牡丹を詠んだ短歌 / 鎌倉浄妙寺の牡丹 浄妙寺で牡丹を見るのは初めて.種類の多さでは,どこにも引けを取らないのでは.特に奥の庭は,今の時期に咲く花々(白藤,躑躅等)が一緒に植えられ見応えがあり. わが春の二十(はたち)姿と打(うち)ぞ見ぬ底くれなゐのうす色牡丹 与謝野晶子(俵万智訳 紅の牡丹を見ればまさにわが二十の春の姿と思う) 牡丹花は咲き定まりて静かなり花の占めたる位置のたしかさ 木下利玄  七日八夜たましいかかぐるごとく咲き大き白牡丹脈うち散れり 川口美根子

昨日,鎌倉浄妙寺に,牡丹を見に出かけてきました.

予定としては,今日出かけるつもりだったのですが,天気予報は雨(大当たりでした).急遽,予定変更した次第.

鎌倉で牡丹といえば鶴岡八幡宮.昨年ブログでも取り上げました.

https://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2022/04/28/235554

 

浄妙寺で牡丹を見るのは初めて.

本堂向かって左手に,二つに分かれて植えられています.やや狭いところにギュッと植えられている感じですが,種類の多さでは,どこにも引けを取らないのでは.

特に奥の庭は,ボタンに加えて,今の時期に咲く花々(八重桜,ツツジ,ヤマブキ,コデマリ等)が,所狭しと多種類配置されていて,なかなか見応えがあり,

一番奥の白藤の香りが一面に立ちこめて,雰囲気を高めてくれていました.

 

 

牡丹は中国原産で,古くから牡丹皮の薬効で知られていました.

(「血中の熱をさまして活かす作用」「消炎、止血、鎮痛などに効果があり」「頭通,ニキビ,腹痛,痔疾,更年期障害不眠症など幅広い疾病に用いられている  ボタンピ(牡丹皮) タケダの生薬・漢方薬事典 | タケダ健康サイト  )

観賞用に尊ばれるようになったのは唐代で,「花王」と称されました.ちなみに芍薬は「花相」日本国語大辞典

https://kotobank.jp/word/牡丹-628175

https://kotobank.jp/word/芍薬-524984

日本には平安期には栽培され,枕草子にも記載があるものの,寺院,庭園に植えられるようになったのは鎌倉,室町時代とのこと.(ニッポニカ)

https://kotobank.jp/word/ボタン%28牡丹%29-133353

中国で唐代に熱狂的なブームがあったように,

( 白居易(772〜846)「花開き花落つること二十日,一城の人皆狂へる如し」)

日本でも江戸元禄期に上方を中心にブームがあったことが知られています.

ただし,当時の記録にある数多くの品種は,ほとんど残っておらず,現在の栽培種はその後作出されたり移入されてきたものとのこと.ボタンとは - 育て方図鑑 | みんなの趣味の園芸 NHK出版 

 

なお,牡丹の名前は,枕草子にも記述がありますが,古名として「深見草」があり,平安後期〜江戸時代の短歌では,この名前が使われています.和名抄の間違いが定着してしまったとのことですが---

日本国語大辞典

深見草[語誌](1)「本草和名」に「牡丹〈略〉和名布加美久佐」とあるが、「箋注和名抄‐一〇」によれば、この「牡丹」はもともとの「本草」では「藪立花」「藪柑子」のことで、観賞用の牡丹とは別物であるのに、「和名抄」が誤って花に挙げたために、以後すべて「ふかみぐさ」は観賞用の牡丹として歌に詠まれるようになったという。

(2)和歌では「思ふ心」や「なげき」が「深まる」意を掛け、また「籬(まがき)」や「庭」とともに詠まれることが多い。

 

牡丹(深見草)を詠った短歌

(古今短歌和歌集,俵万智訳みだれ髪 より)

 

人しれずおもふこころはふかみぐさ花さきてこそ色にいでけれ  賀茂重保 千載集

 

夏木立庭の野すぢの石のうへにみちて色こきふかみ草かな  慈円 夫木抄

 

くれなゐの光をはなつから草の牡丹の花は花のおほきみ  正岡子規 竹の里歌

 

恋か血か牡丹に尽きし春のおもひとのゐの宵のひとり歌なき  与謝野晶子 みだれ髪

俵万智訳  恋か血か牡丹を染める春の赤 宿直の我に歌を詠ませず)

(「とのい」は宿直:「殿居」の意で、宮中などにいること)

 

わが春の二十(はたち)姿と打(うち)ぞ見ぬ底くれなゐのうす色牡丹  与謝野晶子 みだれ髪

俵万智訳  紅の牡丹を見ればまさにわが二十の春の姿と思う)

 

近よりてわれは目守らむ白玉の牡丹の花のその自在心  斎藤茂吉 白き山

 

春昼(しゅんちゅう)の雨ふりこぼす薄らぐもややありて明る牡丹の花びら  北原白秋 橡

 

牡丹花は咲き定まりて静かなり花の占めたる位置のたしかさ  木下利玄 一路

 

むしあつく雨の晴れたる昼すぎに黒牡丹の花おもくしづまる  佐藤佐太郎 群丘

 

花びらを閉じてしづまる幾百の牡丹の上に月てりわたる  石黒清介 三月

 

七日八夜たましいかかぐるごとく咲き大き白牡丹脈うち散れり  川口美根子 双翔