柘榴(ざくろ)の花を詠んだ短歌  宝戒寺の庭に柘榴の花が咲いていました.他の花ではなかなか見られない朱色で,吉岡幸夫氏ははねず色のはねずを柘榴としています. 長かりしわが昏々(こんこん)を照らすごと柘榴は朱(あけ)の花に満ちたり 木俣修  つやつやと青きに交るくれなゐの柘榴の花よ雨はあがりて 千代国一  まなじりを上げておもえば短か夜を柘榴の花の散りつくす風 馬場あき子  力あるくれなゐを虚空(そら)に開くかな柘榴の花となるを得しかば 稲葉京子

今日は,昨日の寒い雨から一転して,暖かな晴れた1日.夕方散歩は,少し早めに出て,宝戒寺まで.

 

本殿横の柏槇は,いつ見ても立派です.

鎌倉の寺院に多い樹木.大きさでは建長寺円覚寺に及ばないものの,樹形の美しさではどこの木にも引けを取りません.今の時期,かわいらしい実をつけています.

 

銘木とされている無患子(むくろじ).かなり大きめの実が沢山落ちていました.

 

萩が芽ぶきの時期を迎えています.桜には黒い小さな実が.

 

今の時期,花は少ないものの,何種類かみつかります.

ハアザミとオオムラサキツユクサ

本堂前の水槽の睡蓮.

かなり沢山植えられている紫陽花ですが,開花していたのは一株のみ.見頃は二三週間後でしょうか.

今,沢山花を付けていたのは,柘榴(石榴 ザクロ).

柘榴の実は印象的な色・形をしていて,多くの物語が生まれています.

例えば,

ギリシャ神話では,(https://www.theoi.com/Flora2.html

神々の女王にして婚姻の神であり,母性・貞節をつかさどるヘーラーの聖なる果物.

また,地上から略奪されたペルセポネーは,この実を食べたために,一年のうち何ヶ月かは冥界で暮らさなければならなくなります

▽仏教では

「吉祥果」とされ,吉祥天の母である鬼子母神が手に持つ果実となっています(日本国語大辞典https://kotobank.jp/word/吉祥果-474567).鬼子母神ざくろには,怪しげで恐ろしげな説も流布していて,こちらがむしろ広まっていますが(http://www.maruka-ishikawa.co.jp/fruits/items005/zakuro.htm)---

これは,経典に書かれた鬼子母神の話(https://kotobank.jp/word/鬼子母神-50407)に,ざくろの連想を利用しておひれを付けたものと思われます.

 

柘榴の花も,実に劣らず特徴的で,この朱色は,他の花ではなかなか見られないのではないでしょうか.

「はねず(唐棣花、朱華、棠棣)色」という色の名前があります.

 

山吹のにほへる妹が唐棣花(はねず)色の赤裳(あかも)の姿夢に見えつつ  作者不詳 万葉集 巻11 2786

 

https://www.google.com/search?朱華色

「はねず」は多くの場合庭梅・庭桜を指すとされていますが,染織史家の吉岡幸雄氏は,「はねず」は柘榴のことで,「はねず色は,柘榴の花の色」という,説得力のある論を展開しています.https://yachikusaku saki.hatenablog.com/entry/2017/03/16/000258

 朱華(はねず)の色 - 染司よしおか工房だより  

 

多くの歌人が,柘榴の花,特に花の色に惹かれて歌を詠んでいます.

 

石榴/柘榴の花を詠んだ短歌

(古今短歌歳時記より)

 

隣人のさ庭にこごる朱(しゅ)のあけの柘榴のはなも咲くべくなりて  斎藤茂吉 つきかげ

 

長かりしわが昏々(こんこん)を照らすごと柘榴は朱(あけ)の花に満ちたり  木俣修 昏々明々

 

うながされやまぬ心ぞくれなゐにざくろ花散る頃となりにし  山本友一 万春

 

つやつやと青きに交るくれなゐの柘榴の花よ雨はあがりて  千代国一 陰のある道

 

まなじりを上げておもえば短か夜を柘榴の花の散りつくす風  馬場あき子 飛花抄

 

あかあかと花柘榴咲くわが内のかなしみあはく照らし合ひつつ  島田修二 東国黄昏

 

力あるくれなゐを虚空(そら)に開くかな柘榴の花となるを得しかば  稲葉京子 桜花の領

 

ざくろ流木のごとく夕暮るるわが父の背を明るませ降る  日高堯子 野の扉

 

 

https://ja.wikipedia.org/wiki/ミソハギ科