ピーマンと日本の甘唐辛子たち 日本では江戸時代から「甘とうがらし」の品種改良に取り組んできました.現在のピーマンもその歴史と無縁ではない気がします./ 付表;唐辛子とピーマンの欧米でのネーミング

ピーマン・ししとう.

そして万願寺とうがらし・伏見甘長とうがらし:辛くないトウガラシたち

ピーマンは,いまや,夏野菜の代表,というより,1年を通してスーパーに並んでいる野菜.最近のものは苦みも少なく,食卓に欠かせない日本の野菜ですね.でも,昨日も書いたように

http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2017/09/09/011705

ピーマンはトウガラシと種として同じ!たまたま辛味成分カプサイシンを作らなくなったものを選別したもの.

 

ピーマンは外国(アメリカと言われています)から入ってきた(現在のピーマンがそのまま入ってきたわけではなさそうですが,その話は後ほど)ものですが,日本ではそれ以前から,辛味のないトウガラシをつくって来ました.

一番出回っているのがししとうがらし(獅子唐辛子 シシトウ).そして、京のブランド産品・万願寺唐辛子,京野菜の代表的品種・伏見甘長とうがらし.

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Capsicum annuum var.grossumとは - 植物図鑑 Weblio辞書 万願寺甘とう|公式ホームページ 伏見甘長とうがらし | 京丹波町観光協会

 

トウガラシは,「1542年にポルトガル人宣教師が大友義鎮に献上」との記録があるように,16世紀ポルトガルからとされています.唐辛子 - Wikiwand

 

その後の「甘とうがらし」の歴史を簡単にまとめてみましょう.

ピーマンも品種改良を日本で行った結果,現在の姿になったようです.

次のサイト記載事項をを中心にまとめます.野菜の種、いまむかし11/トウガラシ、シシトウ、ピーマン、パプリカの話 

 

伏見甘長唐辛子とシシトウ

トウガラシは日本に渡来してしばらくは辛い品種ばかりでした.現在の代表的品種タカノツメも江戸時代に生まれています.

やがて,「現在京野菜の代表格として著名な『伏見甘長唐辛子』が生まれ、シシトウの元祖と目される『田中』なども誕生しますが,これらの甘トウがいつ、どのようにして生まれたのか、はっきりしたことはわかりません」野菜の種、いまむかし11

伏見甘長は17世紀後半には既に有名になっていたとのことですから,それ以前に作られていたのでしょうね.

「田中とうがらしはししとうがらしともいって、唐獅子の口のような格好をしたとうがらしである。明治以前から田中村で作っていたが、辛すぎるものもあって大衆に受けず、おもに料理屋むけに作っていた。(中略)昭和初期から和歌山県に導入され、現在では全国的に産地が広がっている」野菜の種、いまむかし11

そして,全国で最も多くシシトウを作っている高知県南国市では新しい品種「葵ししとう」が主力とのこと.

(新しい高知県の産業情報では,シシトウについて,次のように紹介しています.現在の主力品種は「葵ししとう」ではなく,県独自の品種とのこと:

『冬春期にはハウス促成栽培、夏秋期には雨よけ・露地栽培の産地をリレーして周年生産し、全国一の出荷量があり、特に冬春期の生産量は全国の約80%を占めています。品種はハウス栽培を中心にした高知県独自の「土佐じしビューティ」「ししほまれ」などです』ししとう | こうちの青果・花 | 高知県園芸連 )

 

シシトウは京から離れて全国展開し,いまや,野菜売り場の常連ですね.伏見甘長は関東ではあまり見かけませんが,京野菜として有名.そして,次の万願寺唐辛子の親に当たる品種となっています.

 

万願寺唐辛子

万願寺唐辛子の誕生は,今からおよそ百年前の大正時代.京都舞鶴の嵯峨根ゆきのさんが栽培したのが始まりとのこと.「どの段階で原種が固定したのか、はっきりと分からないが、きっかけは『伏見とうがらし』と『カリフォルニア・ワンダー』を同じ畑に並べて植えたことで自然交雑した事だろう万願寺甘とう|公式ホームページ

カルフォルニア・ワンダーはアメリカの甘とうがらしの代表的品種.

