新型コロナウイルス感染の有無を調べる最も精度の高いPCR検査.この検査を必要十分量行えるようにする取り組みが各地で進められています.この検査法がどれだけ行えるかのカギの一つが検体の採取.素人考えでは,誰でも行える簡単なものと思いがちですが,それがどれほど大変なものかについて,神奈川新聞が伝えています.「1件10分,使命感が支え 県内1例目のPCR集合検査場」

新型コロナウイルス感染の有無を調べる最も精度の高い(*)PCR検査.

(* 十分なウイルス量があれば確実に検査できますが,感染者の“検体採取部”のウイルス量が変化するため,精度は高々80%  新型コロナウイルス感染予防対策についてのQ&A | 新型コロナウイルス関連情報特設サイト )

日本では十分行われていないことが,国内外から問題視されてきましたが,”第二波”(疫学専門家からすると第三波)に備え,この検査を必要十分量行えるようにする取り組みが各地で進められています.

この検査法がどれだけ行えるかのカギの一つが検体の採取.素人考えでは,誰でも行える簡単なものと思いがちですが,それがどれほど大変なものかについて,神奈川新聞が伝えています.

 

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新型コロナ

1件10分,使命感が支え 県内1例目のPCR集合検査場

神奈川新聞  2020年06月21日 05:00

https://www.kanaloco.jp/article/entry-386835.html

 

 新型コロナウイルス感染症の拡大阻止に向け,各地のPCR検査場で医療従事者の奮闘が続いている.県内第1号の集合検査場を整備した茅ケ崎医師会の担当医が明かしたのは,感染リスクと隣り合わせの過酷な現場の状況だ.

「拡大を食い止めるためにはやるしかない」.最前線に立つ医師の使命感が支える1件の検査の重みが,改めて浮かび上がった.

 

 「感染の恐れあり」.駐車場の片隅,赤いテープで囲んだ区画が医師の持ち場だ.

茅ケ崎市内.立地場所を「非公表」とするドライブスルー方式の検査場は,ウイルスが残存しないよう目隠しやテントも設置していない吹きさらしだ.

 

 受け付け開始は午後7時半.検査に当たるのは医師,看護師の2人だけ.雨が降り,風が吹こうとミスは許されない.装備品には防護服や医療用のN95マスク,長靴に加え,夜風で手がかじかまないようにと使い捨てカイロも並ぶ.

 

 車内で待機する感染疑い患者と携帯電話で話し,車外への空気飛散を防ぐためエアコンを止めるよう指示.車内灯で照らされた患者の口はマスクで覆ったまま鼻だけを出し,「横を向かずバックミラーを見ていて」と呼び掛ける.わずかに開けた窓の隙間から,医師が鼻の穴に綿棒を入れて検体を採取していく.

 

 「今までの修羅場とは訳が違う.クルーズ船の比じゃない」

 開設初日に検査を担当した茅ケ崎医師会の顧問で産業医の中尾誠利医師(50)は,顔をこわばらせた. 

 東日本大震災の発生直後から被災地に通い,2月には日本医師会災害医療チーム「JMAT」の一員として横浜港のクルーズ船に乗り込んだ.

災害医療のエキスパートでさえ,検査場では感染の恐怖に足がすくみ「血の気が引いた」.

 

 1件当たりの作業時間は10分超.

「目の前の全てにウイルスが付着している」と常に意識し,神経をすり減らす.取り違えを防ぐため,医師は看護師が検体を梱包(こんぽう)する作業も見届ける.この日は7人を検査.全身を入念に消毒し,次の医師にバトンをつないだ.

 

 検体を採取するレッドゾーンに足を踏み入れると2時間は枠外に出られず,トイレにも行けない.防護服の内部は「冷や汗でびっしょり」になり,夏場の水分補給も懸念される.

