クヌギ (櫟・橡・櫪・椚・椢)/ ツルバミ 子供の頃拾ったドングリは,ほとんどコナラ.どこにでもあるとされているクヌギは,私の狭い活動範囲では見られませんでした.しかし,狭義のドングリはクヌギの実を意味します.染料,食用,糊料,薪炭,シイタケ培養原木と用途の広いクヌギは広葉樹の代表選手ですね.万葉集では衣服の色または染料としてのクヌギ=ツルバミが詠われています.紅は うつろふものぞ 橡の なれにし来ぬに なほしかめやも  大伴家持 

ドングリの季節ですね.

私が子供の頃拾ったドングリは,ほとんどコナラ.当時は,植物名は知らず,これこそドングリだと思い込んでいましたが.

 

どこにでもあるとされているクヌギは,子供の頃の狭い活動範囲には見られず.

マテバシイは遠くのお寺の境内にあることを知っていたので,特別な場合だけ拾いに行った覚えがあります.

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どんぐりの種類 ちいさな森のドングリ屋さん

 

辞書でドングリを引くと,「狭義にはクヌギ」とあります.クヌギがナラ属植物の代表ということでしょうか?大きくて丸い実がドングリらしい形と思われたからでしょうか?

今でこそ漢字は「団栗」が一般的ですが,「橡」または「橡実」も用いられていたようです.

 

日本国語大辞典 団栗・橡とは - コトバンク

どんぐり[団栗・橡]

ブナ科のカシ、クヌギ、ナラ、カシワ など、ナラ属の果実の総称。狭義にはクヌギの果実をさす。
褐色の堅い果皮をもつ堅果で、下半部は椀状の殻斗(かくと)に包まれている。澱粉質に富むが一般には渋味が強くそのままでは食べられない。採取や保存の容易さなどで古代は重要な食料であった。《季・秋》
※康頼本草(1379‐91頃)本草木部下品之集「橡実 味苦微温无毒〈略〉又和止ン久利」
 
「橡」はクヌギを意味する漢字.
もっとも,クヌギを意味する漢字はとても沢山あるようですが.
 
そしてクヌギは用途も広い.染料,食用,糊料,薪炭,シイタケ培養原木.
日本の広葉樹の代表といってもいいようですね.
 

くぬぎ【櫟・橡・櫪・椚・椢】

日本国語大辞典   櫟・橡・櫪・椚・椢とは - コトバンク

ブナ科の落葉高木。本州、四国、九州の山野に生え植林もされる。

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樹皮は染料に用いられ、種子は食用または糊料に、材は薪炭用および、シイタケの培養原木に使われる。漢名、櫟・橡。くにぎ。ふしまき。かたぎ。ふしくれぼく。つるばみ。

 

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クヌギ(椚) - 庭木図鑑 植木ペディア

 

クヌギ万葉集にも詠われています.「橡 つるばみ」として.

たのしい万葉集: 橡(つるばみ)を詠んだ歌

 

ただし,「万葉集にも詠われている」というのは正確ではないかもしれません.

たしかに「橡 つるばみ」はクヌギの古名なのですが,ドングリの実または殻斗(うけ)からとった植物染料の名前でもあります.

 

橡 つるばみ

ニッポニカ   橡とは - コトバンク

植物染料の一種。またその色名。橡はクヌギ(ブナ科の落葉高木)の古名で、その実(どんぐり)を砕いたものまたは実の殻斗(うけ)(傘形のもの)を煎(せん)じ、灰汁(あく)媒染して薄茶色、鉄媒染して焦げ茶色や黒色に染める。

 

つるばみ【橡】 (古くは「つるはみ」)

日本国語大辞典    橡とは - コトバンク

① 団栗(どんぐり)の古称。《季・夏》¥

② 団栗の梂(かさ)を煮た汁で染めた色。媒染液によって色相が異なり、白橡、赤橡、青橡、黒橡などがある。また、その色の衣。

(イ) 古代では、身分の卑しい人の着る衣服の色。

(ロ) 平安中期頃から、四位以上の人が着用する袍(ほう)の色。

(ハ) 藤衣(ふじごろも)の色。喪服の色。墨染めの色。

 

万葉集で詠われているのは,衣服の色または染料としての(つるばみ: 万葉仮名では都流波美と表記されています)と言った方が正確かもしれません.

 

紅は うつろふものぞ 橡の なれにし来ぬに なほしかめやも 

大伴家持    万葉集  巻十八  4109

紅(くれない)は、うつろふものぞ、橡(つるばみ)の、なれにし来ぬに、なほしかめやも

 

意味

たのしい万葉集 https://art-tags.net/manyo/eighteen/m4109.html

紅(くれない)で染めた衣はきれいでしょうが、色があせやすいものです。(つるばみ)で染めた衣は地味でも慣れ親しんでいるので、やはり良いものですよ。