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そして,万願寺唐辛子が京野菜ブランドとして有名になるのは最近のことで, 

「1989(平成元)年、京のふるさと産品協会より『京のブランド産品』第一号の認証」万願寺甘とう|公式ホームページ 登録の公示(登録番号第37号):農林水産省

関東地方でも時々見かけるようになっていますね.

 

ピーマン

「南米からヨーロッパに渡ったトウガラシの中から、18世紀になって、カプサイシンの発現量の少ない、辛くない品種が生まれました。やがてピーマンやパプリカの誕生につながる甘トウガラシ、スイートペッパーの誕生です」野菜の種、いまむかし11

「ピーマンの品種改良が最も進んだのはアメリカで、1828年にできた『カリフォルニアワンダー』は、肉厚の大果で、今でも固定種の「魁(さきがけ)」などにその血が受け継がれています」野菜の種、いまむかし11

「肉詰め料理などに使われていた肉厚ピーマンの果肉が、薄くて細身になったのは、F1時代になってからで、中国にあった獅子型ピーマンと交配したことによる変化と言われています」野菜の種、いまむかし11 

すなわち,現在収穫されているピーマンは,「母親品種の雄しべを蕾のうちに引き抜いて、残された雌しべに異品種の花粉を付けた」F1品種の種から育てられ,収穫されているんですね.日本のピーマンを外国で見かけることは少ないようです.日本の生産者の努力のたまものがピーマンであり,現在のピーマンがあるのは江戸時代から甘唐辛子の品種改良に取り組んできた歴史と無縁ではないような気がします.

なお,野菜の種、いまむかし11 には,F1品種を作りやすい「雄性不稔株」を用いた研究が盛んと書かれていました(2010年現在)が,現在はどうなっているのでしょうか.

 

ピーマンという名前はどこから?

甘とうがらしの1つであるピーマン.しかしその名前が外国では通用しないことは,ネット上でも沢山書かれています.

一番発音が似ているフランス語の「piment(ピマン)」がピーマンの語源としているサイトがほとんどですが,「piment」はトウガラシのこと.

そして,なぜ甘とうがらしピーマンのみをさすようになったのかについては,あやふやな説明しか見られません.(例えばピーマン - 語源由来辞典

その上,「piment」はスペイン語その他にも同じような言葉があるので,本当にフランス語由来かどうかは不明なような気もします.

(英語でも「piment」があります.意味はやや異なって「熟した香り高いトウガラシ」.これはスペイン語由来とのこと.)

語源の確定は,どのような言葉でも同じですが,なかなか難しいですね(ネット上の記事は,誰がどのような根拠で記しているかの説明がないので,鵜呑みにするのはとても危険な気がします.出版社ならば伝統的手法に従ってきっちり調べた責任ある記載であると信用できるのですが---)

 

ヨーロッパ系の言語で,甘とうがらしと唐辛子一般の名前をキチンと分けている言語はとても少ないようです(フランス語には甘とうがらしを指す「poivron」があるとのこと).

ネーミング辞典ピーマンの英語:ネーミング辞典に,加筆した形でトウガラシの欧米諸国での名前まとめてみました.括弧内に記したものが,甘とうがらし≒ピーマンを指します.日本のピーマンと同じものは出回っていないようですが---.

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「ビーマンの名前は,どこから?」:

私なりの暫定的な結論は,

フランス・スペイン・ポルトガルなどで使われているトウガラシのネーミングpimiento系の言葉に由来.なぜ甘唐辛子のみを指すようになったかは不明.

(要するに「はっきりしない」と言うことでしょうか?)

 

付記事項

 ・ビーマンは多くのサイトで明治期に入ってきていたとしています.どこからとは書いてありません.品種からするとアメリカからの可能性も大きい.だとすれば,英語のpimentがピーマンの名の由来かも?

 

スペイン語 pimientoはトウガラシ.pimientaがコショウ

 ⇒コロンブス(定説ではジェノバ出身)がスペイン語を使っていたとすれば,「トウガラシとコショウを間違えた」という言い伝えは,pepper系ではなくpimiento系の言葉に反映されている?

 

・pimientaはラテン語「色をつけた飲み物」⇐ラテン語染料pigmentum(=pigment) 

 pimento | Origin and history of pimento by Online Etymology Dictionary