「女、26歳、居酒屋勤務、結婚の予定なし。でも、“家”を買います」という沼腰幸(沼ちゃん 森川葵)は両親を亡くした東京に戻り,「まずは自分の人生をちゃんと自分で面倒みて誰かと生きるのはその後です」「今はとにかく捜すだけです.もっともっと歩きます」と一人家を探しをしています.
そんな幸の何もないアパート.そこには,謎の大家,実は高名な染織家の藤堂(渡辺美佐子)が雨漏りのお詫びにかけてくれたカーテンが美しくひるがえっています.
そして,夜通し染色した布を橋の欄干一杯に干した藤堂と幸.その美しさに呆然とただ見つめ,その後近づいて感触を確かめる幸.三つ編みを下ろした幸の髪も一緒にひるがえっているよう.
「あれ(欄干一杯に干した布)をね,おなかの子に見せてあげたいって思ったの.ねーまたいつかつくってくれると良いね」という妊婦の言葉に「そうやって楽しみを見つけられて,新しい場所を受け入れていくというか,きっと私も--.手に入れてからが勝負です」と幸.
女一人マンションを買うという日常を描く,でもちょっと不思議なストーリーを,美しくひるがえる沢山の布が覆っているような素敵なほのぼのとしたドラマでした.
彼女を支え,彼女の姿に逆に励まされる持井不動産の伊達さん(高橋一生),要さん(陽月華),奥田君(至尊淳),阿久津さん(舞羽美海),皆新しく前を向いて歩き出すシーンでお話が終わります.例えば,この物語のもう一人の主人公と言ってもいい伊達さんは,子どもの頃住んでいた街が過疎化で合併したという過去を持ち,初心に戻り街を営業から開発に移る決心をしました.
「終わらない歌」(ブルーハーツ)が最後を締めくくります.
登場人物が丁寧に描かれ,演じる方々皆がしっかり役を演じきったドラマでした.特に,「ゴメンね青春」以来私が気になっていた森川葵さん.様々な役柄に大胆に挑戦していると聞いています.このドラマも大切な挑戦の一つになっているのでは.どのような女優さんになっていくのか,これからますます楽しみです.
以下内容の一部を採録します.
第7回「旅人」2016.12.6
予告「ついに、幸(森川葵)の希望に見合った物件が見つかる。しかし伊達(高橋一生)たち持井不動産のスタッフはそこが、幸にとって悲しい思い出のある月島だったことから、提案をためらっていた。そんなとき幸は、いつも仕事帰り道に通るスナックの店先で、長身のホステス・ヨーコ(高山のえみ)と出会う。
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幸「今度はどこの街に行くんですか」ヨーコ「わからないけど何処かに戻ったりしないわ.歩いて行く方向しか見えないつくりになっているでしょう.人の体って.そこは神様が同じにつくってくれたから」「あのお名前は」「ヨー ヨウスケ ヨウスケっていうの」「ヨウスケさん いいお名前です」
挿入歌「東京」(くるり)
東京の街に出て来ました
あい変わらずわけの解らない事言ってます
恥ずかしい事ないように見えますか
駅でたまに昔の君が懐かしくなります
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(雨の中走り出す幸)幸「伊達さん」
(傘を差し出す伊達)幸「すみません.やっぱり月島の家は違いました」伊達「えっ」幸「早くお伝えしないと,迷惑がかかると思って.すみません.月島じゃダメなんです.戻るんじゃダメなんです」伊達「沼越様に一つお聞きしてもいいですか.沼越様のおっしゃっているずっと住み続けたい家とは」幸「買った家は売ったりしないという意味です.頑張って一生住み続けられるように」
(かすかにほほえみ)伊達「よかったです.沼越様は,前を向いていらっしゃるのが,一番,お似合いだと思います」
(軽く,でも,丁寧にお辞儀する幸)
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クッキー作りをする幸----クッキーを持って持井不動産ギャラリー受付に----
「水が苦手とおっしゃっていたので,伊達さんは魚です」
(軽く咳をして)「有り難うございます」「おいしいですよ」
(おそるおそる口にする伊達)(ホッとして喜ぶ幸)
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じんちゃんに伊達が来店 「伊達さん」
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「先日は頂いたクッキーのお礼もできずに,大変おいしゅうございました」
(ほほに手を当てながら)「いえ」
「それを言いに来て下さったのですか?」「いえ,MJウェストがそろそろ完売になります.つきましては,あのギャラリーを閉めることになります」
(やや呆然とした顔の幸)「沼越様にそれをお伝えにしに」
(なんと答えて良いか分からない幸)
最終回「生きる」
2016.
