鯉・緋鯉を詠んだ短歌  鎌倉滑川には鯉が生息し,市民に愛されています.鯉は日本人の身近な存在であり続け,縁起の良い魚として親しまれてきました. 宇治川の早瀬落ち舞ふ猟舟のかづきにちがふ鯉のむらまけ 西行  みなぞこにけぶる黒髪ぬしや誰れ緋鯉のせなに梅の花ちる 与謝野晶子  鯉こくにあらひにあきて焼かせたる鯉の味噌焼きうまかりにけり 若山牧水  佐久鯉の骨しゃぶりつつ思い出(い)ず鯉飼いて鯉を食べざりし父 道浦母都子  五月から五月への闇あまたなる真鯉緋鯉がたたまれて越ゆ 今野須美

先日,浄妙寺へ出かけた際,滑川で沢山の鯉を見かけました.

滑川は,鎌倉の中央部の川で,八幡宮をすぎてしばらくすると,金沢八景に抜ける県道202に沿って流れます.

光の加減かもしれませんが,やや赤みがかったもの.

付近の方々が散歩の途中に餌をやっている光景に,何回か出会いました.釣る人もほとんどなく,市民に愛されて大きく育っているようです.

このような状況は,鎌倉滑川に特有とは思えません.寺社・公園等の池だけではなく,全国の普通に流れている川にも沢山の鯉が繁殖していると考えてよいでしょう.

実際,街を流れる川が鯉釣り場として紹介されています(例えば神奈川県鶴見川 https://web.tsuribito.co.jp/suburb/koi-yokohama1606

 

一方,街の魚屋で,鯉を見ることはありません.

しかし,調べてみると,減少傾向にあるものの,しっかり養殖されています.淡水魚では,うなぎ,ます,あゆに次いで第4位の漁獲量.

https://www.maff.go.jp/j/tokei/kekka_gaiyou/gyogyou_seisan/gyogyou_yousyoku/r4/index.html

2019年のデータでは,茨城・福島・宮崎が生産量1〜3位.https://urahyoji.com/koi-yoshoku-inland/

一般の魚屋に出回ることなく,流通しているのでしょう.

鯉料理


世界に目を向けると,レンギョ(ハクレン,コクレン)を含めた鯉・鮒類が,淡水魚として最も食べられている魚です.

そして「鯉の生産量は中国が圧倒的に多く、生産量の約70%を占める」とのこと (https://en.wikipedia.org/wiki/Eurasian_carp

https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/r01_h/trend/1/t1_3_1.html

鲤鱼菜 中国菜

 

古今短歌歳時記(鳥居正博)によれば,

食用,そして鑑賞用にと,鯉は日本人の身近な存在であり続け,縁起の良い魚として親しまれてきました.

鯉のぼりを立てることは,現在でも端午の節句の代表的な風習.登竜門は「竜門の滝を越えた鯉が竜になる」との中国の故事(後漢書)から.---

土佐日記蜻蛉日記徒然草にも登場します.ただ,短歌に詠まれるようになったのは,古今六帖(983年?)以降とのこと.

 

鯉を詠んだ短歌

(古今短歌歳時記より)

 

宇治川の早瀬落ち舞ふ猟舟(れふぶね)のかづきにちがふ鯉のむらまけ  西行 山家集

 

世の中は淀のいけすのつなぎ鯉身もこころにもまかせやはする  藤原知家 新撰六帖

 

投げし麩の一つを囲みかたまり寄りおしこりおしもみ鯉の上に鯉  佐佐木信綱 瀬の音

 

みなぞこにけぶる黒髪ぬしや誰れ緋鯉のせなに梅の花ちる  与謝野晶子 みだれ髪

 

いづみよりつづける川に赤き鯉われにおどろくにごりをあげて  斎藤茂吉 石泉

 

鯉こくにあらひにあきて焼かせたる鯉の味噌焼きうまかりにけり  若山牧水 黒松

 

女童(めわらは)の髪がなめらかにひかる夜半緋の鯉は生きん今も古き井に  真鍋美恵子 雲熟れやまず

 

不意にこころは悲し雪降り入るふるさとの池に真鯉は生きむ  宮柊二 小紺珠

 

巨きなる鯉浮かびいで夢を吐くごとくあぎとひまた沈みゆく  岡野弘彦 天の鶴群

 

佐久鯉の骨しゃぶりつつ思い出(い)ず鯉飼いて鯉を食べざりし父  道浦母都子 風の婚

 

五月から五月への闇あまたなる真鯉緋鯉がたたまれて越ゆ  今野須美 世紀末の桃