ほたるぶくろを詠んだ短歌  おんめさまにホタルブクロが咲いています.別名ほたるばな.つりがねそう.とうろうばな.ちょうちんばな.戦前の短歌では釣鐘草と詠まれています.みちのくに穉(いとけな)くしてかなしみし釣鐘草の花を摘みたり 斎藤茂吉  むらさきに梅雨の雨間をあざやけしあら草むらのほたるぶくろの花 宮柊二  蛍ぶくろの花ほうと吹き生けむとす若かりし母のなしし如くに 大西民子   しとしとと空の濁りはしたたりて蛍ぶくろの花序につらなる 道浦母都子

おんめさま(鎌倉大巧寺)にホタルブクロが咲いています.

 

ただ,楽しみにしていた,八重のどくだみの中の花は一株だけでしたが.

二年前のおんめさまの画像では,このように絶妙のバランスで咲いていたのですが---

f:id:yachikusakusaki:20210531221056j:plain

蛍の季節に咲くホタルブクロ.姿も名前もとても美しい花です.

(ちなみに,今年の蛍の出現のピークは西日本で5月中旬~下旬、東日本で5月中旬~6月上旬、北日本で6月中旬~8月上旬と予想されています

https://travel.watch.impress.co.jp/docs/news/1495095.html

 

ホタルブクロについては,この二年前の画像を載せたブログで,書くべきことは書いてしまった感があります.

https://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2021/06/03/235240

https://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2021/06/04/235836

以下は,ほぼ同じ内容を再掲し,最後に載せるの短歌の数をだけは,大幅に増やしてお届けします.

 

ホタルブクロは,カンパニュラ属

ホタルブクロは,キキョウ目 Campanulales,キキョウ科 Campanulaceae,ホタルブクロ属 Campanulaの植物.学名はCampanula punctataです.

https://www.semanticscholar.org/paper/Phylogeny-of-Campanulaceae-S.-Str.-Inferred-from-of-Eddie-Shulkina/bdbc24565df4c8e716932c18ab6ccc8dafd60531

ホタルブクロ属の学名Campanulaカンパニュラは,「鐘」を意味するラテン語に由来しています.

英語では,属の植物全般をBellflowerと呼んでいます.例えばホタルブクロはSpotted Bellflower.斑点のあるベルフラワーと言うことでしょうか.

日本のフラワーショップで売られている“カンパニュラ”は,多くの場合 C. medium(和名フウリンソウ)になります.

Campanula medium - Wikipedia

f:id:yachikusakusaki:20210604235819j:plain

 

ホタルブクロという名称

「蛍を入れて遊んだため」とか,「蛍は“火垂る”でもとは提灯の意」とか言われていますが---.「遊んだ」という説は眉唾のように感じますし,提灯説もあまり当てになりません.

とはいえ,蛍が飛び交う季節に咲く花の名前としてはとてもいい名前です.しかし,この名称が一般化したのは,比較的最近と思われます.

ざっと調べた範囲では,少なくとも江戸時代以前にはこの名前はあまり使われていなかったようです.

例えば,

 語源辞典の類は語源説の例示のみで使用年代の記載はなし.

 日本国語大辞典では,日本植物名彙(1884)に記載例があるとのこと(https://kotobank.jp/word/蛍袋-630408

 大辞林は季語の例として草田男の句を例示しています.《季 夏》「宵月を蛍袋の花で指す/草田男」(後述のようにこの歌は1953年)

 

鳥居正博「古今和歌歳時記」(教育社)では「釣鐘草・蛍袋」を一つの項目として掲げ

(抜粋)

----古歌では,両呼称(釣鐘草と蛍袋)とも所見がない.---

江戸期の『毛吹草(けぶきぐさ)』(1645刊)以下六月の季として挙げており,椎本(しいのもと)才麿(さいまろ)(1656〜1738)に「咲く花はつりがね草か野中寺」(才麿発句抜粋,1785刊)があり,中村草田男の『銀河依然』(1953年)に「宵月を蛍袋の花で指す」もみえる.仲夏の季語.近現代短歌によく詠まれる.

とあります.

その後に,「釣鐘草・蛍袋」をうたった和歌が例示されるのですが---

与謝野晶子斎藤茂吉から原阿佐緒に到る和歌は,全て「釣鐘草」が詠われています.

一方,1951年の若山喜志子の和歌以降は,全て「ほたるぶくろ」.

 

少なくとも,和歌・俳句の世界では「蛍袋/ほたるぶくろ」は,戦後使われるようになった名称と言えそうです.

日本国語大辞典では,別名として「ほたるばな.つりがねそう.とうろうばな.ちょうちんばな」をあげています.多くの場合,これらの名称で呼ばれてきたこの花が,現在は一般的にホタルブクロと呼ばれるようになったと考えるのが妥当のように思います.

 

釣鐘草・蛍袋を詠んだ歌

(古今短歌歳時記より)

 

風吹けばはなればなれに草うごくつりがね草はあぢきなきかな  与謝野晶子 朱葉集

 

みちのくに穉(いとけな)くしてかなしみし釣鐘草の花を摘みたり  斎藤茂吉 つゆもじ

 

青芒(すすき)しげれるひまゆむらさきのはつはつ見ゆる釣鐘草の花  原阿佐緒 白木槿

 

草土手の風に吹かれて幼等とほたつぶくろの花探しきそふ  若山喜志子 芽ぶき柳

 

むらさきに梅雨の雨間をあざやけしあら草むらのほたるぶくろの花  宮柊二 多く夜の歌

 

蛍ぶくろの花ほうと吹き生けむとす若かりし母のなしし如くに  大西民子 印度の果実

 

しとしとと空の濁りはしたたりて蛍ぶくろの花序につらなる  道浦母都子 風の婚