(家を捜して歩く幸の姿)
(映像は前回終了時の場面に戻って)
伊達「-----つきましては,あのギャラリーを閉めることになります」
(なんと答えて良いか分からない幸)
(思い返したように,頬に当てた手を下ろし,軽く微笑んで)幸「はい」
「つきましては,どこの勤務になるか分からないので,それまでに沼越様に--」
(手を前に出して遮り,穏やかな顔で)幸「有り難うございます.でも,焦りは禁物です.一人になっても家探しは続けられます.伊達さんに沢山のことを教えてもらいましたから」(真剣に見つめる伊達.お辞儀する幸)
(再び振り出しに戻った幸の家探し.ストップウォッチ手にして歩く幸)
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(幸に最適の物件のリスト作りに忙しい伊達)
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(家探しの途中,荷物を運ぶ売れっ子漫画家井川(木野花)の姿をみつけ,駈けよる幸)
井川「助かっちゃった,荷物運んでもらって」幸「いえ,このパラソルの下でお茶を飲めるだけで」「今日じんちゃんは?」「お休みです」「あそー.お休みの日って何しているの?」「いろいろな街を歩いて,家を捜しています」「へー家探しをね.私ね,この家を薦めてくれた人(注 伊達が初めて家を販売した相手が井川)をモデルに,今漫画書いてるの.その人ね,子どもの頃住んでた町が過疎化の影響で合併したって.それで,街をつくる仕事についた.ちょっと素敵じゃない」
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幸「でも楽しそうです」井川「そりゃね,楽しまなければ損ですもの.さてさて,一生この家を支えられるかしらねー」
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(持井不動産)奥田「まだ沼越様の物件探してるんですね」伊達「あまり時間もありませんので」奥田「ここが完売しても,伊達さん湾岸エリアだって本社の方に聞いてますけど」伊達「それは営業にいればの話ですね.もしかしたら,開発の方に戻るかもしれません」----「いつも遅くまでありがとう」(初めて優しい感謝の言葉をもらってびっくりする奥田)
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要「奥田君から聞きました」伊達「そうですか.奥田さんはまた,ぺらぺらと」「私に話したということは,間違いなく阿久津さんには筒抜けですよ」「あの二人そんな関係でしたか」「それはそうと要さん.また,うちのギャラリーで仕事をお願いすると思います.その時までに,宅建の資格だけは取っておいて下さい.人事に掛け合いやすくなりますので」(やや驚いて,次に深々頭を下げる要)
(立ち去りながら)「しかしあの二人いつの間にそんな関係に?」「意外と気にしている」
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夜,目を覚ました幸.外に出てみると,葉っぱで一杯の袋を肩に担いだ謎の大家藤堂要(実は染色の大家)の姿をみつけ,後を追う.