 

 それでも,「非常事態に立ち向かうのが医者の役目」.自宅で待つ妻と5歳の長女に気苦労を掛けまいと自覚しつつ,気を引き締める.「闘いは長い.第2波に備えていく」

 

 

新型コロナ

医師会と保健所,危機感共有で実現 茅ケ崎のPCR検査場

神奈川新聞  2020年06月21日 05:00

https://www.kanaloco.jp/article/entry-386839.html

 

 新型コロナウイルスの感染拡大防止に向け,PCR集合検査場をいち早く立ち上げた茅ケ崎市.迅速な意思決定と緻密なマニュアル作成は,地元医師会と市保健所の強力なタッグで実現した.未知のウイルスに対する危機意識の共有が,第一線の医療現場を支えている.

 

 「感染を食い止めないと」「PCR検査ができなければ事態は悪化する」.神奈川を含む7都道府県への緊急事態宣言発令から2日後の4月9日.市保健所の講堂に44人が集まった対策会議で,医師や病院長,消防職員らが警戒を強める必要性を口にした.前日には茅ケ崎・寒川の管内で5人の陽性が発表されていた.

 

 両市町に約30万人の住民を抱える市保健所.1日最大10件に限られたPCR検査を求める声は日増しに高まり,4月6日は約120件に.中沢明紀所長(65)は「重症患者の検査を優先する中,医師の要望を断らざるを得ないケースがほとんどだった」と振り返る.

 

 対策会議で医師らが訴えたのは「院内感染の回避」だ.感染者が医療機関に押し寄せればリスクが一気に高まると,検査場を早急に設置する方針で一致した.だが,懸案は消えない.

 

 検体採取を担う茅ケ崎医師会のメンバーの多くは開業医で,同会の丸山徳二会長(72)は「医師が感染すれば閉院.経営悪化による倒産もあり得る」と案じた.

 

 しかし,同会が感染時の補償を取り付けると「たくさんの医師」(丸山会長)が名乗りを上げた.現場の医師を支える「茅ケ崎方式」のマニュアル作成でも連携を深めた.医師会は会員の出身大学などから知識を集約,中沢所長も前任地の県立循環器呼吸器病センター(横浜市金沢区)でクルーズ船の陽性患者を受け入れた経験を生かし,防護服の着脱,ゾーニングのノウハウを現場に注いだ.

 

 管内での新規感染者判明は5月19日以来なく,検査数も1日平均2件ほどで「必要な患者には実施できている」(中沢所長)という.それでも中沢所長は気を緩めず,「唾液PCR検査が導入できれば現場の負担を和らげられる」と先を見据える.

 

 県内では24カ所の集合検査場が稼働しており,県が定めた設置目標(20カ所)を上回った.県は検査態勢を強化する一方,外出自粛などを独自に要請する「神奈川警戒アラート」の基準として,1週間当たりの感染者数増加率や新規感染者数などを設定,感染拡大の第2波に備えている.

 

 

 

PCR検査強化,保健所増員…10年前に提言されていたのに…新型コロナに生かされず

東京新聞 2020年6月21日 07時50分

 

 厚生労働省新型インフルエンザ流行後の2010年にまとめた感染症対策に関する報告書の提言が,事実上放置されてきた.

保健所の組織強化や人員増,PCR検査の体制強化が課題として明記されているが,新型コロナウイルスの感染拡大まで十分に実行されてこなかった.加藤勝信厚労相も国会で,報告書で求められた対応の遅れを認めている. (村上一樹)

 

 報告書は,政府の新型インフル対応を検証した厚労省の総括会議がまとめた.

 国立感染症研究所や検疫所,保健所など感染症対策部門の組織や人員の「大幅な強化」の必要性を訴えた.感染研については,米疾病対策センターCDC)など各国の感染症担当機関を参考にした組織強化を提言した.PCR検査体制強化も明記した.政府対応の記録に関しては,意思決定過程を可能な限り公開する重要性を指摘した.

 こうした提言は新型コロナ対策には生かされなかった.

 感染研は新規採用が抑制され,一九年度の研究者数は三百七人で一〇年度より十八人減った.安倍晋三首相は当初のPCR検査数の少なさを認め,その原因について「目詰まりがある」と語った.政府の専門家会議は各メンバーの詳しい発言内容を記録する議事録を作成していない.

 加藤氏は十五日の参院決算委員会で,提言について「時間的な問題があり,まだ適用できていないものもある.今後に向けての対応として,しっかり活用したい」と対応遅れを認めた.一二年末から一四年九月まで厚労相を務めた田村憲久衆院議員も本紙に「(在任時は)最優先課題に挙がっていなかった」と語った.

