新型コロナの感染を抑えるための切り札,ワクチン.
世界中が予想したよりずっと早く開発が進み,感染予防効果/重篤化阻止効果が高く,副反応が少ないワクチンが提供され,新型コロナによるパンデミックの出口の光が見えてきました.
しかし,感染力が強い変異株が,その光を遠ざけています.
ワクチン接種が進んだイギリスやイスラエルでも,主としてワクチン非接種者間でのデルタ株による感染拡大に見舞われ,死者も増加しはじめています.
「接種70%でも集団免疫は困難」(尾身政府分科会会長).
一方の日本.今まで経験したことのない感染爆発に見舞われはじめています.
ワクチン接種が進めば感染爆発はないとなぜか考えてしまった管首相以下政府首脳部の責任は重大.
確かにワクチンのおかげで,高齢者の感染は抑えられています.そして,接種を更に加速することで,感染者を一人でも減らし,特に40-50代の重症化リスクの高い人への感染を抑えることは必須です.
しかし,残念ながら,一旦始まってしまった感染爆発自体は,ワクチンでは抑えられません.
「今は,とにかく,人と人との接触を減らすことが必要で,一人一人の努力はもちろんなんですけど,社会の中でシステムとして皆さんが接触を減らせる状況をつくっていくことが必要と考えています」(西浦京都大学教授)
以下,改めて,ワクチン接種先行国での感染増大の様子を日本と比較してみました.(「接種70%でも集団免疫は困難」とするエビデンスの一つと言っていいかと思います.)
データは
COVID-19 Data Explorer - Our World in Data から.
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ワクチン接種で最も先行したのがイスラエル.
第二グループがイギリス,アメリカ(ただし,アメリカは接種が鈍化).
第三グループはEU諸国とカナダ.
日本の接種本格化は5月で,EU諸国に遅れること約3ヶ月.急速に接種を進めていますが,今でも1ヶ月以上は遅れています.
日本の現在の接種レベルに到達したのは,イスラエルが2月半ば,イギリス・アメリカが5月10日前後,EU諸国とカナダが6月半ばすぎ.
イスラエルの132回/100人は,「16歳以上の80%が2回接種」に相当するそうです.
日本の当面の目標も,この辺りの数字になるでしょうか.現在はイスラエルの60%.かなり頑張ったとも言えますが,デルタ株の感染増大には間に合いませんでした.そして,オリンピックにも.
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ワクチン接種が進むにつれ,ワクチン接種先行国では,感染が抑えられたように見えます.しかし,ワクチン接種はロックダウンを含む人との接触を抑制する施策のもとで行われました.従って,この感染抑制にワクチンがどの程度関与しているかはよく分かっていません.
そして,ワクチンがかなり行き渡った後,制限措置を解除していった国(スペイン,イギリス,イスラエル,フランス,アメリカ)では,再び感染拡大が起こりはじめました.
規制措置を緩和していったイギリス等の国々では,8月5日時点でも,日本の3〜4倍の感染者が報告され,「ワクチン接種先行国」といえども,現在のワクチン接種率では感染の波を抑えきれないことがわかります.
(欧米と比べるとかなり感染者が少ない段階で,日本の医療は逼迫してしまいます)
(ドイツがどのような措置を取って感染を抑え続けているのか?是非知りたいものです)
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ワクチンは感染者の重篤化を防ぐ効果がとても高いことが知られています.感染が拡大していったワクチン接種先行国では,はじめ死者はほとんど見られなくなったとも言われていました.
実際,ロックダウン+ワクチンで,死者はほとんど抑制されたように見えます.
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しかし,グラフを7月以降に限定して,拡大された図を見ると---
スペイン,アメリカ,イギリス.そして.フランス,イスラエルなど,
感染が再び拡大した国々では,感染拡大から遅れて,死者数も増加してきます.
日本の第4波での死者のピークは,人口100万人あたり0.9人/1日 でした.
スペイン,アメリカ,イギリスではその数を既に大幅に上回っています.
イスラエル,フランスは,日本のピーク時の死者数に近づきつつある.
接種率が接種先行国の60%の日本.今後死亡者の増加が見られるであろうと容易に予告できます.残念ながら.
どの程度の増加で済むかは,「人と人との接触の機会」をどの程度減らすことができるか,にかかっています.
もちろん,死亡者を極力減らすためにはワクチン接種の加速も必要です.しかし,これから接種を受け始めても,免疫がでるまに時間を要します.その前に感染拡大をなんとしても抑える必要があります.