昨日の天気予報が外れて,ずっと晴れ間の見える一日.
梅雨時,雨の中でも風情があるムクゲですが,晴れた空を背景にすると一段と映えるように思います.
ムクゲは,フヨウ属Hibiscus(ハイビスカス属),アオイ亜科,アオイ科の植物.
同じ属には,ハイビスカス(ブッソウゲ 仏桑花).
ケナフ.
そしてアオイの名前を持つモミジアオイも.
アオイ亜科(旧アオイ科)にまで広げると,ワタ(ワタ属)やオクラ(トロロアオイ属)など,繊維原料として,また食品としてよく知られた栽培植物と同時に,
アオイの名前を持つ植物が多数見られます.
タチアオイ(ビロードアオイ属),ゼニアオイ・フユアオイ(ゼニアオイ属).
このようにアオイ亜科(旧アオイ科)には沢山の“アオイ”の名をもつ植物がありますが---
単に「アオイ」と呼ばれる植物は見当たりません.
「アオイ」って?
アオイと聞いて何を思い出しますか?と聞かれたら---
他に,
▽葵祭(賀茂御祖神社/下鴨神社と賀茂別雷神社/上賀茂神社の例祭)
▽光源氏の正妻で,六条御息所(みやすどころ)の生き霊に苦しめられ,夕霧を出産後,急死した葵上
https://www.kyohaku.go.jp/jp/theme/floor2_1/f2_1_koremade/emaki_20150210.html
これだけ揃えば,アオイ(葵)という植物があると思ってしまいます.
しかし,葵紋,葵祭の「葵」は,アオイ科ではなく,ウマノスズクサ科カンアオイ属のフタバアオイ.
葵紋(読み)あおいもん
ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説
日本の紋章の一種.植物のフタバアオイの葉,または葉と花とをかたどった紋章.
京都の賀茂御祖神社,賀茂別雷神社の神事に用いられ(→葵祭),賀茂明神を信仰した人々がこの植物を神聖視して家紋に用いた.
最も有名なのは徳川家(→徳川氏)で,三河国で松平家を名のっていた頃から使用しており,天正14(1586)年,徳川家康は本多家以外の他家の使用を禁じた.形状から,徳川本家の三つ葉葵,紀州徳川家の六つ葵,伊予松平家の葵巴,本多家の立葵などの区別がある.
葵上の名前の由来を解説した記事は見つけられませんでしたが,下鴨神社/上賀茂神社につながることから,葵上もフタバアオイ由来の名前でしょう.
植物の種の名前として「アオイ」は,”俗称”の扱いで,正式な種の名前にはなっていません!
日本国語事典の解説からは
▽もし一つの植物をあげるとすれば,現代ならば「タチアオイ」.
▽差し障りがない言い方ならば「アオイ科の植物,タチアオイ,フユアオイ,ゼニアオイ,トロロアオイ,モミジアオイなどの俗称」
▽奈良時代〜平安初期にはフタバアオイではなく,フユアオイがアオイ(あふひ)と呼ばれていました.
あふひ(フユアオイ)は万葉集にも登場.
しかし,掛詞として用いられていて,葵が詠まれているわけではありません.
万葉集 第十六巻 3834
梨(なし),棗(なつめ),黍(きみ)に粟(あは)つぎ,延(は)ふ葛(くず)の,後(のち)も逢はむと,葵(あふひ)花咲く
たのしい万葉集
意味: 梨(なし),棗(なつめ)と続くように,あなたに会いたい.葛(くず)のつるが別れてまたつながるように,またあなたに会いたい.あなたに逢う日は花咲くようにうれしい.
葵(読み)アオイ
精選版 日本国語大辞典の解説
① アオイ科の植物,タチアオイ,フユアオイ,ゼニアオイ,トロロアオイ,モミジアオイなどの俗称.
② 「ふゆあおい(冬葵)」の古名.平安初期に,種子を食用,薬用とするために栽培した.
※万葉(8C後)一六・三八三四「梨棗(なしなつめ)黍(きみ)に粟嗣ぎ延(は)ふ田葛(くず)の後も逢はむと葵(あふひ)花咲く」
③ 植物「ふたばあおい(二葉葵)」の俗称.平安時代から賀茂神社の葵祭の神事に用いられ,また,徳川家の家紋ともなっている.
※後撰(951‐953頃)夏・一六一「ゆきかへるやそうぢ人の玉かづらかけてぞたのむ葵てふ名を〈よみ人しらず〉」
④ 植物「たちあおい(立葵)」の俗称.近世から盛んに栽培され,現在「あおい」といえば,観賞用のこの植物をさす.《季・夏》〔文明本節用集(室町中)〕
⑤ 植物「かんあおい(寒葵)」の俗称.
⑥ 植物「てんじくあおい(天竺葵)」の俗称.