 新型コロナに関する政府諮問委員会の尾身茂会長は五月二十日の参院予算委で提言を巡り「国民から選ばれた政治家が今まで以上にしっかりやっていただくことが必要だ」と求めた.

 

厚労相”放置”を反省 「最優先課題にしなかった」

 自民党新型コロナウイルス関連肺炎対策本部長の田村憲久厚生労働相は本紙のインタビューに対し,二〇一〇年に厚労省がまとめた感染症対策に関する報告書の提言が十分に生かされなかったことを認めた. (聞き手・村上一樹,坂田奈央)

 

 -〇九年の新型インフルエンザ流行の反省を踏まえた厚労省の報告書には,PCR検査の強化などが明記されている.

 「(一二~一四年の在任中に)何とかしなくてはという最優先課題に挙がっていなかったのは反省点だ.韓国や台湾における重症急性呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群(MERS)の流行経験は日本にはなかった.対岸の火事とせず,わがふりを直さなくてはいけなかった」

 

 -新型コロナでの政府,厚労省の対応で問題点は.

 「初動が遅れたことは事実だ.クルーズ船対応で厚労省がかかりきりになってしまった.そこに全精力をつぎ込んだため,PCR検査の件数も伸びなかった」

 

 -その後もPCR検査数が増えなかった.

 「検査能力だけでなく,検体採取や運搬のマンパワー,防護具,検査後の療養場所の確保などがそろわないと検査ができない.どこかが目詰まりしていたら増えない」

 

 -新型コロナへの対応などで,安倍政権の支持率が低下している.

 「歴代最長政権であり,どんな内閣より批判を浴びるのは当然だ.その前提で自らを律し,情報を開示していかなければならない」

 

 

 

10年前放置されたPCR検査強化の提言 現場動かせない「1強」首相官邸の油断

毎日新聞2020年5月10日 18時46分(最終更新 5月10日 21時05分)

 

 新型コロナウイルスの感染拡大防止を巡る政府の対応では,後手の連鎖が目立つ.初期段階ではクラスター(感染者集団)対策の徹底が功を奏したが,経路不明の感染者が増加してくるとPCR検査(遺伝子検査)の検査能力が追いつかなくなった.「1強」と言われてきた安倍政権だが,感染症対策で統率力不足は否めない.民間や病院では「自衛」の動きも出てきた.【竹地広憲,遠藤修平,花澤葵】

 

2010年に地方のPCR検査体制強化求めた厚労省審議会提言 

 「とりわけ,地方衛生研究所のPCRを含めた検査体制などについて強化するとともに,地方衛生研究所の法的位置づけについて検討が必要である」

 

 この文章は厚生労働省有識者会議の報告書.公表されたのは10年前の2010年6月だった.

 

 地方衛生研究所(地衛研)とは,都道府県や政令指定都市などが持つ保健衛生研究機関だ.今回の感染拡大局面でも,民間参入前の今年3月末までのPCR検査のほとんどを地衛研が担ってきた.その地衛研でのPCR検査能力の拡充を,公文書では異例の「とりわけ」という語句まで使って強調していた.

 

 09年の新型インフルエンザの流行「第1波」が終息した段階で,「新型インフルエンザ対策総括会議」の報告書に記された.会議の座長は日本学術会議の金澤一郎会長(当時).現在の新型コロナに関する政府諮問委員会会長で専門家会議副座長の尾身茂氏も名を連ねていた.

 

 10年後の20年5月4日.専門家会議は「日本においてPCR等検査能力が早期に拡充されなかった理由(考察)」と題した文書を発表.「制度的に,新しい病原体の大量検査を想定した体制は整備されていない」「過去のSARS重症急性呼吸器症候群)などは国内で多数の患者が発生せず.検査能力拡充を求める議論が起こらなかった」などの見解を示した.10年の報告書での提言には触れられておらず,過去の警告が生かされない危機管理の事例がまた一つ積み重なった.

