散歩がてら,早足で鎌倉の街の花々を見て回った5月末の日.
https://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2021/05/30/235722
https://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2021/05/31/222103
最も美しいと感じたのは,おんめさま(大巧寺)のホタルブクロと八重花ドクダミ.
見事にアレンジされていて感心しました.
ホタルブクロ.
いい名前です.花もなかなか趣がありますが,初めてお目にかかった時,蛍袋という名前により引かれた記憶があります.
「蛍を入れて遊んだため」とか,「蛍は“火垂る”でもとは提灯の意」とか言われています.
「遊んだ」という説は,眉唾のように感じますが,蛍が飛び交う時期に花を咲かせます.おんめさまでホタルブクロに出会った同じ日,友人から窓に止まった蛍の動画が送られてきました.
「蛍袋」がお似合いです.
しかし,いつ頃から蛍袋と呼ばれていたのか?
今のところ調べきれていません.
語源辞典の類は語源のみで使用年代の記載はなし.
(「例文で初期の使用例を提示してくれている日本国語大辞典には例文なし.」と書いてしまいましたが---)
日本植物名彙(1884)に記載例があるとのこと(日本国語大辞典)
大辞林は季語の例として草田男の句を例示していますが,初出というわけではなさそう..
《季 夏》「宵月を蛍袋の花で指す/草田男」
ただ,この句.もしかすると,季語として用いられた初期の句かもしれません.
鳥居正博「古今和歌歳時記」(教育社).和歌を集めていますが,各項目の前書きがとても役に立ち,ここには俳句も載せられることがあります.
「蛍袋」は「釣鐘草(つりがねそう)・蛍袋」として一つの項目にまとめられていますが,以下,抜粋すると:
釣鐘草・蛍袋
---
古歌では,両呼称とも所見がない.
江戸期の『毛吹草(けぶきぐさ)』(1645刊)以下六月の季として挙げており,椎本(しいのもと)才麿(さいまろ)(1656〜1738)に「咲く花はつりがね草か野中寺」(才麿発句抜粋,1785刊)があり,中村草田男の『銀河依然』(1953年)に「宵月を蛍袋の花で指す」もみえる.仲夏の季語.近現代短歌によく詠まれる.
とあります.
そしてその後に,「釣鐘草・蛍袋」をうたった和歌が例示されるのですが---
与謝野晶子,斎藤茂吉から原阿佐緒に到る和歌は,全て「釣鐘草」が詠われています.
一方,1951年の若山喜志子の和歌以降は,全て「ほたるぶくろ」.
少なくとも,和歌・俳句の世界では「蛍袋/ほたるぶくろ」は,戦後使われるようになった名称と言えそうです.
蛍ぶくろの花ほうと吹き生けむとす 若かりし母のなしし如くに 大西民子