花(桜)散る,散る花(桜)を詠んだ短歌  わが家の前の桜は,かなり遅く咲き始めたのですが,もう散り始めました.桜は散っている姿も,歌に詠まれてきました. 散る花も又来む春は見もやせむやがて別れし人ぞ恋しき 菅原孝標娘  夜もすがら石に触れつつ花散るとこころしづもりいぬるこの夜も 斉藤史  てのひらをくぼめて待てば青空の見えぬ傷より花こぼれ来る 大西民子  散るという飛翔のかたち花びらはふと微笑んで枝を離れる 俵万智  

今日は久しぶりに真っ青な空でした.暖かさも加わって,4月でもないのに,春真っ盛りの印象があります.

わが家では,チューリップが開花.今年はすこし変わり種,フリンジ咲きです.

 

昨年から咲いているビオラ.桜が散るとともにビオラも終わりますが,鉢一杯になって見頃といえ見頃.

正月から楽しませてもらったシクラメンも最後の花になりますが,まだまだ楽しめます.

 

桜も楽しんでいます.ただし,前のお宅に植えられているものですが.鎌倉の中では遅く咲いたので,満開をややすぎて,散り始めたところです.

 

夕方に出かけた妙本寺の桜は,とても早く咲き始めたので,現在はほぼ散ってしまいました.

 

桜は,咲いているときだけではなく,散っている姿も,歌に詠まれてきました.

今日は,そんな「散る桜」を詠った短歌を,古今短歌歳時記(鳥居正博)より集めてみました.

なお,続けて,昨年集めた「桜」を詠んだ歌を,再度掲載しておきます.

 

 

花(桜)散る,散る花(桜)を詠んだ短歌

 

桜花時は過ぎねど見る人の恋の盛りと今し散るらむ  作者未詳 万葉集十・一八五五

(桜の花は,未だ盛りの時を過ぎないが,見ている人の,花に焦がれている頂上だから,散るのに良いときだ.今こそと,それで散るのであろう. 折口信夫

 

 

久方のひかりのどけき春の日にしづ心なく花の散るらむ  紀友則 古今集・春下

 

 

散る花も又来む春は見もやせむやがて別れし人ぞ恋しき  菅原孝標娘  更級日記

(散っていく桜の花もまた春がくると見ることができるだろう。しかし死に別れたあの人とはもう会うことができない。悲しく恋しいことだ https://tanka-textbook.com/chiruhanamo/

 

 

吉野山やがて出でじと思ふ身を花散りなばと人や待つらむ  西行 山家集・上春/新古今集巻一七

吉野山からもう出ることなく修行をしようと思っている私だが、桜の花が散れば戻ってくるだろうと都にいる親しい人は私を待っているのだろうか. https://tanka-textbook.com/yoshinoyama/

 

 

ちる花に小雨ふる日の風ぬるしこの夕暮れを琴柱(ことじ)はづさむ  山川登美子  恋衣―白百合

 

 

春の花はものぞなつかしはらはらと大殿油(おほとなぶら)に桜散れるも  石川啄木 啄木歌集・拾遺

(大殿油:宮中や貴族の寝殿で用いる、油でともす灯火)

 

 

花散りかひ痛むところある身にふれておぞ毛たつまでうつくしき風  五島美代子 花激つ

 

 

夜もすがら石に触れつつ花散るとこころしづもりいぬるこの夜も  斉藤史 うたのゆくへ

 

 

てのひらをくぼめて待てば青空の見えぬ傷より花こぼれ来る  大西民子 無数の耳

 

 

光塵となりて散りくる花つぶて額に受けつつ仰ぎゐるなり  益永典子 花つぶて

 

 

散るという飛翔のかたち花びらはふと微笑んで枝を離れる  俵万智 かぜのてのひら

 

 

桜を詠んだ短歌

あしひきの山桜花日並べてかく咲きたらばいと恋ひめやも

山部赤人 (第8巻 1425)

(山の桜の花が,幾日も続いて,こういう風に咲いていてくれるのなら,そんなに甚く(いたく:ひどく),桜の花に焦がれはするものか(早く散るから,焦がれるのだ.)折口信夫

 

我が背子が 古き垣内の 桜花 いまだ含めり 一目見に来ね

大友家持 万葉集第一八巻 四〇七七

(あなたの以前の屋敷内の桜が,まだ莟んで(つぼんで)います.せめて一目,見にいらっしゃい.折口信夫

 

今日の為と思ひて標(し)めしあしひきの峰(お)の上(え)の桜かく咲きにけり

大伴家持  万葉集・一九・四一五一  

 

世の中にたえてさくらのなかりせば春の心はのどけからまし

在原業平 古今集・春上・五三

 

さくら花ちりぬる風のなごりには水なきそらに波ぞ立ちける

紀貫之 古今集・春下・八九 

 

春深み嵐の山の桜ばな咲くと見し間に散りにけるかな

源実朝 金槐集・春・八二

 

さくほどの光りとなりてうすうすと霞あひたるこずゑの桜

太田水穂 冬菜

 

ひとひろに青みを帯びて咲く桜夕べとなりて見通す街に

近藤芳美 埃吹く街

 

さくら花幾春かけて老いゆかん身に水流の音ひびくなり

馬場あき子 桜花伝承

 

桜花ちれちるちりてゆく下の笑いが濡れているゆうまぐれ

佐佐木幸綱 群黎