 

「未発生期」に検査体制整備するはずだった政府行動計画

 

 後手の連鎖は続く.10年の厚労省報告書を受けた当時の民主党政権は「平時」の段階で,新型インフルエンザ等対策特別措置法を国会に提出し,12年に成立させた.その年末に政権を奪還した安倍内閣は,特措法に基づいて13年6月に「行動計画」を策定.この計画にもPCR体制充実に関する記述があった.

 

 ①未発生期②海外発生期③国内発生早期など5段階の対応を記した計画では,①の未発生期の段階で「国は自治体にPCR検査等を実施する体制整備を要請し,技術的支援を行う」とし,②の海外発生期で自治体との連携強化と「検査体制を速やかに整備する」と記していた.

 

 だが安倍晋三首相が今回の事態で②の段階の指示を公にしたのは,国内で人から人への感染が確認され,既に③の国内発生早期に移行した直後の2月1日.「全国各地で必要な診察や検査を受けられるよう,検査体制や医療体制の充実を進めてください」と指示した.当時の政府は中国・武漢からの邦人帰国と,クルーズ船の検疫に忙殺されていたとはいえ,PCR検査能力は2月12日の時点でも全国で1日最大300件程度にとどまった.

後手で「倍増」打ち上げた官邸,笛吹けど現場踊らず

 

 PCR検査件数は首相にとっても悩みの種だ.首相が3月下旬の官邸での会議で「検査拒否」への不満をあらわにした当時の能力は1日7000件以上に拡大していたが,実際の検査件数は2000件前後で推移.週末には1000件を割っていた.

 

 4月6日の政府対策本部で「1日2万件への倍増」を打ち上げて巻き返しを図り,4月下旬に能力は1万5000件超まで拡大したが,検査件数は8000件程度で頭打ちだ.5月4日の記者会見でも「1万5000(件に能力を)上げても実際に(検査が)行われているのは7000,8000レベルで,どこに目詰まりがあるか,私も何度も申し上げてきている」と言葉をにごした.

 

 検査件数が検査能力に及ばない理由は,技術者や検査キットの確保に手間取り,採取された検体の輸送も難しいためだ.分析機関に輸送する際は,保冷剤とともに密閉して3重の梱包(こんぽう)をすることが必要.48時間以内の輸送が困難な場合はマイナス80度以下での冷凍保存も求められる.これらに対応できる業者は限られ,手配がスムーズにできないという.

 

 官邸の指示や要望に対し,現場対応に追われる厚労省や,最大の感染者数を抱える東京都庁の反応は鈍い.官邸の不満は深く,政府高官は「東京はひどい.都と23区の調整まで国がやらされている」と憤り,別の官邸幹部は「厚労省とのやりとりは『未知との遭遇』.打ち合わせに50ページの資料を持ってくる.常識が通じない」と皮肉交じりに嘆息する.

 

 首相がコロナ治療薬としての月内承認を目指す新型インフルエンザ治療薬アビガンに関しても,厚労省は薬害訴訟を懸念して手続き徹底にこだわる.病原体の輸送という安全最優先の手続きや,厚労省の医系技官が仕切る感染症対策,選挙を経て現場指揮にあたる首長に対しては,「安倍1強」で続いてきた官邸主導によるトップダウンの手法も及びにくいようだ.

 

実務を担う保健所に襲いかかった政府の準備不足のしわ寄せ

 

 政府の準備不足のしわ寄せは,検査関連の実務を担う保健所に襲いかかった.保健所は都道府県や政令市などが所管する組織だ.当初,発熱やせきなどの症状を自覚した人がPCR検査を受けるには,主に政府の要請で2月から保健所に設置された「帰国者・接触者相談センター」に電話し,医療機関の紹介を受けなければならなかった.

 

 ただ,保健所はそもそも日常的に業務過多で,要員不足の状態が慢性化していた.その上,PCR検査が必要かの判断も難しい.体調や濃厚接触の有無などを聞き取り,要件を満たせば検体を採取する専門外来を紹介するが,「専門外来も逼迫(ひっぱく)しており,受診してもすべて検査を受けられるわけではない」(保健所の関係者)状況だった.さらに,感染者が確認されると,今度は濃厚接触者の追跡調査や自宅療養する患者のケアでより多くの人手が必要で,現場の疲弊は深刻だ.

