10月だというのに暑い1日.
まだ,萩は咲いているかな?と海蔵寺へ.
予想通り,そして残念なことに,ほとんど散っていました.それでも青空をバックに見上げた枝は,なかなかの迫力.
万葉集で最も多く取り上げられている花,萩.
真葛原 靡く(なびく)秋風 吹く毎に 阿太(阿陀)の大野の 萩が花散る
作者不詳 巻10, 2096
原一杯に生えた葛の片寄る,秋風が吹く度毎に,広い阿陀の野原の萩の花が散ることだ.(折口信夫 口訳万葉集)
ただし,万葉集では「萩」の字は用いられていません.
「芽や芽子の字が用いられていますが,秋の代表的な花なので,後に萩の字が当てられるようになりました」(山田卓三 万葉植物つれづれ 大悠社)
椿と同じ系統の名前という事になりますね.和名抄(931年 - 938年)に見られることから,平安時代には使われていたようだとのこと(鳥居正博 古今和歌歳時記 教育社).
そして
「万葉集では 『さ雄鹿』『雁』『露』などと合わせて詠まれていて多彩」(山田卓三 万葉植物つれづれ 大悠社)
我が岡に さを鹿(しか)来(き)鳴く 初萩の 花妻(はなつま)どひに来(き)鳴くさを鹿
大伴旅人 巻八 1541
私の岡に,牡鹿がやってきて鳴いている.萩の花に求婚しにやってきた鹿が. (たのしい万葉集 https://art-tags.net/manyo/eight/m1541.html )
萩の咲く時期は鹿の恋する季節なのでしょうか?山野に疎い私には分かりませんが----
一方
花札でよく知られている「萩と猪」は江戸時代後期に好まれた図柄.
猪と言えば猪突猛進の言葉があるように,花札の猪も走っているのかと思っていましたが---
この猪は寝ている猪.おそらく.
次の絵と比べてください..
萩生い茂る野で気持ちよさそうに眠りこけている猪.亥の年を祝う作品として描かれたそうです.
「博物館に初もうで2019 イノシシ 勢いのある年に」 東京国立博物館 - はろるど
歌川広重も同じような構図で描いています.
解説は次の通り.
猪の背景には赤い花をつけた萩が描かれています.猪が萩などを倒してつくる寝床を「臥猪の床(ふすいのとこ:臥猪には天下泰平という意味もあります)」といい,和歌などにも詠まれる定番の組み合わせでした.
https://www.museum.or.jp/eto-colle/2019/620
ただし,「臥猪の床」は,必ずしも萩である必要はありませんでした.
▽「臥猪の床」初出の歌かと思われる和泉式部の歌では,猪の寝床は「苅藻(かるも)」(かれくさ)で,萩はでてきません.ただし,拾玉集(しゅうぎょくしゅう)の歌には萩が出てきます.
▽初期の「臥猪の床」の絵で,萩は強調されていません.
はじめは寝ている猪に意味があったものが,萩を描きこむことでより華やか絵柄として定着したように思われます.
苅藻(かるも)かき 臥(ふす)猪(ゐ)の床の いを安み さこそねざらめ かからずも哉(かな)
和泉式部 後拾遺(1086)恋四・八二一
枯草をかき集めて寝床をつくるイノシシは、居心地がよくて何日も安眠するというけれど,そんな風に熟睡できないまでも,このように恋に思い悩まずほんの少しでも眠れたらよいのに…… 恭賀新年🎍 | 長野県地球温暖化防止活動推進センター
夏の野の萩の初花折り敷かむ臥猪の床は枕ならべて 拾玉集(1346)
有形文化財 – 近世絵画コレクション - 千總文化研究所 / Institute for Chiso Arts and Culture