万葉集のユリを詠んだ歌12種の多くはササユリを,東国の歌ではヤマユリを詠んでいると考えられています.平安〜江戸時代の歌題としてはあまり取り上げられず,近・現代に再び多くうたわれるようになりました. ゆあみする泉の底の小百合花二十の夏をうつくしと見ぬ 与謝野晶子  髪ながき少女(おとめ)とうまれしろ百合に額(ぬか)は伏せつつ君をこそ思へ 山川登美子  さびしさよ甕(かめ)に盛られし百合の向ふに人垣の向ふに君がゐるなり 河野裕子

15種の自生種,8種の固有種がある日本は,「ユリの王国」とも言える国.

第3回 日本はユリの王国 | BloomField - ガーデニングABC -

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万葉集に詠まれて以来,日本人に愛されてきた百合.

といいたいところですが---

平安〜江戸時代には,それほど多くの歌人が取りあげているわけではないようです(古今和歌歳時記).例えば,藤原定家も百合をうたっているのですが,なんと対象は花ではなく葉.ユリは華やかすぎたのでしょうか?

江戸中期の俳人,許六は「生得いやしき花なり」と評したとのこと(古今和歌歳時記).わびさびを尊ぶのは良いとしてもここまで言わなくても!

江戸期の庶民は素直にうたっています:

立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花(都々逸/神戸節) 

立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花とは - コトバンク

 

近・現代になると,再び多くの歌人が歌題としてユリを取り上げるようになりました.

今日はそのいくつかを,古今短歌歳時記(鳥居正博編著 教育社)などから,転載させていただきます.

 

万葉集には,ユリを詠んだ歌が12種あるそうですが,その多くはササユリが詠まれ,一部,東国の歌ではヤマユリが詠まれていると考えられています.

日本のユリの代表をあげれば,この二種+テッポウユリということになるのでしょうか.

 

山田卓三 「万葉植物つれづれ(大悠社)」

百合の美しさは古くから注目され,『古事記』でも百合の花が咲きほころぶ様子を人の微笑みになぞらえています.

万葉集』にさ百合と詠まれているユリはヤマユリかササユリです.

ヤマユリ中部地方以北に,ササユリは中部地方以西に分布します.山野のユリを詠んでいる場合,関東ではヤマユリ,関西ではササユリを指すと考えられ,「筑波嶺(つくばね)のさ百合の花---」の百合は確実にヤマユリです.

家持が越中で詠んだ百合もヤマユリですが,坂上郎女(さかのうえのいらつめ)や紀豊河(きのとよかわ)などが詠んでいるユリはすべてササユリと思われます

 

 

 

あぶら火の光に見ゆる我が鬘(かづら)さ百合の花の笑(え)まはしきかも  大伴家持 (万葉集 巻十八・四〇八六)

(---主人に石竹が百合の花を鬘(かづら かみかざり)に造って,豆器(ずき)という食器の上にそれを載せて,客人に頒った(わかった).その時大伴家持の作った歌である.-----

「笑(え)まわしきもの」は,美しく楽しくて微笑せしめられる趣(おもむき)である.-----「あぶら火の,光に見ゆる」といったのは,さすがに家持の物を捉える力量を示すものである.「我が鬘」といったのは,自分の分として頂戴した鬘という意味である. 斎藤茂吉

 

 

筑波嶺(つくはね)のさ百合の花の夜床(ゆとこ)にも愛(かな)しけ妹(いも)ぞ昼も愛(かな)しけ  大舎人部千文 (万葉集 巻十八・四三六九)

(筑波の山の百合のように、夜も昼もいとおしい妻です. 楽しい万葉集

 

 

夏の野の茂みに咲ける姫百合の知らえぬ恋は苦しきものぞ  大伴坂上郎女 (万葉集・八・一五〇〇)

(夏の野の茂みにひっそりと咲いている姫百合のように,人に知られない恋は,苦しいことです.  楽しい万葉集

 

 

雲雀たつあら野におふる姫ゆりのなににつくともなき心かな  西行 (山家集・中・雑 八六六)

 

 

うちなびく茂みがしたのさゆりばのしられぬほどにかよふ秋かぜ  藤原定家 (新古今集・夏・二七八)

 

 

人も来ぬ奥山路の百合の花神や宿らん折らんと思へど  正岡子規 (竹の里歌)

 

 

髪あげて人のすずしき瞳かな鉄砲百合の花ひらきたり  太田水穂 (鷺・鵜)

 

 

ゆあみする泉の底の小百合花二十の夏をうつくしと見ぬ  与謝野晶子 (みだれ髪)

 

 

髪ながき少女(おとめ)とうまれしろ百合に額(ぬか)は伏せつつ君をこそ思へ  山川登美子 (恋衣―白百合)

 

 

さびしさよ甕(かめ)に盛られし百合の向ふに人垣の向ふに君がゐるなり  河野裕子 (桜森)