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(染色液から布を一気に引き出す藤堂.草緑色に染まった布.見つめる幸)(エンジに染まった布.目を輝かす幸)
(夜が明けてきて,橋の欄干に布を次々にかけていく幸と藤堂)(様々な色の布が一杯にかかった欄干を見つめる幸と藤堂.息をつく藤堂.美しさに目を見張る幸)
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(二人で楽しそうに会話する奥田と阿久津)「---(沼ちゃんが)物件情報誌,持って歩いて来てもわたし,驚かない」「まだ先やろうけど,僕らも家買うこと考えてみようか?」
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(風に揺れる桜色の布に駈けよって目を輝かす幸)
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(電話する要)「もしもしお母さん」「珍しい元気してんの?」「うん,ちょっと仕事も落ち着いたし,やっぱりかえろうと思う.」「ほんとに,うれしいわ」「まー帰ってもなんもすること無いんですけど」「それがいいのよ,何もしないでいられる場所なんやから」(涙顔になりながら)「そうかな」
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(二枚の布の間に立ち,感触を確かめるように触れながら顔を上げる幸)
(奥田の手をそっと握る阿久津.握り返す奥田.その肩に顔を預ける阿久津)
(涙をこらえて上を向き歩き出す要.手を上げ,さっそうと)
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(布の間で幸せを感じている幸)
「あれ,どうするんですか?」「最後はゴミになる.そいでもやっちまう」
(再び布を見る幸)(橋の上に妊婦.会釈する幸)
(幸のアパート)妊婦「どっかに運んでたけど作品か何か?」幸「私も何にも知らないんで」妊婦「私まだ全然不安なんだけど,あれをね,おなかの子に見せてあげたいって思ったの.ねーまたいつかつくってくれると良いね」幸「そうやって楽しみを見つけられて,新しい場所を受け入れていくというか,きっと私も--.手に入れてからが勝負です」
(うなずく妊婦)「手に入れてからが勝負」
(遠くを見つめる幸)
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(じんちゃんの前に立つ伊達)
(見つけた幸)「伊達さん」「ご無沙汰しております.その後沼越様のおうち探しはどうですか?」「沢山の街を歩いて,捜しています」「実はお持ちしたものがございまして.付箋を貼ってるのは全てうちの物件です.もしよかったら」「有り難うございます」「私も自分なりに今のベストを考えてみました.三年間という時間ですが,営業としてお客様と接してきました.それを生かして,次は街をつくる側に行こうと思っています.それまでの短い時間ですが,沼越様のお手伝いをさせて下さい」「沼越様が,新しいおうちで末永く暮らして下さることが,私の最高の喜びでございます」
(見つめ合う伊達と幸を交互に撮す)
(夜ベンチに座る要と幸)「名前で実印つくったのね,可愛らしい」「中森さんが女性は実印を名字でつくると面倒なこともあるからと」「あの人らしい.ちょっと押してもいい?」「はい」
(手に何回も押す要)「見て,幸せが一杯」幸「でも,ちょっと薄いような」要「あっ,幸が薄い.あーあー」
幸「うふふふふ」(幸満面の笑顔)
(イヤホンの一方を幸に渡す要)「いくわよ」
(前奏,二人でリズムを取って)「こうなるわよね」
終わらない歌を歌おう クソッタレの世界のため
終わらない歌を歌おう 全てのクズ共のために
終わらない歌を歌おう 僕や君や彼等のため
終わらない歌を歌おう 明日には笑えるように
世の中に冷たくされて 一人ボッチで泣いた夜
もうだめだと思うことは 今まで何度でもあった
真実の瞬間はいつも 死ぬ程こわいものだから
逃げだしたくなったことは 今まで何度もあった
なれあいは好きじゃないから 誤解されてもしょうがない
それでも僕は君のことを いつだって思い出すだろう
(二人で歯を磨く奥田と阿久津)
(講義する中森)「-----大事なのは他人の価値観ではなく,自分がどうしたいか」
颯爽と歩き,そして走り出す要.
家のドアにカギをかける伊達.
アパートにカギをかけ前をまっすぐ見て歩き出す幸.
(「終わらない歌」(ブルーハーツ)ここで終了)
幸,都庁方面のビルを見つめ,また歩き出す.