 

 山梨県のある保健所では,3月1日に7件だった相談が,3月31日には93件と13倍に増え,4月は1日平均150件に達した.関係者は「『どうしても検査を受けたい』といって聞かない人もいる.24時間体制で夜間も携帯電話に転送され,退職者ら2~3人に声をかけて増員したが人手が足りない」と嘆いた.

 

「保健所はパンク」,医師会主導の検査にも防護具不足の壁

 

 地域によっては電話さえつながりにくい状態が続き,首相官邸幹部は「保健所はパンクしている.厚生労働省がしっかり把握していない」と不満を漏らした.

 

 こうした中,4月半ばごろから各地の医師会を運営主体に「地域外来・検査センター」を設置する動きが広がった.かかりつけ医が必要と判断すれば,保健所を通さずにセンターを紹介するルートができた.4月下旬には歯科医が検体を採取することが特例的に認められるようになった.事態は多少緩和されたが,検体採取時に必要な防護具の不足や,非感染者と往来エリアを分ける動線確保の難しさを訴える声は今も強い.

 

 保健所のパンクは,肝心の国内感染者数や死者数の集計も停滞させていた.感染者の多い東京23区などでは,保健所による把握作業が追いつかず,厚労省に報告するデータと実際の数に差が生じていた.厚労省は9日夜,集計方法の見直しを発表.記者会見した同省対策本部の担当者はこう反省の弁を述べた.「保健所のキャパシティー(能力)を超えてしまった.私どもが現場に対する支援をもっと早くすべきではなかったか」【堀和彦,渡辺諒】

 

PCR検査で「陽性」見逃す確率は1~4割程度,陰性でも誤判定の可能性

 

 実は,新型コロナウイルスを100%確実に検出する手段はないのが実情だ.PCR検査でも「陽性」を見逃す確率は1~4割程度ある.このため日本では「コンピューター断層撮影装置」(CT)で患者の体内を撮影し,肺炎特有の「影」が確認された人にPCR検査を実施して感染者を特定する手法を取ってきた.

 

 PCR検査では,患者の喉の粘液などに含まれるウイルスのRNA(リボ核酸)をDNA(デオキシリボ核酸)に変換する.微量でもポリメラーゼという酵素で増幅させ,DNAを検出できる仕組みだ.分析は一般的に約6時間かかる.

 

 とはいえ検査にはエラーがつきもので,単に増やせばいいという話ではない.米医師会誌によると,鼻の奥の粘液を採取して検査した場合,感染者を正しく陽性と判定できる確率は約60%.仮に感染者100人の集団を調べた場合,陽性と判定されるのは約60人で,残り約40人は誤って「陰性」となる計算だ.

 

 医療現場での検査に詳しい府中病院(大阪府和泉市)の津村圭・総合診療センター長は「陰性と判定されれば安心する人も増える.しかし,その中に誤判定が一定の割合で含まれる可能性は広く周知されるべきだ」と訴える.日本大医学部の早川智教授(感染免疫学)も「地域外来・検査センターができ,かかりつけ医らの判断で検査できるようになったことは前進だ.ただし,精度を担保するためにも,むやみに検査態勢を拡充すべきではない」と強調する.

 

少ない死者の割合「検査数少ない弊害は考えにくい」

 

 ネットでは「新型コロナ由来の死者を見逃しているのではないか」との疑念が根強い.しかし,政府の新型コロナに関する諮問委員会の尾身茂会長は4日の記者会見で,日本にCTが人口100万人あたり111・49台あり,他の経済協力開発機構OECD)加盟国の1・7~85・8倍と突出している事情を念頭に「日本の医療体制では,肺炎を起こす人はほとんどがCT検査をされ,その多くはPCR検査をされる.(新型コロナによる)死亡者は正しい件数がピックアップされている」と反論した.

 

 富山県衛生研究所の大石和徳所長は「日本は未知の感染症の経験が乏しかった.民間検査会社との協力体制が未構築で,世界に比べて検査数が少ないのは客観的事実だ.しかし,国内の感染者数に占める死者の割合は4%未満と低く,検査数が少ない弊害が大きく出ているとは考えにくい」と話す.【渡辺諒】