新型コロナウイルスによるパンデミックに対し,ほとんどの西欧諸国がロックダウンを交えた対策をとってきたのに対し,独自路線を貫いたスウェーデン.
当初は「集団免疫の獲得を目指している」とも報道され.注目されていましたが,昨冬のアルファ株の拡大と共にロックダウン以外の様々な規制を取り入れ,最近ようやく規制が解除になったとのこと.
日本では,あまり報道されなくなっていたスウェーデンの状況について,ニューヨークタイムズが,Coronavirus Briefing: What Happened Today(Oct. 6, 2021)の中で報じています.
今年5月のBuzzFeed Japanの記事と合わせて,以下に引用します(DeepL翻訳).
印象的な部分はそれぞれ次の点でした.
▽BuzzFeed Japanの記事:
・”独自路線”とされるスウェーデン政府のコロナ対応を現地で経験してきた彼女から見ると,日本政府が取ってきた対応はスウェーデンと「ほとんど同じ」に見えたという.
▽New York Timesの記事:
・18歳から79歳までのスウェーデン人の51%が,スウェーデンのパンデミック対策に高い信頼を寄せています.これは1年の間に着実に増加しています.封鎖されずに済んだことに、人々はかなり満足しているようです.
・パンデミックにより,老人ホームでのケアの弱さが浮き彫りになりました.(これはパンデミックの初期から指摘されていた点ですが,改めて.「福祉国家」スウェーデンの高齢者福祉の実態は日本に伝えられてきたものと異なる!)
▽日本に近い対策がとられてきた?
規制内容の細かな点は分かりません.しかし,両記事の内容からすると,ロックダウンをしなかった点は日本と同じ.他の規制も日本とかなり近く,昨冬からの規制の期間も,やや日本より長いものの,ほぼ同じだったようです.
全く独自と伝えられていたスウェーデンが,結果として日本とかなり近い対策をとっていたことは,私にとって驚きです.マスクへの意識・習慣はかなり異なる様ですが.
なお,引用の前に北欧4カ国とドイツ,フランス,イギリス,日本の感染者数・死亡者の推移のグラフを掲載しておきます.
ニューヨークタイムズの記事の中で,「他のスカンジナビア諸国よりも劣っていましたが,より厳しい規則を持つヨーロッパの近隣諸国よりも良い結果」とありますが,「より厳しい規則を持つヨーロッパの近隣諸国とほぼ同じ」が実態だと思います.
日本は,ゼロコビッドの国々に比べると劣りますが,ヨーロッパ各国と比べると抑え込みに成功した国に見えます.
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スウェーデンの政策と風向きの変化
公開 2021年5月2日
Yoko Inoue
井上陽子/BuzzFeed Contributor
(「北欧の明暗を分けたコロナ対策 切り札となったデンマークの「コロナパス」と日本との違いは?」中の章として)
https://www.buzzfeed.com/jp/yokoinoue/covid-19-denmark
スウェーデンは昨年以来,ロックダウン措置は長期的に持続可能ではなく,経済・社会に与える悪影響が大きいとして否定してきた.
ロックダウンは行わず,ソーシャル・ディスタンスを取るといった自主的な対応に頼るというスウェーデン政府の方針は,国際的な注目を集めたものの,結果として死亡者数が増加を続け,今年4月26日現在で人口580万のデンマークの死亡者数が2475人であるのに対し,人口が2倍(1020万人)のスウェーデンでは13923人に上っている.
すでに昨年4月には,海外メディアを中心に,スウェーデンの独自路線への厳しい見方が広がっていたのだが,その頃に会ったスウェーデン人と話をすると,国の方針を擁護する声が多く,意外に思ったのを覚えている.
曰く,亡くなっている人のほとんどは介護施設の高齢者で一般には広がっていない,長期の休校が子供のメンタルヘルスに与える影響などを考えると,単に死亡者数だけでスウェーデンの対応を非難するのは短絡的,等々.他国と違い,それまで通りの生活が送れていることに感謝しているようだった.
スウェーデンでは公的機関が大きな権限を持っており,新型コロナウイルスへの対応も公衆衛生庁の疫学者,アンダース・テグネル氏が中心となって立案をしてきた.
だが,昨年冬から感染力の強いイギリスの変異ウイルスが広がり,感染者数の増加に歯止めがかからなくなってからは,テグネル氏への支持も低下し,専門家に一任してきたステファン・ロベーン首相の姿勢にも批判が高まった.
昨年12月には,カール16世グスタフ国王がテレビ演説で,多くの死者を出した政府の対応は「失敗だった」と異例の批判を行った.
13歳以上の授業がオンラインに切り替わり,午後8時以降のアルコール販売も禁止に.それまで一貫して「効果がない」としてきたマスクの着用も,公共交通機関の利用時には推奨されるようになり,「これまでは何だったのか」という困惑と不満の声が広がったという.
スウェーデン南部に住む友人によると,感染者の増加のために医療の逼迫が起きており,手術の延期も相次いでいる.彼女の夫は急病で手術を受けたのだが,その後,医師による経過観察も受けられない状態が続き,不安を募らせている.
