鎌倉は今日も曇り空で,夕方からは雨.
春とは思えない寒い日が続いていますが,植物の季節の営みを乱すほどではありません.晩春の花たち,藤,つつじは続々と咲き始めています.
一方,この季節にたくさん咲いているのに見逃されている花が沢山あります.
色もなく目につかない木々の花も多いのですが---
気づいてはいてもなかなか花とは思わない花もあります.
例えば松の花.
「松の茶色い芽」という感じで見ていませんか?(多分,これは,私だけかもしれませんね.)
鎌倉本覚寺で撮った写真ですが,松の花は,よく見るとなかなか美しい姿をしていて,元気をもらえる花です.
本覚寺の隣の松はまだ緑色でした.未成熟の花.蕾と呼んで良いのでしょうか.
花のつくりについては,中学生用の「裸子植物の花」の教材としてネット上に沢山アップされています.
例えば
マツの花と種子【7年生・理科】 | 豊富小中学校 | 姫路市立学校園ホームページ
根元の茶色の部分を「雄花(おばな)」、先端の赤色の部分を「雌花(めばな)」といいます。しかし、アブラナやツツジ、タンポポのように、「花弁」や「がく」はどこにも見当たりません.
雄花は、うろこのような「りん片(りんぺん)」が多数集まったつくりをしています。雄花のりん片には「花粉のう」という袋があり、中には花粉が入っています。
うろこのような「りん片(りんぺん)」が多数集まったつくりをしています。りん片には「子房」がなく「胚珠」がむきだしでついています。
( NHKは受粉の仕組みを動画にして紹介しています.マツの雄花と雌花-中学 | NHK for School )
松は,古代から日本人にとって特別な植物でもあり,また愛されてきた植物で,万葉集にも詠まれています.
https://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2016/11/30/023010
磐白(いはしろ)の浜松が枝(え)を引き結びま幸(さき)くあらばまた帰り見む
有間皇子 (巻二 一四一)
(自分はかかる身の上で磐代まで来たが,いま浜の松の枝を結んで幸を祈って行く.幸いに無事であることが出来たら,ふたたびこの結び松をかえりみよう)
巻向(まきむく)の檜原(ひはら)もいまだ雲居(くもゐ)ねば小松(こまつ)が末(うれ)ゆ沫雪(あわゆき)流(なが)る 柿本人麻呂歌集 (巻十 二三一四)
(その檜原に未だ雨雲が掛かっていないのに,近くの松の梢にもう雪が降ってくる)
山田卓三「万葉植物つれづれ(大悠社)」:
松と言えばふつうはクロマツとアカマツをさし,万葉集には松を詠んだ歌が80首近くあります.海岸や松原を詠んだものはすべてクロマツです.----
松は常緑で,炎暑や風雪にも耐えて一年中その濃い緑色を保つので,古代から神聖・霊性の木,すなわち神の憑り代(依り代 よりしろ 祭りにあたって神霊が依りつくもの)とされてきており,現在の門松もこの意味で飾られます.また,長寿,普遍,節操の象徴にもなっています.なお,クロマツを雄松オマツ,アカマツを雌松メマツと言いますが,これはその性状からつけられたもので,いずれも雌雄同株です.
では,松の花も短歌に詠まれているのでしょうか?
古今短歌歳時記(鳥居正博 教育社)をみると---
万葉集にも,後の勅撰和歌集,さらには明治以降も,数は多くないものの,しっかり詠まれていました!
「松は百年に一度,千年に十度花を咲かすと伝えられるところから『十返りの松』と呼んで,長寿を祝う言葉によく用いられて古歌に度々出てくる」(古今和歌歳時記)とのこと.
近代の和歌では,松の花が伸びている様子や花粉がこぼれる様子まで詠われています.
松の花花数にしもわが背子が思へらなくにもとな咲きつつ (万葉集・一七・三九四二) 平群氏郎女(へぐりうじのいらつめ)
松の花十かへりさける君が代になにを争ふ鶴の齢(よはい)ぞ (新後撰集・賀・一五七一) 藤原基俊
うす曇る空に並み立つ松の花伸び急ぐ日を我らも忙(せは)し (卓上の灯) 窪田空穂
庭に見るつつじ山吹あかるくてさびしくもあるかこの松の花 (くろ土) 若山牧水
微かに松の花粉こぼるる夕まぐれまた逢はむ日の思ほゆるなり (まぼろしの椅子) 大西民子