月まひるの吾子(あこ)のうぶごゑ 木俣修  おもむろにまぼろしをはらふ融雪の蔵王よさみしき五月の王子 川野里子

早くも5月になってしまいました.

 

昨日の雨とはうって変わって,今日はよく晴れた「五月晴れ」の1日でした.

 

今日は,五月にまつわる話題二つと五月を詠んだ歌を取り上げます.

 

「五月晴れ」

「さつきばれ」と読みますね.

「さつき」を辞書で引くと「陰暦五月の称」(日本国語大辞典)とあります.しかし,今でも5月(新暦)を「さつき」と読み,陰暦を意識することなく使っています.

その代表が「五月晴れ」.

 

そして,

(以下,ご存じの方も多いかと思いますが---.

私は,最近,改めて知ってビックリしました.

「改めて」としたのは,昔,聞いたことがあったのを思いだしたからです.)

「さつき」という名称を,陰暦だけではなく,現在の暦でも使い続けたため,「五月晴れ」は,二つの意味を持つようになりました.

 

もともとは陰暦5月の「梅雨晴れ」のことだったのが,

(2023年の旧暦5月1日は,現在の暦では6月18日になります.旧暦5月は梅雨とピッタリ一致していたんですね.)

新しい暦となって,「晴れわたった空」を意味するようになり,現在はほとんどの場合,後者の意味で使われています.

この経緯については次のサイトにより詳しく説明されています.

https://weathernews.jp/s/topics/202005/210145/

 

さつきばれ【五月晴】
日本国語大辞典
①五月雨さみだれの晴れ間。つゆばれ。《季・夏》
俳諧・鶉衣(1727−79)前
「蝉はただ五月晴に聞そめたるほどがよきなり」
②五月のさわやかに晴れわたった空。さつきぞら。《季・夏》
智恵子抄(1941)〈高村光太郎〉風にのる智恵子
「五月晴サツキバレの風に九十九里の浜はけむる」

 

「五月と皐月」

陰暦の各月の名前は,一月〜十二月の他に,睦月〜師走の表記があります.五月は皐月ですね.

「さつき」は,万葉集にも出てくる古来からある呼び名ですが( https://art-tags.net/manyo/season/index.html ),万葉集では皐月とは書かれていません.

 

日本国語大辞典「さつき(五月,皐月)」の例文

万葉(8C後)一七・三九九六
「わが背子が国へましなばほととぎす鳴かむ佐都奇サツキはさぶしけむかも」

 

皐月という漢字表記は,中国での表記を借りてきたものだそうです.

https://lovegreen.net/botanicallife/p213651/

しかし睦月〜師走のうち,中国と同じ漢字表記がされているのは,この皐月と,二月の如月だけとのこと.

https://lovegreen.net/botanicallife/p213651/

 

なお,「皐」という漢字の成り立ちは字源によれば以下の通り.

皐:なりたち篆文○ 会意。白と、夲とう(すすむ)とから成る。白光が放出するさまにより、しろい意を表す。「皞カウ」の原字。借りて、魂呼たまよびの声の意に用いる。
元々の意味は「ああ。たまよび(死者の霊魂をよびかえす)する声。」

 

 

さつき(五月)・ごがつ(五月)を詠んだ短歌

(古今短歌歳時記より)

 

五月の花橘を君がため玉にこそ貫(ぬ)け散らまく惜しみ  大伴坂上郎女 万葉集 巻八 一五〇二

(散ることの惜しさに,橘の花をば,思ふ方のために,薬玉(くすだま)の緒(お)に通して,お見せ申さうと思うてゐる  折口信夫

 

さつき待つ花橘の香をかげば昔の人の袖の香ぞする  作者不詳 古今集・夏・一三九

(五月を待つて咲く花橘の香りをかぐと昔の人の袖の香りがする. 高田祐彦)

 

空はれて沼の水嵩(みかさ)を落とさずば菖蒲(あやめ)も葺(ふ)かぬ五月なるべし  西行 山家集

 

時鳥(ときつどり)おのがさ月の山にてもなほつれなくばいづちたづねむ  小沢蘆庵 六帖詠草

 

あまがへる鳴きこそいづれ照りとほる五月の小野の青きなかより  斎藤茂吉 あらたま

 

妻子をあそびにやりて,/庭の樹の五月の風を/眼をとぢて聴く  土岐善麿 ふへいなく

 

五月(ごがつ)の風松にとよもす園の中羊歯(しだ)若くして水の流れる  土屋文明

 

(と)にはずむ木々のみどりを圧す如(な)して五月まひるの吾子(あこ)のうぶごゑ  木俣修 流砂

 

みのり待つものの花咲く五月よと濃きたそがれは畏れに似たり  葛原妙子 橙黄

 

父は悲愴ならざりしかばわれ生(あ)れてさつきついたちたちばなを踏む  山中智恵子

 

おもむろにまぼろしをはらふ融雪の蔵王よさみしき五月の王子  川野里子 五月の王