そして,”独自路線”とされるスウェーデン政府のコロナ対応を現地で経験してきた彼女から見ると,日本政府が取ってきた対応はスウェーデンと「ほとんど同じ」に見えたという.
Coronavirus Briefing: What Happened Today
Lessons from Sweden’s pandemic experiment.
https://www.nytimes.com/2021/10/06/us/coronavirus-briefing-what-happened-today.html
(DeepL翻訳)
Oct. 6, 2021
スウェーデンからの視点
パンデミックが発生した当初,他の国々が閉鎖的になっていた中で,スウェーデンはビジネスを継続し,ほとんどの子供たちを教室に入れたことで,多くの疫学者を驚かせました.結果はまちまちで,他のスカンジナビア諸国よりも劣っていましたが,より厳しい規則を持つヨーロッパの近隣諸国よりも良い結果となりました.
しかし,秋から冬にかけて感染者が急増したため,国は態度を改め,一部の企業に休業を命じたり,ウイルスに関する規則を破った人に罰金を科したりするなどの制限を設けました.しかし,先週,国はほとんどすべてのパンデミック規制を解除しました.
そこで,スウェーデンでのパンデミックの状況について,『タイムズ』紙で北欧諸国を取材しているクリスティーナ・アンダーソン氏に話を聞きました.
スウェーデンでのパンデミックの経験は,アメリカや他のヨーロッパ諸国とどのように違うのでしょうか?
スウェーデンのマスク文化は,米国や他のヨーロッパ諸国とは大きく異なります.スウェーデンでは長い間,マスクを推奨することに消極的でした.公衆衛生局が公共交通機関でのマスク使用開始を促しても,人々は必ずしもその推奨に従いませんでした.マスクをしていないからといって,怒鳴られるようなことはありませんでした.
スウェーデンでは,ワクチン接種に関する大きな議論もありません.スウェーデンでは,ワクチン接種は完全に任意です.16歳以上の人口の約80%が完全にワクチンを接種しています.最も被害を受けやすい集団は約95%となっています.
パンデミックに対するスウェーデンのアプローチは成功だったのか,失敗だったのか.スウェーデン人はどう考えているのでしょうか.
最近の調査によると,18歳から79歳までのスウェーデン人の51%が,スウェーデンのパンデミック対策に高い信頼を寄せています.これは1年の間に着実に増加しています.封鎖されずに済んだことに,人々はかなり満足しているようです.
しかし,これを成功と呼ぶのか失敗と呼ぶのか.まだ審査が終わっていないという感じがします.国(公衆衛生庁)の疫学者であるアンダース・テグネル氏に話を聞いたところ,彼は「胸を張れる状況ではない」と考えているようです.
死亡率の統計を見ると,ノルウェー,フィンランド,デンマークに比べて,スウェーデンはかなり悪い結果となっています.パンデミックにより,老人ホームでのケアの弱さが浮き彫りになりました.しかし,他の多くのヨーロッパ諸国と比較すると,スウェーデンは同程度かそれ以上の成果を上げており,それほど悪くはありません.
スウェーデンのパンデミック対策から得られた興味深い知見は何ですか?
2つは,学校とレストランです.
スウェーデンでは,ほとんどの学校を開放していました.ほとんどの学校を閉鎖したフィンランドとの間で,学校での感染率を比較調査しました.その結果,学校の閉鎖は感染率に大きな影響を与えないことがわかりました.
公務員が学校閉鎖を決定する際に重くのしかかったのは,2015年の難民問題による新住民の割合が高かったことです.このような子供たちが,国や言語に慣れることで損をすることを避けたかったのです.
テグネル氏によると,スウェーデンではレストランは大きな感染場所ではありませんでした.レストランは営業していましたが,公衆衛生局がパーティーごとの人数を制限し,バーサービスを閉鎖していました.でも,レストランにはいつも人がいました.街にはいつも人がいました.
テグネル氏によると,最大の感染経路は家庭と職場だそうです.これらの場所が感染の20〜30%を占めています.10%は地下鉄などの公共の場でした.
スウェーデンが規制を解除したときの雰囲気はどうでしたか?
人々は,冬の間閉じ込められていた牛が春になって野原に戻される「コスレップ」(「牛の解放」)のようなものだと思っていました.一部の地域では,そのような状況でした.週末には,ヨーテボリの酔っぱらい収容所が定員オーバーになったとの報道がありました.また,あるコラムニストは,ストックホルムの街中に広がる嘔吐物の斑点を「エイリアン」のワンシーンに例えていました.
ほとんどの人は,これまでずっとある程度の付き合いをしてきた.しかし,今ではレストランやバー,ナイトクラブでバーサービスが再開されています.劇場やオペラもオープンしました.
高齢者にとっては本当に大変なことです.これまでのように,比較的自由な形での出会いがなかったのです.今では,彼らにとっても通常の生活に戻りつつあるように感じられます.